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戦時中の物語に挑戦してみようと思います。

こんな学生さんが当時いたのかは分かりません。

とにかく描いてみたい。

見切り発車、行き当たりばったりでとても心配ですが。

Google等で勉強しながら頑張ってみます。

よろしくお願いします。

巣鴨中学二年生の坂上千颯(さかがみちはや)は集合場所に遅刻しそうになっているので、少々焦っていた。


実家の宮城から上京し、父親の伝手を頼って下宿先である千石の園部家での生活と中学の勉強に慣れるまでに、学徒動員が始まり食料生産を担う事になった。


学徒動員は学校からの要請ではあったのだが、今現在戦争している国家のために兵隊さんが頑張って敵国と戦って下さっているのだから、私たちは兵隊さんのために何ができるのかを考え行動しましょうと、言われて育ってきたので、今こそその時だと学校の先生からの言葉で生徒たちは学徒動員に心から賛同し、志願書に署名した。


千颯は本当は志願書なんて書きたくはなかった。


しかし、同級生は皆、志願するというのだ。


そして教師たちが「早く志願書を提出しろ」と無言の威圧をかけていた。


親の同意書を取り寄せてからの提出だったので、千颯が志願書を提出できたのは他のものより遅れてしまっていた。


学校も千颯の実家が宮城にあり、往復の郵送で時間がかかるという事情は知っているはずなのに、とても急かしてきた。


まるで中学校の全生徒が志願しているのだと言わんばかりだった。


千颯には夢がある。


実家の『家業の手伝い』と言えば聞こえは良いが、実家の酒造りの原料となるコメの改良をして、品質の良い美味い酒を作り出したいと思っていた。


大人たちが上手そうに飲む酒を更に美味しくしたら、褒められるのでは……と。


酒造会社の五番目にうまれた次男が千颯だ。


第一子の兄をはじめ、自分と兄の間には三人の姉たちがいて、より良い会社にするための能力を発揮している。


五番目の自分が割って入る隙間が無いのは分かっているのだ。


後継の兄は父親について経営の勉強をしながらも、杜氏にも酒造の手順を教わり作業を共にして新酒を作り出そうと試行錯誤を繰り返している。


姉たちは会社のために取引先の後継者と結婚や婚約をして資金調達や物資援助をしてもらっている。


本人たちはお相手がとても良い人だと喜んでいるので、幸せな生活が送れているようで何よりではあるのだが。


千颯はただの末っ子で終わりたくない。


自分にも何か父の会社の役に立つことが出来るはずだと、子供ながらにも出来る事を考えていた。


中学校を卒業したら東京に出て農学校に進学、酒造に適した米の品種改良の研究はどうだろうかと、父に相談してみるとあっけなく「そうか、頑張ってみろ」の二言だけで、詳細は父の後妻である千里に「任せる」と言って終わってしまった。


千里という女性は父の考えをよく理解し、その通りに行動できる優れた人で、千颯の国民学校卒業と中学校入学試験の準備や手続きを淡々と手伝ってくれた。


「東京の農学校に進学するのが目標なら、ここの中学校よりも東京に出て下宿生活をしても構いませんよ。こちらでお姉さま方に構われながらの勉強よりも、気兼ねなく勉強できるのでは?」と言って、下宿屋まで探してきてくれた。


まだ中学生なので何かとよく面倒を見てくれる協力的な家族、中学校にもさらに先の進学先である農学校にも通える距離、そして自宅と雰囲気の似た地域で生活ができる場所という条件で、下宿人を受け入れてくれる所が見つかった。


