10、母上VSアネウット危機一髪
ワイ君は怒っていた。
大切な物が奪われた。
愛用してたのに、ほかの誰かには価値が無くても、ワイにとっては宝物だった。
「誰がワイ愛用の哺乳瓶を壊した?」
ワイの怒りに母上は………
「私は、この子が物心ついた時から。葛藤してました。この世に、この子を解き放って良いものか」
「ファ?」
なんか母上は難しい事を言ってる。
「しかし今、決心がつきました」
「何をや?」
「哺乳瓶で、お茶を飲むような馬鹿息子を、世に解き放って、言いわけがありません!」
「ハハハ、さすが母上や。オモロイこと言うなぁ」
ワイは余裕を持ってそう返す。
「………今の何が面白いのです?」
「生まれてきた時点で、ワイは自由やで」
「………!!!」
誰にもワイ君を止められん。
ワイを止められるのはワイだけや!
「母上がワイ君を、この世に解き放ったんやで〜。既にして遅いで」
「!!! わ、私は何て罪深い事をしてしまったのかしら?」
「ふぁ? 罪ってなんや?」
絶望したかの様に大げさに騒ぐ母上。
母上は大げさ過ぎなんや。
人生を深く考え過ぎや。
なるようにしかならんと、無能なワイ君は身に沁みとる。
だが母上は………
「私の元に産まれてこなければ、少なくともプラチナム家の紋章はアナタに引き継がれなかった」
「ふぁ?」
「その分、もっと罪と害は少なくて済んだのに………」
「害?」
え?
母上? 今、なんと言った?
罪と害?
何や母上?
誰の事や、それは?
ワイか?
『拝啓母上様!
ワイ君。
また何か
やっちゃいましたか?』
「と、当主様。いくらなんでも、それは言い過ぎでは………若様が、可愛そうです」
「そうや。母上は、たまにして酷いで。ワイ君が可愛そうや。ンギュゴキュ」
ワイ君は予備の哺乳瓶を吸いながら抗議した。抗議するにも喉が乾くでなぁ。
「アネウット貴方もですか。わかりました。………どうやら、私は貴方達2人の教育を、まちがえたようですね」
ニコリと笑う母上。
笑ってはいるが………
母上の額には、青筋が浮いていた。
バキリとワイの哺乳瓶が砕ける。
ファン?
母上の魔力や。
母上、目にも止まらぬ早業魔力で、ワイの予備の哺乳瓶を壊しおった。
母上怒ってる。
「た、達? 当主様。私、私もですか?」
「ええ、アネウット。最近の貴方は、ある意味、馬鹿息子よりも………」
母上の眼が輝やく。
同時に母上の左手の紋章、プラチナム家の魔力紋章も光を灯す。
不味い!
背筋が凍る。
あ、あの光かた。
あれは攻撃色や。
「ヒイィ。逃げるでアネウット」
「え? え?」
「アレは母上の電撃。お仕置きの前兆演出や」
「いったい、何ですか? その電撃お仕置きっていうのは?」
「泣くまで、電魔法でビリビリする、お仕置きや」
「ソ、そんな。酷い」
青ざめるアネウット。
「酷くなどありません! この世に馬鹿を馬鹿のまま、解き放ってしまうわけには、行きませんからね。しつけ、です」
「と、当主様、そのしつけが、若様の頭に、悪影響をあたえてしまった可能性が、あるのでは?」
「ふぁ?」
え?
アネウット今なんて言ったや?
ワイ君の頭がなんやて?
『ワイ君。また何か
ディスられちゃいましたか?』
「ならば、貴方で試してみまょう。アネウット!」
「えぇ〜」
「お仕置きの電撃で、貴方も馬鹿になったとしたら………あの子の馬鹿は私のせいです」
「えぇぇぇ〜」
「貴方に問題が無ければ、あの子の馬鹿は生まれつきです」
アカン。
母上が無茶苦茶言うとる。
コレはアカンで〜!
