9、悪巧みをする母上と、落ち着くための哺乳瓶
母上は妙に上機嫌になってら。
ワイ君の言葉を無視して。
強引に………話を進めよる。
「アネウット。貴方は非公式に、こっそりと息子の側室に入りなさい」
「ど、どうしてですか? 当主様?」
「貴族はイロイロと面倒なのです。特に遺伝的に継承される紋章がね………」
「紋章? まさか私の子に」
そう言ってアネウットは、まだ膨らんでいない自分の、お腹をさすった。
「貴方の、お腹にいる子供。その子は仮に紋章を継承しなくても、貴方のひ孫。お腹の子の孫の代まで、『アイアン家の紋章を宿した子』が産まれる可能性があります」
「それは思いもよりませんでした!!!」
「コレから貴方のひ孫の代まで、お腹の子の血統は、子供が生まれる度に、国から紋章調査を受けることになります」
「調査?」
「お腹の子の血統はアイアン家の、紋章を持つかどうか、国に監視されます。紋章は貴族の特権ですからね」
「ソ、そうなのですか?」
ふ〜ん。
ワイも調査受けたで。
ワイの両手には紋章がある。
それを見て調査員は腰を抜かしとったわ。
あの時は大騒ぎやった。
「ええ、でも産まれてくる子。私には、プラチナム家にとっては基本無益です」
「無益? ………酷い」
「アイアン家の紋章など、私には意味はありません」
「ワイや次男の紋章全否定したな。母上」
「しかし、貴方の子を貴方と私の息子との間の子と偽れば、産まれてくる子供は我が家の宝になります」
ワイの抗議は母上に無視された。
そして………
母上は托卵を企んだ。
ワイの母上は有能。
強い。
強いという事は非道って事でもある。
「そ、それはどういう?」
「ふふふ。ふふふふふ。ふふふふふはふふ」
母上は不気味に笑い続ける。
とてもとても嬉しそうだ。
それに、ナンダカンダ邪悪な気配がする。
「な、なんや! 母上。目が怖いで〜〜〜」
「良いのです。これで良いのです。貴方達。でかしました。良くやりました。褒めてあげます」
「え? え? 当主様? 何がですか? 不安なのですが!」
「ワイ君も全くわからんで? でも………褒められて嬉しいやで〜〜〜」
「良いのです。良いのです。貴方達は、何もかも、私に任せれば良いのです」
「???」
「?」
「とにかく良くやりました」
「はい」
釈然としないアネウット。
「家の者にはしっかりと情報操作をします。アネウットのお腹の子は私の息子の子だと」
「ええ〜!」
アネウットは驚いていたが、ワイ君も驚くで。
「そこまで徹底するんか?」
「私の夫の子だと言うものには、死んでもらいます。貴方達も口にしないように」
「ファ?」
今、死んでもらうって言ったか?
母上は上機嫌。
イッチャッタ目でナンダカンダ話す。
ワイ君にはさっぱり意味がわからん。
が………
「ファ〜〜〜〜! なんや、悪巧みの匂いがするで〜。母上、何をする気や?」
「貴方が知らなくて良い事をするのです」
「ファ?」
「全て私に任せなさい」
「でも母上。そんな嘘、すぐバレてまうで」
ワイ君が当たり前の疑問を口にする。
既にして………とき既に遅しやで。
アネウットとワイ君の父上の事。
全てを家中の者に知られまくっとる。
母上がギャオった事も含めてや。
今更隠蔽は不可能やないか?
「我がプラチナム家には、私の言う事を聞かない無能など、貴方しかいないのですから大丈夫です」
「ファ?」
無能って言われた。
「貴方さえ黙っていれば、アネウットは幸せになるのです」
「………ホントか? ホントにそうなんか? あれ? ワイ君なんかディスられた?」
褒められてるのかディスられてるのかよくわからんね。
混乱するワイ君を無視して、母上は上機嫌で会話を進める。
「私を誰だと思っているのですか?」
「ワイの母上や」
「貴方の母親は無能ですか?」
「ワイの母上は有能や」
「じゃあ。有能な私に任せなさい。良いですね!」
「うん。ワイ君わかったやで〜〜〜」
「と、当主様」
「なんです?」
婚枠気味のアネウットと、ニッコリしてる母上。
「コレって若様を洗脳してるのでは………」
「ファ?」
「洗脳ではありません。教育です」
「教育? コレが教育ですか?」
「こうやって、プラチナム家の男の子は育つのです」
「………もしかして、若様の頭は先天的なものでは無く、若様の教育方針に問題があったのでは………」
「アネウット。何か言いましたか?」
「若様のあ………」
「アネウット! な、に、か、言いましたか? 私、当主なんですけど」
「い、いえ」
「よろしい」
「ええんか?」
母上が理詰めでなく力で押さえつけるのは珍しいで。
ホンマに今日の母上はどうしたんや?
