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8−3

 「そういうことで、お願いしたいんだけど……」

 「……それを、あっさり承諾すると?」


 騎士団団長。グレイスラー・レイノルドが呆れたようにそういった。


 それはそうだ。いきなり革命を起こすから騎士団にも協力してほしい、なんて言ったところで、了承してもらえるとは思っていない。それでも、僕には愚直に頼むこと以外の方法が思いつかなかった。


 「ごめん。そうだよね」


 レイノルド団長がふう、とため息を付いた。

 その姿に、更に気が重くなる。


 「レイノルド団長ならって、思って」

 「どうしてですか?」


 レイノルド団長とは、一度だけ決闘で手をあわせたことがある。その時……


 「優しいから」


 そう思ったことを思い出した。


 「あれは……迷いです。優しさじゃない。それで、その優しさにつけ込みに来たのですね?」

 「ああ、いや、えっと」


 たしかにそのとおりだ。レイノルド団長の優しさにつけ込みに来た。それ以外になにも思いつかなかったとはいえ……失礼なことだろう。


 「ベルナルド兄様のこと、あんまり好きじゃなさそうだったし……」


 あの決闘の時、楽しそうに笑っていたから、協力してもらえるかもしれないと思ったのだ。


 ――甘い考えだった。今日は出直すしか……。


 「俺は分かりましたが、騎士団全体となると、説得は難しいです。自分でしてください」

 「ん?え?……協力、してくれるの?」


 レイノルド団長は側付きを呼ぶと、団員を集めるように言いつけた。


 「王国騎士団は王族に仕えるもの……同じ王族なら、セオドール殿下に従うことに、何の問題がありますか?」


 レイノルド団長は、あの決闘のときと同じ、晴れ晴れとした笑みを浮かべた。






 騎士団の団員が広場に集まり、整列し始める。


 「ところで、その、彼は?」


 レイノルド団長が、僕の後ろで我観せずといった調子に見えるリオを戸惑い気味に見る。


 「僕の護衛。気にしないでいいから」




 整列した騎士たちの前に立った。訝しげだったり、無関心だったり、面倒そうだったり、いろんな視線が不躾に僕を見る。


 あれって、第二王子だろ。誰だよ。ほら、団長負かしたやつ。あのひょろひょろで?なんかズルしたんだろ。いや、剣はなかなかだった。俺は見てたけど。あの腐れ王子の弟とは思えねぇ剣筋。団長は気に入ってる。ホントか?多分。なんでここにいんだ?


