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とても雑な設定に歴史に詳しい読者様はイラッとされるでしょう。

園部家が巣鴨のどのあたりにあるのかは読者様にお任せしたいと思います。

「あの、班長さん。この空襲は焼夷弾が使われています。防空壕に入って避難している方が危険だと思って進言に来ました。壕から出て風上に避難しないと危険です」


「何を言ってるんですか?」


班長さんは首を傾げてしまった。


千颯は「あぁ、この人は軍からの発表しか事情が入っていないのだろうか……」と考えた。


「班長さん、私も千颯さんが言っていることの方が正しいように思うんです」


「園部さんまでそんなことを言うんですか? じゃあ俺たちは消火活動の手伝いに行った方が」


「おい千颯、下宿先の奥さんをあまり不安にさせないでくれ」


班長と一緒に行動する鈴木氏が二人そろって千颯を咎める。


「君も一緒に消し止めに行くぞ。訓練通りにやればすぐに火は消せるんだから」


鈴木氏が千颯を連れて行こうとする。


「いえ、駄目です。あの火事は無理なんです、消せないんです。それに……あの燃えている場所まできっとたどり着けません」


千颯は燃え広がりはじめている下町方面を指さして反論する。


「初期消火なら間に合うだろう! 何を消極的になっているんだ!」


鈴木さんは千颯が反発してきたことに驚き、顔を顰めて叱りつける。


「僕は視力が良いので見えているのですが、敵機は凡そ300機。大型の爆撃機の大編成が特殊な油を詰めた焼夷弾を大量に空からばら撒いて下町を燃やしているんです。今夜の空襲は住宅密集地が攻撃されていることが考えられます。防空壕に逃げ込んだら住宅の焼ける熱で蒸し焼きになって死んでしまうんです。これは公にはなっていないことですが、実際にあったことを僕は奉仕作業で知り合った新聞記者から聞かされたもので、焼夷弾がどんなものなのかは学校の引率教員から教えてもらえました。その時にみんなで対処法も検討したのです。『水をかけても火は消えない。壕に入るより火から離れること』として、生徒全員が共有しました。消せない火がどんどん空から降ってきて火災が増えて逃げ道がなくなります。消火のお手伝いにだって行こうとしても逃げてくる避難者が押し寄せてきて火元にたどり着くこともできないはずです。……もし、なにかも役に立ちたいということなら、逃げてきた人たちを安心して体を休める場所を開けておいたり、けがの手当てや水の確保をしておいたり、食べ物を提供するなどの、救護所を作って誘導するような感じです……。それも敵機からの攻撃が終わってからでないと……」


千颯は自分で思っていることを一気に喋り終えた。


「な、……なにを!」


「班長さん、鈴木さん。消火訓練を何度もしていて分かりますよね。あの火事を自分たちで消し止められるでしょうか……。消しても消しても空からどんどん火種が無数に落ちてきているんです。そのうち火に囲まれて焼け死んでしまうと思いませんか?……千颯さん、攻撃はまだ続いているんですか? どうもその、焼夷弾とやらが私にはよく見えなくて」


奥さんが下町方面を振り向いて目を凝らしている。


「まだ……続いてます。ちらちらと小さな赤い光が星屑のように降っているんですが、……見えませんか?」


千颯は下町に目を凝らし、奥さんに攻撃が継続されていることを伝える。


「いや、しかしだな。軍からは初期消火をせよと命令が出ているのだ。水がなかったとしても、人体の六割は水なんだ。自分の体を擦り付けてでも火を消せとのことだ。それくらい火事は恐ろしいんだ」


「その初期消火ができません。どんな油をいれているのか僕には難しくてまだよく分かりませんが、水をかけても消えないそうです」


「はっ!そんな馬鹿な! 水をかけても消えないだと?」


ここで言い争っている間にも火災の規模が大きくなり、徐々に広がってきていく。


「間に合わないんです……。残念ながら火に巻かれないように逃げるしかありません」


班長さんも鈴木氏も渋い顔のままだ。


火災が起きている下町は赤々としている。


「~! ……だったら、余計にあそこで焼け出されている人たちを助けに」


鈴木氏は食い下がろうとするが、


「下町にどれだけの人が住んでいると思っているんですか」


眉をしかめて千颯は鈴木さんに現実を突きつける。


「う……。そうか……そうだな。避難者でごった返しになっているかもしれない……。救助に行く方が逃げてくる人たちの逃げ道をふさいでしまうかも」


「……あぁ。そうだな」


「班長さん。僕たちはここでできることをしませんか?」


「見捨てろというのか……。ここで、見ているだけなのか。消火活動はできないのか……」


「苦しい決断ではありますが、そうだと進言します」


千颯は地面を見つめて呟いた。


「非国民だと、憲兵に突き出されても文句は言えない発言だ。園部さん、よろしいですかな?」


鈴木さんは難しい顔で千颯の振る舞いに厳しく問う。


「それは違いますよ、鈴木さん。千颯さんは隣組のみなさんの命を易々と死なせてはいけないと考えてくれているのです。もしあそこを飛んでいく敵機が少しでもこちらに方向を変えて向かってきてしまったらどうなりますか? ここにもあの火の雨と言っても差し支えないほどの焼夷弾とやらが落とされて、みんな焼け出されてしまいます。防空壕に避難した人たちは火災の熱で苦しみながら蒸し焼きにされ、消火を頑張っていた人は逃げ遅れて焼け死ぬなんて……。これからも軍需工場で働く人が一人でも多く必要なのに、働き手が減ったら勝てる戦も勝てなくなりますよ。だから国民は生きて兵隊さんが使うものを作り続けて応援しなければ」