「そ、そんな。あ、そうだ! どっちにせよ、若様を産んで、この世に誕生させたのは当主様ゆえ。どちらに転んでも、当主様に責任があるのでは………」
「ふぁ???」
「………どうやら、本気でお仕置きが必要なようですね、アネウ〜ット」
母上から魔力のオーラが立ち上る。
どうやら本気になった様や。
「アネウット、火に油を注ぐのはアカンで。あぁ、なった母上には、何を言っても無駄や」
「しかし」
「母上が『ギャオ』ったら。ワイ君等は、ただ奴隷のように耐えるしか無いんや」
「ギャオったらとはなんですか! ギャオったらとは!」
「ヒイィ。ごめんやで母上」
「………」
ワイ君は誤ったが………
母上の表情は変わらない。
許してくれそうにない。
「逃げますよ若様。こんなのは間違ってます」
「ムダやアネウット。母上に狙われて逃げ切れた者はおらん」
「でも!」
「ワイ等はただ、動物病院に連れられたペットの様に、震えるしかないんや」
「若様………」
「ワイが死んだ魚のように、お仕置きを受け流しとる間に、アネウットは逃げてや」
アネウットは妊娠しとる。
ワイが壁に、生贄になるべきや。
「若様………大丈夫です。この私にお任せください」
「無理やアネウット?」
「この若様の護衛アネウット。必ずや若様を守り抜いてみせます。相手が例えば魔王だとしても」
「アネウット………」
「聞こえましたよアネウッ〜〜〜ト。誰が魔王ですか?」
「当主様。ただの例えです」
「悪意がありすぎでしょう! そして私から逃げ切れると………?」
「例え魔術の大家プラチナム家当主と言えども、私が本気で護衛についた以上、突破する事など………何人であろうと出来るとお思いですか?」
「………質問に質問で返してはいけませんよ。アネウット」
「対当主様用、最終決戦兵士アネウット。旦那様ではなく、若様を守る為に、この名前を名乗る事になるとは………」
「ファッ?」
「ちょっと待ちなさい! なんですか? その愉快な二つ名は………あ、いえ、わかりました」
「何がわかったんや? 母上」
ワイには、既にして何もかもわからんで。
「あのアホ夫が、貴方につけた二つ名ですね。アネウット」
「はい。当主様の癖。弱点。ストロングポイント。全て旦那さま。アイアン様より伝授済みです」
アネウットは誇らしげに胸をはった。
「………なんですって?」
「私は元々、当主様から旦那様、アイアン様を守る為の訓練を、アイアン様より受けております」
初耳や。
父上、そんな事を………
余程母上を恐れとったんか?
かしこい母上の考えは、ワイ君にはよくわからんが………父上の考えもよくわからんな。
わからん
ワイには、何もわからん。
わいが無知の無知に目覚めそうになってると、母上は………
「私に隠れて浮気しただけで無く、そんな事を………」
「はい! 私の守りは鉄壁です。護衛対象は、旦那様から若様へと変わりましたが………」
「どうやら、お仕置きが必要な相手が、二人から三人に増えたようですね!」
3人目は父上のことか?
ピコーン
ピコーン
ピコーン
緊急避難警報発令!
ワイ君の緊急避難警報発令!
ワイ君の脳内で緊急避難警報発令!
緊急避難警報発令!
『怪獣が近づいてきます。直ちに避難を』
ワイ君の脳内に、そんな警報が迸る。
思い出すのは、父上が怪獣にヤラれた日の恐怖。
あの日、ワイ君は母上の事が怖すぎて、震える事しか出来なんだ。
アネウットが、ギャオった母上を煽った為に、母上が、あの日見た『ギャオオンモード』に突入したと判断します。
ワイ君は、本日2回目の修羅場に突入しました。
ワイ君の精神が限界に近いです。
至急、限界ゲージを振り切って、パニック発作をおこさないように、キチゲ開放プログラムを発動します。
「ファ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
ワイ君は力の限り絶叫した!
「わ! ビックリした!」
「ファ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「わ、若様。叫んでないで避難してください!」
「ファ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
ワイ君
たま〜に、おかしな悲鳴をあげる。
その時の脳内はこんな感じで
パニックになるのは、こんな時や!
ワイにとって世の中には、理不尽な事が多いでな〜〜〜
叫んで無いとやってられんのや。
それに………
「怪獣が現れた時くらい。パニックになって叫んでもええやろ」
「誰が………怪獣ですって?」
母上に聞かれた。
アカン!
怪獣を怒らせてもうた!
ワイ君は、もう駄目かもわからん!