それが豊島区巣鴨の郊外に居を構える園部家だった。


家の前が田園風景、広い庭は畑に耕して季節ごとの野菜をたくさん植えている。


集合時間よりも余裕をもって早く到着できるように出てきたにもかかわらず、遅刻しそうになっていることを千颯はどうやって説明すればよいのかと考えながら走っていく。


濃紺の詰襟に目深にかぶった制帽、制靴を履いている割には足首からひざ下までにゲートルを巻いているのでとても走りやすい。


革で出来た重い学生鞄は使っていない。


入学してからずっと農作業で授業はないので、綺麗なまま下宿の自分の部屋の押し入れに保管されている。


荷物は弁当と水筒と手拭いがあれば十分なので、学校指定で購入した手提げの補助鞄を小脇に抱えてどんどん走っていく。


中学入学と同時に始まった学徒勤労のおかげで体力がついたのだろう、持久力が向上していてギリギリ遅刻はしなかった。


が、時間通りにやってきた教師は、整列している最後方で膝に手をつき息を懸命に整えている千颯に気が付いた。


「坂上千颯!」


国語科担当の教師が千颯の名を叫んだ。


「はっ……はい!」


千颯はすぐに気を付けをして返事をする。


返事をしなければ罰として平手打ちが飛んでくることを、身をもって知っている。


「貴様はなぜ膝に手をついている?」


「はっ、はい! 申し訳ありません! 途中で怪我人を見つけて介抱しておりました! 近くの家に救助を頼み、急いでこちらに駆けつけました!」


「本当だろうな? 嘘をつくなよ? 調べればすぐに分かるんだからな? しかし、もしそれが事実であったとしても、なぜ貴様が介抱する必要がある?」


「本当です! 嘘などついてはおりません! それにあの人を放っていくなんて僕にはできませんでした!」


千颯はそれが遅刻しそうになったことがいけないことなのか不思議に思い、つい反論してしまう。


「ほう、私に口答えをするというのか!」


「え、そんな……」


千颯は本当のことを言っているだけなのに、人として正しい事をしたと思っているのに、教師は信じてくれないようだし事実であっても介抱してはならない、と、なんとも理不尽なことを告げる。


「まぁいい。貴様の与太話は後できっちりと調べてやる。今は時間が惜しい! すぐに作業の準備に取り掛かれ! 今日はあの松の木まで耕すんだ!」



いつまでも千颯に構っていられないと思ったのだろうか、時間が惜しい教師は今日のノルマを告げて命令をする。


「「「はいっ!」」」


集まった学生全員が返事をして農機具をそれぞれが持って動き始める。


千颯も学生の集団に混じって鍬を手に持ち指示された場所を耕してく。


今日の作業は、否、今日の作業も人手の無い荒れ地を耕し畑にして野菜を植えていく。


今日は○○さん所有の空き地を畑にして、明日は△△さんの土地の荒れ地を耕して、来週は山裾の荒れ地を開拓しに行くのだ。


軍事教育で育ってきている中学生たちは教師や大人たちの言う事をよく聞くし、素直に行動し体力もあるので多少の労働を課しても元気なのだ。


千颯たちは主に体力を使う重労働を中心に働いていた。


しかし、勤労動員となった始めの頃の千颯は、体力も腕力もなかったし足腰も弱い、所謂もやしのように細かった。


なので、担任教師は千颯には軍需工場で弾薬作りに参加するように薦めたのだが、千颯は体力のいる食料生産を志願した。


「この戦争で勝った後は実家の事業を手伝う事にしている為、農学校へ進学すると決意して上京しました。今からでも従事できるのならば僕は喜んで重労働を担いたいです!」


と、宣言した。


農作業をするのが初めてだという生徒は数人で千颯はこの中に入り、ほとんどが家族の手伝いで農機具の扱いができる経験者。


最初は鍬を持つ腕もよろよろと頼りない千颯だったのだが、今ではもう経験者の同級たちと遜色ないくらいに上達しているし、多少の距離を走ったくらいでは息も切れないくらいに身体も丈夫になり、筋肉もついてきている。