奥さんが握りこぶしを作り、愛国の心はちゃんとあると主張した。


「千颯さんは非国民ではありませんよ」


千颯はそんなことまで考えていなかったが奥さんが千颯の分まで愛国心を訴えてくれた。


「お願いします。住民を北西に、……風上に向かって避難するように言ってください。風上にいれば火はきません。僕たちは、生きていなければいけないと思うんです」


「うー……ん」


「私たちはそれを伝えるために班長さんが歩いて行った方に探しにきたんです。ね、千颯さん?」


「は、はい」


千颯は奥さんの発言に驚いた。


まさかそんなことを考えて歩いていたとは。


班長さんが赤く燃える下町を睨んで唸りだした。


今まで軍からの情報だけを聞いて鵜呑みにし、自分で考えて行動しなかったことを悔やんでいるのだろうか。


「うーん。……ではこうしよう。私は戻って班員に呼び掛ける。火災から逃げるように各家庭の壕を確認しながら誘導していく! 君たちは北西に進みながら壕の中の者を外に出して避難移動をするように促してくれ。この判断は私が命令したと言ってくれてかまわん。責任は……私がとってやる」


顔を青くさせているのだろうか。


いつも穏やかな口調の班長さんも声が強張って聞こえる。


「班長さんが責任を?……お名前を出してしまってもよろしいのですか?」


奥さんも班長さんの覚悟を感じ取り心配そうな声になる。


「憲兵さんに知られると非国民の扱いを受けてたいへんなことになりますよ?いいんですか?」


「鈴木さん。……仕方ないじゃないか。千颯くんの言うことの方が正しいと思ってしまったんだから。助かる命は多い方がいい」


「ありがとうございます。では私たちも岸さん、森下さん、竹田さんに声掛けして説得します」


移動先にある隣組の班員の家を訪ねながらの避難になった。


「ああ、そうしてください」


「班長!」


「軍の指示通りに防空壕に入っているのを確認してきたから先ずは壕から出てきてくれるように声をかけてくれますか」


「はい。みなさんちゃんと分かってくれますよ」


「ではそちらはよろしく頼みます。園部さん、畑の中通らせてもらいます。勝男、行くぞ! 手分けしよう。お前は金田さんと本橋さんに声掛けをしてあぜ道を歩いてうちの家の前に行かせてくれ。合流は隅田さんの家だ」


「分かりました。春樹兄さんの言うとおりにします。……気をつけて行きましょう」


そうして二人は早歩きで班員の家を回るために下町方面に続く道を戻っていった。


「話の分かる班長さんで本当に良かったですね……」


千颯はほっとして呟いた。


「私は非国民と言われて憲兵さんに突き出されるんじゃないかと肝を冷やしたわ。……きっと班長さんたりも私たちのこと通報しに行くべきか考えたと思うけど。こんな警報が鳴っているときに通報なんてしたくなかったかもしれないわね。……あ、もしかしたら後から憲兵さんが私たちのことを捕まえに来るかも……」


暗い声になっていく。


「後から捕まえに来たら何て言ってお怒りを鎮めてもらえばいいんでしょうか……」


千颯も自分から言い出した行動に、奥さんや班長さんたちを巻き込んでしまったことの責任はどうすればいいのか分からない。


「……もうしらばっくれてしまいましょう。空襲が怖くて取り乱して心にもないことを口走ってしまった~とか。それとも何をいったのか覚えてないのほうがいいかしら……」


「愛国心を前面に押し出してより一層の努力を奉仕作業で証明して見せますとか?」


「まぁ、千颯さん頑張ってくださいね? 私は焼け出された人たちのお世話をすすんでやっていれば分かってもらえるんじゃないかと思うの。その辺りは帰ってきた修一郎さんにお任せしましょ。弁護士なんですもの。なんとかなるわよ」


奥さんは前向きな言葉を探してむりにでも明るい声を出して肩をすくめてくれた。


「園部のおじさん、なおさら無事に帰ってきてもらわないと本当い困りますね……」


「そうねぇ。必ず生きていてもらわないと」


話しながら歩いていくと隣組の班員でお隣さんの家の着いた。


「岸さんの防空壕は家の裏側なのよね」


奥さんは壕の場所へとススッと敷地に入っていく。


壕の戸をドンドンと叩いて中に呼び掛ける。


中から物音が聞こえて、慌てて戸板を外して出てきた女性は、中からの明かりを気にしてすぐに外に出てきてまた戸口を閉める。


「園部さん? ……何です?避難しなきゃダメじゃないですか」


岸さんの奥方は少しイラッとしているようだ。


微かに子供の泣き声が聞こえてくる。


どうやら壕を嫌がって小さな子がグズグズとしているらしい。

隣組の班員は12世帯

班長……田辺春樹(たばこ会社経営)

副班長…鈴木勝男(自警団団長・農家)

作中では名前をちゃんと表記していないのですが、班長さんたちはこんな設定なんです。


疎らに民家が点在するご町内……な雰囲気なんです。

この辺も雑なんですよね。

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