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3−2

 剣の鍛錬をしていたのには理由がある。もう一度、一人で街に下りるためだ。早く街に行きたい。ずっとそう思い続けていた。


 本当はすぐにでも行きたかった。でも、僕は弱くて、アティードも持たないから、強くならないといけなかった。それに、ウィルが僕に危険なことをしてほしくないのは分かってる。だからずっと我慢してきた。せめて強くなるまではと耐え続けてきた。


 ――でも、もう限界だ。


 僕が我慢できるのは、せいぜい5年程度だったらしい。

 エルガーに勝った。あれでも近衛騎士団の団長だ。十分だろう。

 エルガーに勝ったら、また一人で城を抜け出す。ずっと前からそう決めていた。




 空が白み始めた明け方、僕は用意した荷物を持ち、ウィルと向かい合っていた。


 「行ってくるよ、ウィル」


 ウィルは心配そうな顔で僕を見つめた。


 「くれぐれも、危険なことに巻き込まれないでくださいね。少しでも危険があればすぐに逃げてください」


 その言葉に少しだけ笑って応える。


 「そんなに心配しなくても、少し街に下りるだけだ。――」


 もう、子供じゃないんだから。

 そう付け足そうとして、止めた。ウィルにとっては、僕はあの頃と変わらず、無鉄砲で、無警戒な、危うい子供なんだろう。


 「殿下、あまり長くは――」

 「分かってる。長くとも3日で帰る」


 ウィルがしぶしぶといった体で頷いた。

 1日というウィルと1週間という僕で、滞在期間に関しては大いに揉めたが、結局、3日間というところに落ち着いた。その代わり、これっきりではなく、これからも街に下りるということになった。


 書物のぎっしり詰まった本棚の前に立つ。また、5年前と同じ方法で外に出る。その方法以外にいい方法が思いつかないし、一度成功しているから問題はないはずだ。そして、本棚に手をかけ、思いっきり横にスライドさせる。


 「っ、はぁ」


 下には実は小さなタイヤがついており、レールに沿って動かすのだが、ずっと使っていなかったからか、思ったよりも動きにくい。その上ギシギシと音が鳴る。部屋の外にいる護衛(見張り)に気づかれないかとヒヤヒヤしながら、少しづつ動かしていく。


 焦れるような思いで動かしていると、ようやく人一人通れそうなぐらいの隙間ができた。


 用意していた燭台に火をつけ、身を押し込むように通り抜ける。本棚はそのままにして、ゆっくりと階段を下り始める。


 「お気をつけて」


 ウィルの小さな声が聞こえた。




 階段は石でできているようで、コツ、コツ、と規則正しい音が響き渡る。

 途中の入り組んだ道を、記憶をたどるように歩を進めていく。


 ――ここは右で、次の曲がり角までまっすぐ。その後にまた右――


 右で、左で、下で、ここは真っすぐ行ってから左――




 会えるだろうか、リオにまた。

 時々、僕にとってリオが何なのか分からなくなる事があった。

 ほんの少し、幼い頃に会っただけの少年。生意気で、荒れていて、擦れた雰囲気と傷つきやすそうな目を合わせ持った不思議な奴。

 最初は怖くて、お金も盗られて、返してもらってもいない……本当に、なんなんだ?


 右手を口元に寄せる。軽く弧を描いている。それが、彼に会う理由だった。

 リオを思い浮かべた時、どうしようもなく笑ってしまうんだ。胸の内から湧き上がる衝動が、力の抜けた僕を突き動かしてくれる。


 「しょうがない、なぁ」




 軽く伸びをしてから、眼の前の寂れたはしごを登る。天井を押すと、外に繋がる。


 人目を確認しながら、慎重に這い出る。

 外の空気を肺いっぱいに吸い込み勢いよく吐き出したとき、自然と笑みが浮かんだ。

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