今日も遅刻はしないように十分な余裕をもって出かけたのだ。


しかし、歩いていると道の隅で蹲る女性を発見した千颯は、怪我をしているのなら手当をしようと速足で近づいた。


しきりに右足首を押さえているその女性は尻をぺたりと地面について座り込んでいた。


「もし、大丈夫ですか? 怪我をしているなら肩を貸します。立てますか?」


その女性の前に回り込んで話しかけた。


「あ、……ありがとうございます。足を痛めてしまったようで巧く立てなくて」


千颯の声に反応して女性は顔を上げて歪ませながらも笑みを見せようとした。


「顔色が悪いですね。どこかで休める場所がないか探してみます。少し待っていてください」


唇をぎゅっと噛み締めて痛みを堪えているのが不憫に思えて、千颯はすぐそばの家に走り込んだ。


「すみません! おはようございます! 近くに怪我をしている人がいるのですが、手当する場所をお借りできませんか!?」


千颯の大きな声を聞いて、家の奥から住人が出てきてくれた。


「はいはい、どちら様ですか?」


「朝早くから申し訳ありません。僕は巣鴨中学二年、坂上千颯という者です。勤労動員の途中で怪我をしている人を見つけたので手当をしてもらえませんか?」


「あれまぁ。学生さん。ご苦労様です。お力になりましょう。けが人はどちらに?」


応対してくれたのはこの家の奥さんのようで、見た目は四十代半ばの細身な感じだ。


「すぐそこにいらっしゃるんです」


「わかりました。ここに運んでください」


「ありがとうございます、助かります!」


それからまだ外で蹲ったままの女性を抱えて家に入らせてもらい上がり框に座らせると、今度は腹を押さえて苦しみだした。


「うぅ……、痛いィ」


「えっ」


千颯の耳に入ってきた女性の声には、何やら切羽詰まった雰囲気がある。


何が原因だか分からず、家の人に相談することにした。


「すみません、この方なのですが、足を押さえていたはずが、今は腹痛を訴えているのです。何かの病でしょうか。この付近に医者は?」


「あれまぁ。この辺りには居ませんよ。何せここは田舎だからねぇ。見れば分かるでしょ? 学生さんも畑仕事するために来たのだし。お医者さんなら町まで行かないと……」


家の人は女性に近寄って様子を確認する。


「では呼んで来ます。一番近いのは何処ですか? この人凄く顔色が悪いようなので心配です」


「ちょっとお待ちなさいな」


そう言って出て行こうとしている千颯を呼び止め、苦しみに呻く女性に話しかける。


「もし? 名前は言えますか? どこが痛いんですか?」


「うぅ。……山﨑ユリと、申します。足を捻って転んでから……だんだんお腹が、痛くなってきて……」


女性の着ている真っ白なブラウスの左胸に縫い付けられている名札が辛うじて見えた。


『山﨑ユリ・東京市小石川区北町二十三号・二十九歳・B型』


年齢的に既婚者。


手を当てているのは下腹部。


女性ならではの視点で妊娠中ではないかと思い、千颯には医者ではなく産婆を連れてくるようにと指示した。


「えっ! 産婆さん!?」


「そ、……そういえば。月の物がきてないわ……」


腹痛のなか、女性が応えてくれた。


「あ、……どういう?」


千颯は聞きなれない言葉に戸惑う。


「ここはいいから、早く呼んできてくださいな。この道なりに町までいったら産婆の看板がかかっている家がすぐに見つかります。お初さんていう、私と同じくらいの歳のおばさんがいるので連れてきてください。私はこの人を寝かせる布団を用意しておきますから」


「は、はい! わかりました。お初さんですね。行ってきます」


そうして、お初という産婆を探しに駆けだした千颯は町までの距離を往復して、更に連れてきた産婆の言うとおりに山﨑ユリさんを静かに抱き上げて、座敷に布団を敷いてくれていた寝床に寝かせて、処置のために駆り出され、何が何のために必要なのか分からないまま独楽鼠のようにドタバタと働いた。


『何があるか分からないから取り敢えず水を汲んでお湯を沸かしておいてるかい?』というのが道中での産婆の指示だ。


千颯は余裕を持って出発したはずなのに、遅刻ギリギリで集合場所にたどり着き教師に目をつけられてしまった、それが一連の出来事だった。



きっとこれが千颯の今後の幸運の始まりだったのかもしれない、と、戦争が終わって自分が生き残れた今になって思う。











史実に基づいて~……なんてことはできません。

何となくこの時代にこんなことがあったのかなぁという、緩い設定で書いてます。

歴史に詳しい読者様にとってはとても中途半端なお話でイラッとされることがあるでしょう。

書き始めてみたけれど、学生時代……それこそ小学生のときからずっと歴史好きの頭だったら良かったのにと後悔してます。

もっともっとまじめに勉強しておけば! 祖父母の存命中にしっかりと当時の話を聞いておけばと……。

間違った歴史解釈があるかもしれませんが、そこは『緩すぎる設定』で見逃してくださると助かります。


次の投稿がいつになるか不明ですが、お付き合いいただける読者様がいらっしゃると嬉しいです。

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