2−2
そのままヴィオラとお茶会をすることになった。二つ向かい合った席の一つに、ヴィオラがふんわりと座った。
「元気そうで何よりです」
はしゃいだ様子で席につく僕を見て、ヴィオラがツンとそういった。
「やっぱり、心配してくれたの?」
「それほど、心配してません」
「でも、お見舞いに来てくれたんでしょ?」
「え、いえ、それは、その」
ヴィオラが言葉に詰まり、視線をあちこちに向け始める。その仕草が小動物のように愛らしくみえる。
「ヴィオラ?」
「そ、そう。王妃様からセオドール様にとお見舞いの品を預かっていたので伺ったんです!」
ああ、王妃様か。叔父である陛下の妻だから僕からすれば叔母さんになる人だ。
「王妃様……か」
僕が思わず漏らした言葉にヴィオラが横髪を指ですくいながら言った。
「どうかされましたか?」
「なんだか、王妃様の前だと、どうすれば良いのかわからないんだ。王妃様にとって、僕は何なのかなって思って……」
頭もよく、教養もある綺麗な人だ。直接話したことも何度もある。けれど、いつだって僕と王妃様の間には分厚い壁があるみたいで、触れて良いのか不安になってしまう。
しばらくヴィオラと話していた後、ヴィオラの侍女がポットを持ってきてカップにお茶を注いだ。二つのカップが茶色い液体で満ちる。
「これは、王妃様から頂いたお見舞いの品で、バリトリア産の茶葉です」
ヴィオラの言葉を聞きながら、早速飲んでみる。特に変わった味ではなかったが美味しかった。
「バリトリアのお茶なんて初めて飲んだ」
「王妃様はバリトリアの出身ですから」
バリトリアはこのアークリシア王国の隣国で、たしかに王妃様の出身地だった気がする。
「そういえば、僕、王妃様と3日後の午後に茶会に誘われてるんだ」
つい昨日のことだ。少し話がしたい、と手紙を頂いた。そのことを思い出していると、ヴィオラが驚いた様子で目をまんまるに見開いた。
「え、王妃様に!?」
僕はそんなにおどろかれると思ってなくて、気圧されながらうなずいた。
その後もしばらく他の話をしていたけど、ヴィオラはどこか上の空に見えた。
ヴィオラはいつも、音をほとんど鳴らさずにカップを置く。でも、ヴィオラのソーサがガチャガチャと大きな音をたてた。ヴィオラが気まずそうに目を伏せたところで、僕はたまらず
「ヴィオラ、どうしたの?」
ときいてしまう。
「いえ、その……」
いつもはっきりと答えるヴィオラにしては珍しく言いづらそうに見える。
「ねぇ、ヴィオラ」
興味と心配で半々になった僕が、焦れるように声をかける。どうすれば答えてくれるかと思わず考え込みそうになったとき、ヴィオラが口を開いた。
「あの!……私もそのお茶会に一緒に行きたいです。無理でしょうか?」
「へ?」
「王妃様とのお茶会、です」
「別に構わないけど……」
もっと深刻なことかと思ったので間抜けな声が出てしまう。
ヴィオラと王妃様の仲は良かったと思うし、茶会に参加するのは多分大丈夫だと思う。ヴィオラは王妃教育の関係で、個人的に合うことも多いはずだし。でも、なんでこんなに思い詰めてるんだろ?どうして急に……僕の頭の中に、次々と疑問が湧いてくる。でも、考えてもよく分からない……。
結局、ヴィオラには何か考えがあるのかも知れない、そう思うことにした。
――面白いことかな?危なこと?
唐突にそんな言葉が湧き上がった。
僕は刺激に飢えているのかもしれない。ヴィオラがこんなに真剣な様子なのに、ワクワクしてしまう。
これまでは良かった。退屈な王城での生活でも良かった。我慢できた。でも、リオに会って、いろんな新しいものを見て、危ない目にも会って。それが、だって、すっごく楽しいって知ってしまったから。
なんだかワクワクすることをしないと、もう耐えられないんだ。
僕が不治の病にかかったって、デタラメじゃなかったのかもしれない。ワクワクすること、危ないことをしないと耐えられない病気。面白いことを求めちゃう病気。
きっとこれはもう絶対に治らない。