3、火事2、母上に報告。アネウット教育係就任。
ワイは火事の消火活動には参加しない。
ワイが魔法で消火をすると、
火事より、もっと酷いことになる。
水魔法で消火すれば………
最悪、街が水底に沈む。
風魔法で消火しようとすれば、
風に煽られ、さらに火が燃え広がる。
もしくは台風で全て吹っ飛ぶ。
そもそも母上が、消火に駆けつけて無い。
その時点で、たいした火事では無いって事だ。
なんでもかんでも魔法に頼ると、
魔法使いがいない時に、街が崩壊する。
魔法の大家プラチナム家。
ワイ君家は失敗を重ねて来た。
魔法の毒。
それを知り尽くしてた。
魔法を使ってはいけない時もある。
なので………消火に参加しない。
アネウットと手を繋いで
屋敷に帰る。
屋敷。
屋敷の中で、母上の元へ向かう。
母上は、屋敷の食堂にいた。
遅い夕食を一人でとっている。
やや疲労してるように見えた。
母上………この様子だと
当然に火事の事は、既に知ってるな。
もう手は打ち終わってるのだろう。
母上は有能やし。
無能な父上やワイと違って、
やる事はしっかりと、高速でやる人や。
母上が何をやったかは、
無能なワイ君には、わからんけれども。
ま、それでも母上が知らん事もある。
一応報告しとこう。
「母上。領内で火事がおこりました」
「それで?」
母上は知ってるよ。って顔や。
「放火の犯人は、母上の息子。三男や」
「!!!」
「………」
息を呑むアネウットと、自然体の母上。
ワイの遠回しな告げ口。
少しでも柔らかく、弟の悪行を伝えようとした結果の、おかしな表現や。
意味無いかもやけど。
………食事中の母上は、手に持つスプーンの動きを止めた。
母上はワイの行動。
変な言動には慣れてる。
ワイの言葉使いには、注意してこなかった。
「どうして弟が犯人だと思うのです?」
「どうして?」
ワイ、首を傾げる。
無能なワイは理由の説明は苦手や。
なぜ? どうして?
そういった事が、わからない。
だから、ワイは無能なんやで〜。
でもだからこそ………
確かにどうしてだろう?
母上に問われて、頭をひねってみる。
ワイは何故、弟が放火の犯人だと思った?
考えても、無能なワイにはわからない。
弟の反応?
異様に興奮して、ヨダレを垂らしていた三男の態度?
ワイ等を見て逃げ出したから?
それとも………
いや、それよりも
「理由は無いのですね?」
母上の確認。
「勘。………や。理屈やなく、直感や」
「勘?」
理屈やない、感覚や。
そうとしか言えん。
「兄弟やからな。なんとなくわかるんや」
「若様。そんな曖昧なもので弟様を………」
「はぁ〜〜〜」
アネウットが、ワイの勘を否定する。
しかし母上は………
大きなため息をついて食事を止めた。
母上は、ゆっくりとテーブルの上で、肘をつき両手の指を組んだ。
その上へ自分の顔をのせた。
深くため息をつく。
「ふう〜。貴方の頭脳は、全くアテにできませんが、貴方の勘はよく当たりますからね」
「ファッ。母上それは………」
酷ないか?
「貴方は馬鹿な分。勘というか本能でそれを補う傾向が………」
母上それはどういう意味や?
具体的過ぎて、酷ない?
ワイ。
有能な、あんたの息子やで。
ワイ賢いとは、とても言えない。
それでも、ワイの頭脳君。
その全否定は酷ないか?
そんなワイの思いも虚しく、母上は
「フゥ。わかりました。その方向で、少し調べてみます」
「何をや?」
「燃やされた家。家族への保証。後始末は私がします。幸い人死は出てませんし」
「………」
なんでそんな事まで知ってるんや?
「ご苦労でした。下がってよろしい」
そう言って、
すぐに考えモードから切り替えた母上。
食事を再開した。
下がってよろしいって………
ちょっと態度冷たない?
悪さしたのは弟やで。
ワイが悪さをしたわけやないのに。
なんか、ワイ君も怒られてる気がするわ。
「………」
「どうしました?」
ワイは無言で動かない。
立ち尽くすワイ君に、母上が訪ねてくる。
「ワイも夜に外出して、お腹ペコペコや」
「それで?」
「………」
「お腹が空いたから、なんです?」
「ファッ!」
「ちゃんと最後まで言いなさい。お腹が空いたから、何かを食べたいです。と、お願いしなさい」
「ファッ」
「人に自分の意図をくんでもらおうとか。察してもらおうとか。そんなに横着な事で、どうします?」
「………」
アカン。
ワイ君、怒られてる。
コレ八つ当たりじゃないか?