「とにかく何もかも私に任せなさい。何も心配はいりません」
「………は、はい」
そういう事になった。
ワイ君には、何もわからなかった。
何もわからないワイは、とりあえず落ち着こうと………
いつもの様に自家製のドクダミ茶?
みたいな飲み物を用意する。
そしてドクダミ茶らしきものを………
ワイ君、愛用の哺乳瓶に入れる。
そんなワイの行動に気がついた女性陣。
それを他所に………
自家製ドクダミ茶の入った哺乳瓶を口にくわえる。
「はぁ〜〜〜。やっぱり哺乳瓶で、自家製のお茶を飲むと落ち着く」
「………」
「………」
「人類全員が、産まれてから死ぬまで哺乳瓶を愛用すれば、争いは減ると思うんや」
「………」
「訳のわからない飲み物を、訳のわからないい飲み方で飲むんじゃありません! みっともない」
「ンキュ、ゴキュ。母上が何言うとるか、わけわからんで」
「訳がわからないのは、アナタの行動です」
「ん? なんでや? 飲み物飲むのに使う哺乳瓶は、マストアイテムやろ?」
「………」
「………」
「あ、頭が痛くなってきました。アネウット。この子の教育を頼みます」
「はい」
「ホントに頼みます。この子に良く言い聞かせておいてください」
「は、はい」
「さ、若様。お行儀が悪いですよ。哺乳瓶を使う時、噛んではいけません」
「ん? あ、そうか。それはワイ君が、うっかりしとったで〜〜〜」
「さぁ、私が飲ませて差し上げましょう」
「ありがとうやで〜〜〜」
「ちが〜〜〜う。アネウット。馬鹿息子。貴方達は根本的な所を間違っています!」
「え?」
「哺乳瓶を使う事、それ自体がおかしいのです」
「なんでや? それはワイ君の趣味や、習性や、アイデンティティや。断固抗議するで」
「な? アイデンティティ?」
「当主様。コレは、そういうプレイなのですから。そのような事を言うのは無粋ですよ」
「プ、プレイ?」
「はい」
「そんなおかしなプレイを、人前でするんじゃありません!」
「人前でするから楽しいのです。アイアン様が、そう言っていましたよ。当主様」
「あ、あのアホ、アイアン! またしても彼奴の仕業でしたか…………」
「彼奴? ワイ君の父上、凄い言われようやな」
母上の攻撃の矛先が父上に移る。
なんか全ての罪が、父上のせいになった。
そのおかげで、ワイ君は説教されずにすんだで。
ワイ君の父上は無能。
無能なのにワイ君はおかげで助かった。
なんでやろ?
つまり父上は無能なのに、有能なのかもしれん。
それにしても………
アネウットがワイ君の側に来てくれてから、母上からかばってくれる。
そのおかげで、怒られにくくなって良かったで!
アネウットは間違いなく有能。
持ってて良かった有能アネウットや。
コレでゆっくりと、枕を高くして哺乳瓶を使えるでな〜。
ホントに、ありがたい事やで。
そうや!
明日は哺乳瓶に炭酸飲料入れよう。
初挑戦や。
哺乳瓶で飲む炭酸………
ゴクリ!
いまから………
はじめての感覚を想像してワクワクするで〜!
翌日
こわされた哺乳瓶を見つけるまで
ワイは幸せだった。
犯人は誰や!
◆◆◆◆
モテない人間も満足していれば幸せな人間だ
モテる人間も満足して無ければ不幸な人間だ
パートナーのいない魅力的な異性を見つけたら、その日のうちに口説け
今日はフリーでも。
明日には他人の物になってるかも知れないのだから。
その時に後悔しても遅いのだ
故に………
のろまが良いパートナーを連れてる事は滅多にない。




