7、夜の関ヶ原、アイアン家の秘技房中術、(BK4、P18
アネウットの、ワイへの教育方針を聞いて、母上が動揺しとる。
珍しい。
母上の、こんな姿は滅多に見れないから………
有能な母上が、こんなにも驚くのは本当に珍しいで。
母上を動揺させるとは、流石はアネウットや。
やっぱりアネウットは有能や。
その有能なアネウットは………
「手とり足取り、私が旦那様。アイアン様から教わった、夜の秘技を若様へとお教えました」
「!!!」
アネウットの話を聞いて、目を白黒させる母上。
「若様は、すぐに覚えましたね。若様賢い」
「えっへん。ワイ君頑張った」
「若様は、上手にできましたね」
ガタン。
母上はワイ君等の言葉を聞いて、椅子から転げ落ちた。
母上はワナワナと震え、アネウットを指さしながら。
「ア………アネウッ〜〜〜ト!!! あ、貴方はアレを! アイアン家の秘技房中術。あんな、ふしだらなものを、うちの馬鹿息子に教えたと言うのですか?
と言うか、貴方も教わっていたのですか?」
「はい! アイアン様より、手ほどきを受けました」
良い返事をしたアネウット。
にこやかに可愛らしく微笑むアネウット。
アネウットの良い笑顔に、反比例するかの様に、母上は顔色が悪くなる。
「旦那さまが、当主様にさえ効果的だったと自慢していた、アイアン家秘伝の秘術」
「な!」
「『男女の夜の関が原決戦房中術』 確かに次世代の若様へ、継承指南を、させて頂きました」
「あ、あ、貴方は………夫だけでなく息子にまで………貴方は………貴方達は………本当に? 本当に?」
食堂の床に倒れ、ワナワナと震える母上。
「アイアン様は、若様にもアイアン家の房中術、秘技を伝えたいが、男の旦那さまから、どうやって若様に伝授すればいいのか?
『息子と、ホモるわけにもいかぬ』
と悩んでいましたから。
ならばこの際
アイアン様から伝授された私が、一肌脱いで、若様へと秘技を伝授するべきかと愚行しました」
「く! あ、あの阿保夫が〜〜〜! アネウットと浮気しただけで無く。そんな邪悪な計画をたてていたとは………」
「私が病気の時に、必死に看病してくれた若様にも、ぐっと来ましたし」
「そ、そんな理由で貴方………」
「ふふ兎にも角にも。旦那さまから、私が受けたアイアン流房中術。誠心誠意、確かに若様へ伝承、継承、教えて差し上げました」
「なんてことを〜〜〜」
ノリノリで報告するアネウット。
絶望する母上。
「あれ程の技術は、そうそうありません。これで若様も安心ですね!」
「ワイは頑張ったで〜〜〜。頑張って全部覚えたで〜〜〜。母上褒めて褒めて」
「若様は頑張りました。偉い、エライ」
母上ではなく、アネウットがワイ君を褒めてくれる。
「………………あ、貴方達は………」
「当主様が、谷底に叩き落とす覚悟で、頑丈な若様を教育せよ。との指示の事でしたので」
「え?」
「若様を限界ギリギリ、快楽の谷底に叩き落とす覚悟で、性教育させていただきました」
「アネウッ〜〜〜ト! 意味が違うでしょうが!」
「ワイ君、頑張ったで〜〜〜。母上褒めてや〜〜〜」
「この馬鹿息子! こんな事を、嬉しそうに母に報告する息子がありますか?」
「ここにおるで」
「くぅ、そしてソレを褒める母親が、この世の何処にいると思いますか〜〜〜?」
「ファッ! 何や? ワイ君、怒られとる気がするで〜〜〜」
母親の剣幕にビビるワイ君。
「大丈夫ですよ、若様」
「え?」
「アレが嫌も嫌も好きのうち、と言うやつですよ。お教えしたでしょ」
「そ、そうや。確かに習ったで。流石はアネウットや。ワイ君、気が付かんかった」
「ふふふ、若様。うっかりですね」
そんなアネウットの言葉と、ワイ君等の様子を、地獄の様な眼でワナワナと母上が見ていた。
母上は、はじめは恐ろしく動揺していた。 だが、そこは有能な母上。
すぐに平成さを取り戻す。
椅子に座りなおし、深々とため息をつく。
「ふ〜〜〜〜〜〜〜。良いですかアネウット。よく聞きなさい」