放火した三弟への苛立ち。
それをワイに八つ当たりしてないか?
「ちゃんとした、コミュニケーション力。それと礼儀を身に着けなさい」
「ファ〜〜〜」
「貴方は貴族なのですよ」
「ファ〜〜〜〜〜〜!」
急に母上に怒られた。
頭がバグってもうた。
奇声をあげてしまう。
一部の者には、ワイの鳴き声。
とか悪口言われとるワイの悪癖。
奇声や。
母上は、ワイの奇行には慣れている。
テンパってるワイを無視して………
「アネウット」
「はい! 当主様」
「私は貴方を、この子の護衛に任命しました。そうですね」
確認ズル母上。
「ハイ! 全力で努めます」
アネウットはハキハキしとる。
「この馬鹿な子が。この様な奇声を。態度を。取らないように躾けなさい」
「は、はい! 申し訳ありません」
「貴方が謝る事はありません」
「はい!」
「これまで、この子を躾けていた、この子の父。私の母。そして、忙しくて躾ける暇が無かった私の責です」
「は、はい!」
あ、アネウット。
動揺して認めちゃった。
ワイの躾が悪い事と、
母上の教育不行き届きを認めちゃった。
そこ、認めちゃったのは………
悪手ちゃうんか?
そこは否定せな。
気分悪くするで?
ワイがな!
母上はどうか知らんが、
ワイは気分悪くするで………
ワイは無能や。
けども………
其処まで言われる程は悪ないで。
そんなワイの心の声はお構いなしに
「アネウット。大変かもしれませんが、これからは貴方に任せます」
「お任せ下さい。光栄です」
「厳しく。責任を持って。この子に全身全霊イロイロ教えてあげるのですよ」
「は、はい!」
「ファッ?」
なんだか、そういう事になった。
その日からアネウットは、ワイの護衛兼教育係に就任した。
ワイに異論は無かった。
有能で美人の教育係は男の子の夢や。
ワイの未来は桃色や。
「それで当主様。若様を、どの程度まで厳しく躾けて良いのでしょうか?」
「ファッ?」
え?
ちょっと待って。
きびしくってなんや?
ワイの桃色人生どこ行った?
ワイの感が不安を告げとる。
「その子は頑丈ですからね。少々強めに攻めて教育しても構いません」
と母上は言うが。
いや、いや、いや。
構いませんや無いで。
母上、他人事やと思って………
「よろしいのですか? 当主様?」
「谷底に突き落とす気で、教育しても構いませんよ!」
「はい!」
母上の言葉に喜ぶアネウット。
絶望するワイ。
「ファ〜〜〜〜〜〜」
よろしくない。
全然よろしくないで〜
アネウット。
「ワイ君は、褒められて伸びるタイプなんや。厳しいのは逆効果や」
「貴方が、いつ伸びたのです?」
「母上酷い。それは酷いで。ワイ君は日々成長しとるんや」
ワイは必死で無い頭をひねって抗議する。
「………アネウット。この子を頼みます」
「ハイ。たっぷりと褒めてから。谷底へ突き落とします」
ワイの抗議は当然の様に無視された。
「ファ〜〜〜。いやいやいや、違う」
「???」
ワイの抗議に小首をかしげるアネウット。
「違うでアネウット。褒められても、谷底へ突き落とされたら意味ないで〜〜〜」
「若様なら、大丈夫ですよね」
いやいやいやいや。
大丈夫とか、そういう問題と違う。
そうや!
「アネウットは有能や」
「ありがとうございます」
「有能なアネウットならば、ワイ君を褒めて伸ばす事が出来るはずや」
届けワイの渾身の一撃。
無能なワイの無脳が、追い込まれてひねり出した一撃。
しかし母上が………
「その子は、我が子ながら。頑丈な事だけは保証します」
「はい、。当主様」
「ファッ?」
アネウットはやる気満々や。
何をやるかは知らんが。
不吉でバイオレンスな気配がする。
ワイの直感は当たるんや。
「息子はビシバシ超教しても構いませんよ」
「ハイ!」
アネウットはニッコリ微笑んだ。
ワイは絶望した。
「ファ〜〜〜」
そういう事になった。
ワイの渾身の一撃は、
アッサリと母上に防がれた。
桃色になると思われたワイの未来。
たぶん………
この感じやと………
ワイの未来は真っ黒や。
ワイの感はよく当たるんや。
◆
モテない事は恥じゃない
でも
魅力的な人間に、なろうと志す
それが出来無い事は恥だ
努力すれば
誰でも魅力的に、成長するのだから