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4−2

 数日後――


 劇場の持ち主であるセルアン子爵について、ウィルに急いで集めてもらった情報をまとめた資料に目を落とす。それから、今しがた対面に座った子爵の方を見た。


 「本日はお日柄もよく、セオドール殿下におかれましては、どういったご要件で……?」


 僕は、情報を集め次第すぐにセルアン子爵を呼びつけた。


 ウィルが、僕とセルアン子爵の間の机に紅茶を入れたカップを置く。

 僕はもみ手をする勢いの子爵に、ため息を付いてから話を切り出した。


 「子爵、君は王都で劇場を運営しているよね?」

 「はい、ありがたいことに盛況でして……これもひとえに皆様や殿下のおかげで――」

 「だが裏では奴隷を売買している」

 「なっ……」


 子爵の目がわかりやすく揺らいだ。


 「何をっ!急にっ。……御冗談を」


 僕はウィルから書類を受け取り、それを子爵の方へ投げた。リオが回収し、僕が受け取った奴隷売買に関して子爵が関与していたという証拠資料だ。


 「これを見ても……冗談だと?」

 「な、これは、違うのです。その、理由があり――」


 セルアン子爵が、ひたいに汗を浮かべ、真っ青になりながら必死に弁明する。


 「奴隷売買は、王国では重罪だ。どんな理由なら許されるのかぜひ聞きたいものだよ」

 「……これは、陛下から許可されている事業の1つでありまして……」


 あまりにもな言い訳に、思わず怒気が漏れる。


 「は?」



 「……ッ…。…い、いえ、そのですね、」


 子爵の顔が白く染まり、ブルブルと震えている。


 ――落ち着くんだ。冷静になれ。

 必死に心を落ち着け、なすべきことだけを考える。


 「ところで子爵、僕も事業というものに興味があってね」

 「……は、はあ」


 僕の急な話の転換についていけない子爵は、かろうじてといった様子で相槌を打つ。


 「劇場を僕にゆずってくれないかな?」

 「へ?それは、あの」


 戸惑う子爵に笑みを見せ、子爵の手にある証拠資料に視線をやる。


 「今回のことは、僕の胸のうちに留めておくとするよ」


 僕の言葉に察した様子で子爵がうなだれる。この場合、子爵にとっては脅しだ。

 王都にある、他国の重鎮まで通う劇場。劇か奴隷か、どちらが目当てだったかは知らないけれど、この子爵にとっては相当な痛手だろう。だが、実質拒否するなんてことはできない。


 「もちろん、少しは払うつもりだ」


 そう言って、買い取りに関する書類を取り出す。


 「どうかな?」


 一番下の欄を、指でコツコツと叩いてみせると、子爵は震える手でそこにサインを加えた。







 「本当に、見逃すおつもりなのですか?」


 セルアン子爵が背を丸めながら出ていった扉を見ながら、ウィルが僕に尋ねた。


 「僕の胸のうちに留めるよ。けれど何らかの理由で、騎士、衛兵があの劇場の裏に入る予定なんだ。そうなればバレてしまうかもしれないが、それは僕の責任外だよ」

 「……たくましくなられましたね」


 ウィルが僕の言葉に呆れたように笑った。


 あの囚われていた子供たちは、エリックのいる孤児院に預けるつもりだ。そして、孤児院の運営費として、僕が今買い取った劇場での収益を当てられるんじゃないかと思っている。


 「街に行っていたおかげかな?」

 「そういうものは貴族社会で身につけるものかと思いますが」

 「僕に貴族社会は合わないよ」

 「そうはいっても、一週間後のパーティにはきちんと出席してくださいね」


 ウィルが僕に釘を押さすように言う。


 「はぁ、いかなきゃだめかな?」


 何の意味もない上、今まで避けてきたことだからなおさら憂鬱だった。


 「今回は、陛下からも出るように、と言われているんですよ。同時に、あの病弱者で無能の王子だという不名誉な噂も払拭してきてください」

 「病弱者は便利だしいいよ。……無能は、そのとおりだ。アティードを持たない無能の王子」

 「殿下っ!」


 感情的な声に、ウィルの方を見ると、苛立った瞳と目があった。僕よりずっと悔しげな様子に、思わず笑みが浮かんだ。


 「心配しなくても、でるよ。舞踏会だったかな?」

 「立食パーティですよ……」

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