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8−2

 ネルバール商会から出た後、エルガーは用事があるからと慌てた様子で僕らと別れた。そして僕は、いつものように自室に帰り……ウィルとリオが僕の前で眺み合っている。





 ――僕は、翌日から早速騎士団へ行き、話をしようと考えていたわけだが……


 「騎士団?護衛は?」


 リオの目が細まった。


 「護衛?そこまで襲戒する必要はないんじゃ……?」

 「………セオ、何しにいくつもりなんだ」


  そこでなるほどと気づいた。僕がしに行くのは裏切りの打診と交渉だ。確かに少し危険かもしれない。


 「でも、エルガーは用があるってどこかにいったし……」

 「なら、オレが護衛する」


 リオが何でもなさそうにそういった。


 「いいのか?行くのは騎士団だし、危険なことになるかもしれない」


 リオは僕を呆れ顔で見て、眉をひそめた。


 「お前、さっきまで護衛無しで行くつもりだっただろ。そんなやつが何言ってるんだ」

 「あ、そっか……お願いするよ」


 リオが話は終わりだとばかりに背を向けるのを引き止める。


 「なんだ?」

 「いや、今日は僕の部屋に泊まっていけば良いんじゃないかと思って」

 「はぁ?」


 リオが口を開け素っ頓狂な声を出す。その様子に笑いながら話す。


 「だって、今から帰って明日まで僕のところまで来るなんて面倒だろう?」


 リオは少し考えると思い直したようで、コクリと領いた。


 「それもそうだな」



 それで、いつもの王城裏の隠し通路から僕の部屋にリオを招き入れ……今、ウィルがなんとも言えないような表情でリオを見ている。


 「殿下……彼は?」

 「彼はリオ。僕の街での行動をいろいろ手助けしてくれて、それで――」

 「何でつれてきたのか?という質問です」

 「護衛に」


 リオがボソリと応え、ウィルが苦い顔をしながら一本ずつ釘を刺すように僕とリオを順番に見る。


 「夕食を二人分持ってきます。あと、絶対に城の者に見つからないようにしてください」


 ウィルがでていった扉を見ながら、リオが近くにあったソファに座った。


 「あれは?」


 視線は扉を見たままだった。


 「ウィルバルト。僕の側近」

 「革命のことは?」

 「話してるよ」


 リオはゆっくりと目を閉じ、ソファにもたれかかる。しばらくして、ウィルが夕食を二人分テーブルに並べてくれる。夕食はトリ焼き、パン、スープとシードケーキ。

 リオは無表情ながらもすごい勢いで皿を空にしていく。僕はパンをスープに浸しながら、横に立つウィルの方を見る。


 「ウィルもいっしょに食べよう」


  ウィルは僕の言葉に困り顔を浮かべる。瑠璃色の瞳が悩むように揺れた。

 きっと、どう断るのが一番いいのか考えているのだろう。困らせるのを分かっていてきいてしまう。それは僕が……悪趣味だからだろう。


 「私は、後でいただきますので……」


 ウィルは僕の従者でいたいのだろう。そう思った。対等ではなく、使える立場。従者は主人と同じテーブルで食事をとらない。


 「冗談だよ、ウィルの困り顔が見たかっただけ」


 ふと気になりリオを見ると、食べ終わってそのまま眠っていた。


 「もう眠ってしまったんでしょうか?」


 ウィルが、森で眠る狼を見るような目をリオに向ける。


 「疲れてたのかもね。それより、リオを連れてきたこと、もっと怒るかと思ってた」

 「それは……」


 ウィルが僕の胸元辺りを見る。


 「彼が、その殿下が首に下げている十字架に関係があるのではないかと、 思ったので…… 」


 僕は驚いて手に持っていたフォークを落としかける。


 「知ってたのか、十字架のこと」


 隠していたわけではなかったけど、話したこともなかった。

 ウィルはクスクスと優し気に笑う。


 「昔、街へ行った時に持って帰ってきて、それ以来、引き出しにしまい込んでいたでしょう。……けれど、最近また街へ行くようになってからずっと身につけて……よほど大切なものなんだろうと思っていました」


 僕は服の上からリオにもらった十字架を握りしめる。普段服の中にしまい込んでいるから誰も気づいていないと思っていたし、僕自身も肌に馴染みすぎて忘れていたほどだ。


 「何でリオに関係あるって思ったの?」

 「なんとなく、ですね」


 ウィルはあいまいに微笑んで、リオの方をうかがいみた。


 「彼は、殿下とどういったご関係なんですか?」


 その質問は、エルガーにもされたものだった。しばらく考えてから言う。


 「分からない。言葉では言い表せないんだ。説明すれば、それは多分嘘になってしまう」


 リオと僕の関係。それは、他人に話して伝えることができるようなものなのだろうか?


 僕の答えに、ウィルが少し寂しげに息を吐いた。


 「彼は殿下の隣に立てるんですね。私とはちがい」

 「ウィル?」

 「私は、殿下の隣にいることはできません。従者として側にいるのみです。もちろんそれは私の望むところではあります。ですが、それでは私は殿下の手を引くことはできませんし、歩を並べることもありません」


 ウィルは、飛べない我が子を見る親鳥のような目で僕を見ていた。


 「隣で支えられれば……とも思うことがあるんです。……少し、彼が羨ましい」


 ウィルが少し眩し気にリオを見る。


 「僕はウィルに何度も助けられてきた。ねぇウィル、それが、僕とウィルの関係の形で、何もいけないことは無いと思う、どうかな?」

 「……おっしゃる通りですね。隣は彼に任せておきます」


 そう言うと、ウィルは満足気に笑った。

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