11、撤退戦1
戦争において、最も死人が出るタイミングは、撤退をはじめた時。
人間、どんな強い者でも
逃げ始めると
後ろから攻撃を受けてバタバタ死ぬ。
そんな言葉をおもいだす。
ワイ君とアネウットは
ギャオって見境なくなった母上からの
撤退戦をする羽目になった。
逃げるワイ君らを、怒った母上が追いかけてくる。
いつもは怒った母上の、お仕置きの前には、死んだ魚のような目で………
ただ立ち尽くすしか手が無かったんやが………
今回は違う。
アネウットがヤル気や。
逃げ切る気や。
猛り狂っとる。
アネウットは本気で母上から逃げ切れる気でおる。
母上のお仕置きから逃げ切れるのか?
持ってて良かったアネウットになるのか?
それとも………
いや、ことここに至って
考えても無駄や。
そもそもワイ君には考えると言う選択肢が無いんや。
考えたとて、最適解どころかドツボにハマってきた、ワイ君の頭が残念人生。
ポンコツに思考など不要。
ただ、アネウットを信じるしかない。
アネウットは有能や。
無能なワイ君よりも、正しい判断をしてくれるやろう。
アネウットに従い逃げるだけや。
………問題は、母上の有能さに、
アネウットが太刀打ちできるかや。
母上の有能さは、ワイ君も身にしみて知ってるからなぁ。
………果たして………
そんな事を考えながら、屋敷の廊下を爆走して逃げる。
前がワイ君。
後ろにアネウット。
そのさらに後ろから、かな〜り離れた距離から母上が追いかけてきよる。
母上はワイ君等よりも、身体能力が低く足が遅いようや。
逃げるうち徐々に距離は離れていく。
ワイはアイアン家の肉体強化紋章持ち。
アネウットは単純に身体能力が高い護衛。
母上は身体能力並やな。
しかしや………
離れた距離から母上の魔法が飛んでくる。
「稲妻よ!」
「無駄です」
「アチ!」
バチっと後ろで乾いた音が響く。
同時に、ワイに雷の余波が当たってビリっときた。
「く、ナイフを避雷針替わりに使いましたか?」
「ちょっ、当主様。投げたナイフに煙が………凄く焦げてます。どんな威力の魔法をぶつける気ですか?」
「その程度の魔法で傷つくほど、我が子は貧弱では、ありませんよ」
なる。
………母上のカミナリ魔法を、アネウットが防いで、余波をワイ君が受けたのか?
「とんでもない。今の魔法は、当たれば命を落としかねない威力です。私達を殺す気ですか?」
「ア〜ネウット! 死にたくないなら降伏なさいな」
「え?」
「死ぬ覚悟も無いのに、私に逆らう? その行為が悪いのです!」
「!!!」
なんだろう???
後ろから、ワイ君を追いかけてくる女性2人の会話が、ただただ怖い!
アネウットは大きな勘違いをしとる。
そもそもギャオった母上には、会話など通用しないんや。
有能な人間が、ごくたまにギャオったとき程、怖いもんは無いで。
なんせ無茶苦茶しよるからな。
無能がギャオっても
単純な暴走しか出来ん。
だが、有能がギャオると、
何処まで被害が広がるかわかったもんやない。
有能は、広範囲に影響を与える事が出来るから有能なんやし。
む?
考え事をしながら廊下を曲がる。
すると、その先に我が家の『護衛兵ゴンザレス』が、ボンヤリ暇しているのが見えた。
走るワイ君と、ゴツく体格の良い『護衛兵ゴンザレス』の目が合う。
「若様?」
「ゴンザレス。丁度いい。侵入者や」
「!!!」
ゴンザレスは、ワイの言葉に驚いてシャキっとした。
「ワイの後ろでアネウットが侵入者を食い止めながら、ワイを追ってきとる」
「何と! このプラチナム家に侵入者ですと?」
「アネウットの後ろから、侵入者が一人。ワイを追いかけてきとるんや。」
「わかりました! 私にお任せあれ」
打てば響くとはこの事か?
反応が良い。
「廊下の角に隠れて、アネウットが通り過ぎたら、次にやってくる侵入者を捕まえてや」
「承知!」
「殺しては駄目やで」
「ハ! 捕まえて黒幕を吐かせます!」
流石はワイ君家の護衛や、有能や。
走り抜けながらの会話で、状況を理解しおった。
ゴンザレスは、指示どおり廊下の曲がり角に潜む。
アネウットと、そのあとに来る侵入者を待つためにスタンバる。
ワイは走りながら振り返り様子を見た。
まぁ、侵入者と言うのは嘘で
実は母上が来るんやが。
いつもなら、嘘などつかんワイ君の仕掛けた罠。
さっきチビッと電撃の余波を食らった。
ワイ君、母上の電撃を受けると、何故か頭が冴える。
度重なる、電撃お仕置きを受けた結果。
その恐怖への反動か?
ワイには、何もわからんが………
しかし………
今は頭が電撃でスカッと冴えとる。
冴えた頭で、人を騙すと………
新鮮でワクワクするで。
さて?
どうなるやろな〜〜〜?
なぁに
失敗しても、お仕置き電撃を喰らうだけや。
ワイ君にとっては、過去に何度も通った道やし。
………
………………
頼むで『ゴンザレス』!
大丈夫や。
ゴンザレスなら何とかしてくれる。
それにワイ君が捕まっても、いつもの事や。大したことやない。
いつもの事、いつもの事や。
落ち着け………
ワイはバクバクする心臓に、何度も何度も最悪の結果になっても………
大したことないと言い聞かせた。
アカンで。
頭が冴えた結果。
ギャオって怪獣化しとる母上のお仕置き。 それがリアルに想像できて、漏らしそうやが………
そうや!
コレが修羅場や!
くぐり抜ければ強くなれるはずや。
ワイ君の数少ない友人がそう言っとった。
ワイ頑張って強くなるで!
………
………………
ま、今頑張っとるのはアネウットとゴンザレスなんやけども。
ワイ君やなくて修羅場を潜った二人が強なったら………どうしよう?
一瞬、ワイ君も二人に加勢して三人で母上と戦おうかと思ったが………
怖いのでやめた。
そうか!
こういう時に立ち向かう。
そういう事が出来るから勇者は強くなる。 立ち向かうことが出来ないから、ワイ君は無能なのだろうか?
ワイ君も、いつかはそんな事が出来る
勇気ある勇者になりたいで〜〜〜
今は無理やけどな!
◆◆◆◆
モテる人間とは
相手の為に自分が動く人間では無い。
相手が自分の為に動いてくれるように立ち回る人間だ。
先ずは自分の為に喜んでジュースを買いに行ってくれるように相手をしつけるのだ。
そこから徐々にイロイロやってくれるよう、他人を教育できる人間がモテる。




