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3−6

 リオの案内に従って進んでいく。先程リオがいたボロボロの建物からは離れ、大通りの喧騒が聞こえるほどの場所まで来ていた。


 前を歩いていたリオが口を開く。


 「ここだ」

 「ここって……?」


 眼の前にあるのはしっかりとした大きな建物。そして、僕も数回来たことのある場所だった。


 「劇場だ。それも貴族用の……リオ、本当にここなのか?」


 僕の疑念の言葉にリオがゆっくり頷いた。


 「人さらいは何のために人をさらう?それも孤児を?」

 「……奴隷にして売り飛ばすため」

 「誰に売る?」

 「富裕層や貴族……なるほど、ここで売るのか……」


 奴隷ともなればそれ相応の値段もするし、このアークリシア王国では奴隷は禁止されているから、隠せる環境も必要だろう。


 「メインはこの国じゃないだろうがな。劇場なら他国の要人が出入りしても違和感はない」


 隣国であるバリトリアでは、奴隷制が今も続いている。頭の中に嫌な想像が巡った。

 今夜もなにか舞台があるのか、中からは微かに朗々とした声が聞こえる。


 「無駄話は後だ。裏口に向かうぞ」




 リオに連れられ劇場の裏側へと回るが、扉付近には見張りと思われる男が立っていた。


 「どうすんだ?」


 エリックが声を潜めてそう言い、僕とリオを見た。


 「気づかれないよう、騒ぎにならないようにしたい」


 リオにうなずき、軽く僕らの行動を打ち合わせる。




 「そこの人!ちょっとこっちに!」


 エリックが男に近づきながら、慌てたような声を上げる。


 「……は?なんだよ、俺か?」


 男が訝しみながらもエリックの近くによった時、


 男が頭から突き飛ばされるように倒れた。背後からにじり寄ったリオが男の頭を横から殴りつけたからだ。

 僕は慌てて男を受け止め、地面にゆっくり横たわせる。


 「エリック、もう少し気を引ける動きをしろ」


 リオが呆れたように言いながら、扉を調べる。


 「どう?入れそう?」


 じれてきた僕は思わずそう聞いたが、リオは扉に耳をつけながら、首を振って面倒そうに言った。


 「中から閂か何かで閉められてる。ついでに、中に人がいる。扉付近に一人。奥にもう一人……一人づつやる。同じように……エリック」

 「あいよ」




 エリックが軽く息を吸い、


 「犬が出た!!凶暴なやつだ!噛まれちまったんだ!誰か、応援を頼む!!」


 と叫ぶ。さっきの男を意識したのか、少し低い声だ。


 「どうよ?」


 エリックがニヤリと笑ってリオを見た。対してリオは苦い顔で舌打ちをする。


 「……2人来た。隠れろ」


 僕らは慌てて散り散りになって隠れる。僕は傍にあった箱の影に。リオは向かいのゴミ溜めに紛れている。エリックはどこに隠れたのか分からなかった。


 扉が開き、男が一人ずつ出てきた。あたりを見回している。


 大した隠れ場所はないし、薄暗くて本当に良かった。そう安堵していたけど……


 「おい!大丈夫か!?」

 「意識がないぞ、犬?にやられたのか?」


 先程倒した男を隠すのを忘れていて、見つかってしまったようだ。


 いつ目覚めるか分からない男と、小型のナイフを携帯した男が2人。

 この状況は厳しい。リオ1人じゃ2人の男を不意打ちで仕留めることはできない。1人を仕留め、隙ができたところを攻撃されれば……。

 一旦逃げるべきか、もう一度中に戻ったときに、また呼び出すか……どちらにせよ、仕切り直して……


 どうしようかと思わずリオの方を見ると、リオは男たちをじっと観察していた。一片の隙さえも見逃さない、狩りをする獣の目だった。灰紫の目には、いっそ美しいほどの鋭さが宿っている。

 リオはここで、このまま押し入る気だ。

 僕は……この状況でどう動く……?


 その刹那、リオの視線が僕に向き、パッと目が合う。


 次の瞬間に僕は物陰から転がるように走り出していた。リオは僕よりもひと足早く、男に蹴りかかっていた。僕はもう一人の男にぶつかりながらうつ伏せになるよう押し倒し、首と鎖骨の間を押し込む。


 男の体内と体外を行き来する空気が遮られたのが分かる。手に生ぬるさを感じながら更に力を込めていく。


 カウントしている。頭の思考はなく、心の動きで数えていた。


 ――イチ……ニ……サン……シ

 まだ足りない、まだ()()()()

 ――ロク…ナ


 「おい!!!」


 ダレかに肩を揺さぶられている……だれだ……誰だ?


 ――リオ


 気づいたら僕は、うつ伏せになった男の首を絞め、リオに肩を強く掴まれていた。眼前にあったリオの瞳が大きく揺れる。

 慌てて男の首から手を離した。男はまだ生きているようで、直ぐに呼吸音が戻った。

 辺りに男が三人倒れているのを見て、体から力が抜けていく。


 僕は何をしていた?

 ――ただ、慌てていて、恐れていて、必死だった。


 やっぱり僕は全然駄目だ。いざって時になると、いつだって失敗するし、冷静でいられない。実戦経験がなかったせいか、恐怖で我を失っていたらしい。


 僕が深呼吸をして立ち上がると、エリックが駆け寄ってきて、リオは何事もなかったかのように落ち着いていた。


 「リオ、セオ。早く行こう!」

 「ああ、二人の居場所を探す」

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