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8−4

 団員達が、静かな興奮に包まれる中、レイノルドは弟、ギルバルトに近づく。


 「何故、殿下に向けて剣を?」


 幸い、大きな怪我とはなっていないようだが、ためらいなく殿下の腕を切ったギルバルトに怒りを感じていた。

 それは、セオドール殿下のことを少なからず気に入っていたこともあるだろう。だが、ギルバルト、いかにも子供じみた短絡的な行動を取ったことへの怒りが大きかった。


 「なんでだめなんだよ。 あいつ王族じゃねぇか。私利私欲のために騎士団をこき使う連中だろ」

 「セオドール殿下は、そんな方では――」

 「いいや、いっしょだ。王族なんて、みんなそんなもんだろ」


  これまで騎士団は、主にベルランツ殿下からの意に沿わない命に従ってきた。……今も、反乱分子として民や商人に罪を被せ、とらえるという命令がでていた。結局、近衛騎士団の方が動くようだが…… 。


 「だからといって、いきなり切りかかるのは、賊と変わらん」

 「あいつが切れって言ったんだろ。それに、どうせビビってよけるから。そしたら、さっさと追い払えるって思って――」

 「ギルバルト、お前――」


 視界のはしで、セオドール殿下の体が揺れたのが見えた。後ろにいた護野の青年がすぐに抱き止める。

 自分が思っていたよりも殿下の怪我が酷かったかと思っていると、殿下を抱き抱えた青年がこちらを見て。冷たい声で言った。


 「出血と疲労だ。手当てができる場所はあるか?」

 「ああ、案内しよう」


 医務室まで先導し、中に入る。青年が備え付けられたベットに殿下をゆっくりと横たわらせ。


 ――彼は、何だ?護衛、なのか?殿下とどういった関係なんだ?


 少しの興味から、棚をあさる青年に問いかける。


 「君は、殿下の護衛、なのか?」

 「そうだ、セオもそう言ってただろ」


 ぶっきらぼうな言い様よりも、セオ、という呼び方の方が気になった。

 ますます彼と殿下の関係が分からなくなる。


 「だが、君はギルバルトから殿下を守る様子を見せなかった」


 彼は、ギルバルトが剣を振り上げた時、殿下を庇う様子を一切見せず、じっと見ているだけだった。

 青年が、アルコールや包帯などを抱え、こちらを見る。暗い紫の目が、こちらを射抜くように細められる。


 「セオの腕はセオのものだ。こいつが許可したんだ。守る必要はない」

 「それでも、守るべきじゃないだろうか?殿下はこの国の王子で、革命を起こせば、当然、王になられるのだろう」


 そうでなくとも。主の腕が切飛ばされそうになっていて、それを平然と見ているというのは理解しがたかった。強引にとまではいかなくても、忠言ぐらいはするだろうと思う。それとも、この青年にとって、殿下はさほど気をかけるような主ではないのかもしれない。どんなふうになろうとも、自分とは関係がないと思っているのならば、この態度でも頷ける。


 青年は殿下の右腕をとり、アルコールをかけた。殿下は小さくうめき、それを見て青年が口許をゆるめた。


 「右腕を失っても王にはなれる。オレが変わりに右腕になればいい。左腕 なら左腕、足なら足、目なら目、耳なら耳になればいい。だから、セオがいいと言うなら、止める気も、怒る気もない」


 青年がクルクルと包帯を巻き始めるのを見ながら考える。

 この青年にとって、殿下がどうでもいい存在であるとは、思えなかった。あまりにも……強い言葉。芯の入った響き。


 「命なら?止めるか?」

 「止める。止めるとすれば、それだけだ……」


 包帯を巻いていた手が止まった。


 「それと、狂人になったら止める約束をしている」

 「狂人?殿下が?」


 この常に高いところで光を放つような殿下と、狂人という言葉が、全く結びつかない。


 「そうだ」


 青年が揺れる水面のような声で答える。


 殿下を見ると、彫刻めいた静けさだけがあった。窓から入る初夏の風が柔らかな髪をふわりと巻き上げる。


 青年のあり様もまた、一つの尽くす者としてのあり方だと、思った。


 ただ、自分には分かることはない考えだった。

 この二人の関係がどのようなものかも、分かりそうにない。冷たいようで温かく。近いようで違い。ほんの些細な事で切れてしまう繋がりとも、決して切れることのない絆にも思える。


 青年の指が、殿下の頬にかかった髪を、弧を描くように払った。


 「なあ、さっきのは嘘だ」


 青年がおもむろにそう呟いた。


 「嘘?」


 殿下の顔を見つめたまま続ける。


 「止める気はない。でも、怒りは感じる」


 すっと息をのんだ。青年が底冷えする目でこちらを見ていた。

 何か言おうと口を開いた時。




 勢いよく医務室の扉が開く。


「殿下、こちらにいらっしゃいますか!?」






 ウィルの声が聞こえた気がして、目を開ける。体を起こそうとすると、右腕が鋭く痛んだ。腕は治療してくれたのか、包帯がキレイに巻かれていた。


 部屋には、リオ、レイノルド団長、入口付近にウィル、エリックとシアまでいる。


 ウィルは、僕がベットにいるのを見て怪訝な顔をした。

 シアが、沈痛な面持ちで告げる。


 「リベルトさんが、さらわれました」

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