「は、はい。なんでしょうか?」
「男という生き物は、女が夜の試合方法を教え込んで、いい感じに育つと………」
「育つと?」
「その技術を、他の女にも通用するか実践、試したくなる生き物なのです」
「え? え? 嘘? そ、そうなのですか?」
母上の言葉で、今までシャキシャキしていたのに、アネウットは、急に動揺しはじめた。
「そうです。貴方が馬鹿息子に、夜の試合方法を、教え込めば教えこむほど、馬鹿息子は貴方から離れます。他の女の元へ、いくことになるでしょう」
「そ、そんな………」
「なんせ、あの子は馬鹿です。誘惑にも弱く、本能に忠実に従うでしょう。我慢も効かないはずです」
ワイ君、実の母上からエライ言われようやな。
「で、でも………」
「しかも、あの子の父も容易く他の女、貴方に…………」
「で、でも………若さまは………」
「あの子の父も、そうでした。貴方も身を持って知っているでしょ?」
「うぅ………確かに!」
「ねぇアネウット。遺伝って………怖いのよ!」
母上の言葉で、ニコニコだったアネウットの顔は………
徐々に不安そうになり………
終いには、アネウットは、ガバッとワイのほうを振り向き。
「若様、酷い。ヒトデナシ〜」
「え? なんやいきなり?」
「ワタシの事は遊びだったのですね〜」
「………なんで、ワイが責められてるんや?」
アネウットはワイの方へ振り返り、ワイを見て、涙ぐんでた。
なんでや?
おかしい?
無能なワイには、なんの事で責められとるのか?
わけがわからんぞ!
コレ、ワイが悪いんか?
『ワイ、何か、またやっちゃいました?』
ワイ君は無能やからな〜。
度々、無意識に他人を怒らす事がある。
無自覚に他人を怒らすと言う事は、無能と言う事で
無能という事は、無自覚に他人を怒らすと言う事なんや。
無能なワイ君と、有能なアネウットなら、アネウットの言う事のほうが、正しいに決まっとるし………
しかし………
しかしや………
それにしても
動揺するアネウットは、可哀想可愛いなぁ。
ワイ君には、そんな感想しか持てんで。
なんで怒られとるか、わからんし。
「父子そろって私を、私を………………そして飽きたら、捨てるなんて」
「アネウ〜ット! 私の前でよくそんな事が言えますね! 貴方は私から何もかも、夫も息子も寝取っておきながら!」
「若様! 酷い!」
激昂する母上。
母上に全く構わずに、怒れる母上をスル〜して、ワイ君を責めるアネウット。
怒れる母上を、無視できるアネウット強い。
怒りのパワーは………
母上→アネウット→可愛そうなワイ君へと向けられとる。
しかもそのパワーが向けられとる方の人間は、自分が怒られとるのに無頓着や。
なんやコレ?
どういう状況や?
もういちど言う。
なんでワイ君が責められとるんや?
無能なワイには、さっぱりわけがわからんのや!
そう言えば、昔の悪友がよく言っとった。
『本命でない女複数を、同時に妊娠させた状況を想像しろ。
その時の心境に、近い絶望感を感じたら。………それが修羅場だ』
と!
今のワイ君の心境、大分それに近い気がするが………
つまりは………コレが修羅場?
なんやろ〜か?
あぁ
おめでとう
おめでとうワイ君!
ようこそ修羅場の世界へ。
たぶんワイ君は、人生はじめての修羅場を体感したで。
何か追い詰められてる焦燥感とか、無力感とか、なんでワイがとか、理不尽やとか、そんな事よりも………ワイ君………
コレを乗り越えれば、強くなれるで〜。
悪友がそう言っとった。
『修羅場を潜ってこそ、男は成長すると』
悪友が、今何処で何をしているか?
悪友の行方は誰も知らんけどな………
たぶん、何処かで強くなって、大魔王にでも………なっとるんやろう
悪友………ナチュラルに、片っ端から異性を口説き、修羅場を作り出してた。
ついた二つ名が『ハチマタオロチ』とか言われとったからな………
ワイ君も、ようやくアイツに1歩近づいたと思うと………
なにやら感慨深いんや。