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3−8

 あれから特に何事もなく、あの場から立ち去ることができた。ちなみに、入口の男たちはそのままだったから、リオが持ってきた酒をふりかけていた。

 月の光の中、5人でふらふらと歩いていた。




 「あんがとな。セオ!」

 「うん。助けられてよかったよ」


 僕は、1人を腕で抱え、もう1人を背中に背負ったエリックを見ながらこたえた。


 「リオも!」

 「ああ」

 「んな不機嫌そうな顔すんなよ。依頼料はちゃんと準備するって」


 二人の少年がすやすや眠る様子にエリックが嬉しそうに笑う。


 「そういやセオ、今夜どこに泊まるつもりなんだ?」

 「この近くのどや街にでも泊まろうかと思ってる」


 エリックがジトっとした目で僕を見た。


 「セオ、あんたみたいなお人好しの金持ってるやつは、もっといい宿に泊まるもんなんだよ。あんなとこにセオが泊まれっかよ」

 「そう言われても、今から空いてる宿を探すのは……」

 「そうだ!リオんとこ泊めてもらえばいいじゃん!」


 「え?」

 「は?」


 僕とリオの声が重なった。


 「なぁ、いいだろリオ。元々知り合いみたいだしさ」 


 僕は慌ててエリックを引っ張り、声を潜めながら話しかける。さっきあれ程言い争っておいて、泊めてもらおうとも、泊めてもらえるとも思えない。


 「エリック、僕は良いから。それに、さっき……」

 「分かってるって。おれはどっちも悪いとは思わないけどさ……でもさ、このまま別れれば、後悔するって」

 「それは。そう、かもしれないけど」


 エリックが優しく笑った。それが僕らを見守るようで、こういうところが、孤児院の兄貴分なんだなと思った。


 「それより、リオが了承するはずが――」


 エリックと話していた僕の耳に、前を歩いていたリオの声が聞こえた。


 「いいぞ」

 「へ?いい、のか?」

 「ああ。ただ、あまり長い間泊める気はないからな」


 僕がリオの言葉に呆然としていると、エリックが僕の服を引っ張って笑う。


「な?」


 エリックがそのまま僕を引き寄せ、リオに聞こえないよう話す。


 「おれはセオとリオがどういう知り合いかしらねぇけどさ、リオ、いつもと違うんだ。なんか、やわらかいっていうかさ」

 「やわらかい……?」


 あれのどこが!?というのを寸前でこらえる。それを察したのか、エリックが小さく笑った。


 「そっちは分かんにくいけど、あんなに感情的に怒ってるのは初めて見た」

 「それだけ僕が怒らせたってことだろうね……。実際、あの状況で、リオに言うことじゃなかった」


 そもそも、リオがいなければ檻まで行くことさえできなかっただろう。リオに頼り切りの分際が取る態度でもなかった。


 「そうじゃねぇよ。リオはさ、どうでも良ければ黙っておいてくか、相手にしないやつだ。それに、おれは今回のこと引き受けてくれたのはセオがいたからじゃないかって思ってる……まぁ、さっきの言い合いは、誰か来るんじゃないかってヒヤヒヤしたし、さっさと仲直りしてくれた方がおれにとっても良さそうだけどな」


 そういやさ、とエリックが言いづらそうに切り出した。


 「セオって、身分とかあるかんじ?」


 リオとの言い争いを聞いていたときに言っていたからだろう。ここで誤魔化す意味もない。


 「うん、そうだよ」


 僕が軽く答えると、エリックが目に見えて狼狽し始めた。


 「ええと、その、先程からは失礼ございました。あの、侮辱はけっしてござらんことであるます」

 「エリック?」

 「けいごはにがてがございますて……」


 エリックの言葉に思わず吹き出すように笑った。そのままいつまでも笑っていると、エリックがジトッとした目でこちらを見ていた。


 「おい、いくら変だからって、そんなに笑わなくてもいいだろっ!……あッ!」

 「いいよ、エリック。敬語なんて無理に使わなくていいからさ」

 「ほんとか?後で打首とか言わねぇよな?」

 「言うと思う?」


 僕が笑いながらそう問いかけると、エリックは真顔で答えた。


 「言わない」

 「そういうことだよ。今まで通りのほうが僕も嬉しいから」


 エリックがはぁっと大きくため息を付いた。


 「めっちゃビビったじゃん……」

 「ごめん、隠してて」

 「いや、いいんだけど、いいんだけどさぁ……」


 エリックは頭をぐしゃぐしゃに掻き回すとニパッと笑う。


 「まぁ、セオはセオって感じするからいいや」

 「それは……どういう意味?」

 「うーん。なんかセオ見ると、お貴族様ってのより、セオってのが先にくるんだよ」


 それは良いのか悪いのかと僕が考えいると、エリックがふんわりと笑った。


 「さっきリオと言い合ってたことだけどさ。おれは、セオだから助けたいって言い出したんだと思ってる。身分とかなくさ」

 「エリック」

 「何が良いたいかというと、」


 エリックの榛の瞳がキラッと輝く。


 「リオのあれは意地悪と嫌味だから、身分が必要だって思うならバンバン使っちまえってことだ。それはセオが持っててリオが持ってない武器なんだからさ」

 「それも、そうだね」


 そう言って、エリックと二人して笑いあった。






 それから僕は、背中と腕に少年達をのせたエリックと別れ、リオについて歩いた。

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