 僕の眼前に立っている男が、僕をギッと睨みつけた。

 思っていたよりもきつい視線に気圧されながらも口を開こうとすると、それを遮るように僕を睨んでいた男が声を上げた。


 「団長。早く鍛錬に戻りたいんだけど。なんの集まりだよ」

 「ギルバルト。静かに」

 「兄貴、王族に媚売んのは――」

 「ギルバルト!話を聞け!」


 僕が口を開くべきか迷っていると、レイノルド団長が僕の側で小さく告げた。


 「うちの弟で、副団長です。申し訳ありません」


 周りの団員たちも、ギルバルトに同調するように苛立った様子を顕にする。

 ギルバルトはだらしない姿勢をとり、僕を見る。


 「ここにみんなに集まってもらったのは、頼みがあるからなんだ」


 頼みという言葉に、ギルバルトが絶対聞いてやらんと言わんばかりに鼻を鳴らした。


 「僕は、近いうちに革命を起こそうと思っている。それに、騎士団にも協力してもらいたいんだ」


 ――言ってしまった。もう、逃げられない。ここで説得するしかない……。


 「僕は、この国を変えたい。今のこの国で不幸になっている多くの者の為に……」


 他にどんな事を話すべきかと、ふと思案した隙間に、ギルバルトの声が入り込んだ。


 「ふざけんなよ!今まで王族が、貴族が、どんだけのことをっ!それを今更、変えたい、だ?王子が?」

 「そうだ」


 はっきりとそう応え、見返すと、ギルバルト僕の胸元につかみかかった。


 「王子殿下のおままごとにつきあってる暇はねぇよ。何の覚倍もねぇガキが。革命?笑わせやがる」

 「覚悟?その話ならもう終わったんだ」


 僕が背後で動いたリオを腕で制止し、ギルバルトの目玉を静かに見る。

 リベルトに革命への協力を頼まれたとき、僕は迷って、迷いながら協力を約束した。その後も、ふらふらと迷っていた、でも今は違う。


 塔の上で革命を起こし、王になることをはっきりと決め、覚悟したうえで、リオを連れ、ここに立っている。

 ギルバルトが僕をつきとばすように手を放した。


 「ハッ!何にしろ協力なんてするかよ。帰れ」

 「覚悟があればいいのか?」

 「王子殿下の思いなんてどれほどのものか知れてるけどな」


 ギルバルトが僕を威嚇するように嗤った。


 少し考えて、レイノルド団長の方を見る。


 「前に、僕の腕が欲しいって言ってたよね?」

 「いえ、それは……」

 「剣を持つ方の腕、右腕を切り落としたっていいよ。騎士団が僕に協力を約束してくれるのならね」


 レイノルド団長がぎょっとしたように目を見開く。整列していた団員たちがざわりと揺れる。


 「どうかな?」


 全員に問いかける。僕の覚悟を認めるかどうか。協力するのかどうか。


 「へぇ、なら切ってやるよ。絶ッ対 動くなよ」


 ギルベルトがそう言い放ち腰に差していた剣を抜く。獰猛な笑みで僕の前 に立ち、剣を構えた。


 「分かった」


 そう答えるのと同時に、剣が振り下ろされる。僕の右腕に向かって一直線に走る。


 「止めろッ!ギルバルトッ!」


 レイノルド団長の声が聞こえたが、剣はそのまま向ってくる。 よけることのできる剣だ。半身になれば、それだけでかわせる。けれど 僕はそのまま動かないで、じっと立つ。


 振り下ろされた剣の切先が僕の服と肩からし、腕を真っすぐに切り、だらだらと血が流れ出した。


 「騎士団のみんなに、改めて協力をお願いする。僕に、協力して欲しい、力 を貸してくれ」


 僕の言葉に、レイノルド団長が軽く手を上げる。


 「俺は協力するつもりだ。彼が、覚悟を持ち行動していると確信している」


 「誰が為の行動ですか?」


 団員の一人が声を上げた。


 「勿論、この国に生きる、すべての民だよ」


 右腕を伝った血が、指先からポタポタと落ち始める。それをかかげて見せる。


 「僕の腕一本で、それが叶うというなら、喜んで切ろう」


 団員の一人が膝をついた。胸に手を当て、ピンと背筋を伸ばす。騎士の礼だった。


 「僕は救いたいものが多すぎるんだ。僕一人じゃ到底出来ない。だから、助けて欲しい」


 一人、一人と膝をつきはじめる。


 「……他の王族とは違うことを、願います」

 「それは、我らが騎士としての本望でしょう」

 「支えることを、約束しましょう」

 「剣を、あなたの覚悟に捧げます」


 僕は、赤くなった右腕を見ながら、考えた。僕の覚悟は、これで示されるのかと。右腕の傷に指を這わせながら声を出す。


 「切り落とすって言ったからね」


 目の前で、唇を噛み締めて立つギルバルトの剣を取る。


 「こんなんじゃ、浅すぎる」


 剣を左手で握りしめる。


 ――うまく切り落とせるだろうか?左じゃ無理かもしれない。自分の腕だとなおさら切りづらい。


 「――殿下っ!セオドール殿下っ!」

 「何かな?レイナルド団長」

 「もう、全員膝をつきました。これ以上、殿下の腕に剣を向ける必要はありません」


 パッと意識が戻る気がした。


 「ああ、そうだね」


 視界に入るのは、綺麗に並ぶ騎士団員。全員が、膝をつき、礼をとっている。


 「ありがとう。本当に、感謝する」


 ――よかった……。


 安堵したところ、不意に身体が重くなる。ふらりと視界が回った。


 「セオッ」


 後ろに倒れかけた僕を、リオが支えた。


 「もう、いい。休め」

 「で、も……」

 「気、張ってたんだろ。寝てろ」


 ――柔らかくて、優しい声……

心地良い声色に包まれながら、意識が途切れた。

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