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菫色の願い

 最近、セオドール殿下と会うことが少なくなっていた。




 極稀に会う社交界でも、自然にすれ違い会話をしても、昔のような距離感になることはない。それが寂しくて、でも、殿下のほうがずっと辛そうに見えた。

 それが心配になって、一度こっそりウィルバルトという殿下の側近に聞いてみたことがある。


 「やりたいことが思うようにできないのだと思います。ヴィオレッタ様が気になさることでは……」


 それを聞いたときの私はどんな顔をしていたのだろう。

 殿下との関係のなかで、完全に外側にいるのだと、そう言われた気がして。


 ――私だって、殿下の助けに……




 「ヴィオレッタ嬢が謝罪することではないよ。その……頭を上げてくれ。君には何の問題もない。あの場で君がなにか言うというのもおかしな話だ」


 ちがう。謝罪させてほしい。

 殿下だけの問題ではなく、私の問題にもしてほしい。殿下の持つ苦しみを、私にも、少しでいいから分けてほしかった。


 「……殿下は、私を遠ざけようと、なさっていますね。それは私を守るためでしょうか?」


 殿下が言葉に詰まる。


 「いつも、私ばかり守られていますね」


 ――困らせている……これは、私のわがまま


 胸に小さなトゲが刺さるように罪悪感を感じたけれど、すぐに吹き飛んでしまった。


 ――ヴィオラ


 久しく殿下の口から聞いていなかった、懐かしい響きで、暖かさに包まれる。


 ――殿下はいつだって真っ直ぐに私を呼んでくれる。私も、私の気持ちをそのまま伝えたい。


 「私はいつだって殿下に守られてきました。だから、私も殿下の力になりたいんです。間違えないでくださいね、これは、私自身が望むことなんです」


 ――わかって欲しい。それが私の願っていることだと。


 「殿下が私を頼ってくださる気になれないのであれば、構いません。けれど、私はそれがすごくもどかしく、悲しいんです」


 拒絶されてしまうんじゃないかとすごく怖かった。ここで、関係ないことだと言われれば、きっとすごく辛い思いをすることになる。でも、本当のことを言わなければ伝わらない。殿下は私と違い、嘘が分かるわけではないのだから。


 言い終えて殿下の方を見ると、こちらをじっと見ていて、なんだかすごく恥ずかしいことを言った気がした。ついいたたまれなくなり、慌てて立ち上がり退出する。




 廊下を歩きながら、火照った顔を挟み込むように抑える。


 「うーーー」


 気恥ずかしかったけれど、胸の中に溜まったもやもやを吐き出したように清々しい気持ちだった。

 殿下はきっと、頼られることがどれほど嬉しいのか知らない。

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