第6話『カミサマとの対峙』
水の中を揺蕩うような感覚と、なんとも言えない多幸感に苛まれ、アレクは目をうっすらと開けた。
太陽のような輝きが、透明な膜のようなものから見え透ける。
ここはどこだろうか。
先程まで、森の魔窟の最下層にいたはずなのに、とアレクは疑問に思った。
「確か……師匠が剣を落として……それを拾ってから……」
ぼんやりとした頭がハッキリする事はなく、自分を包み込む、なんとも言えない多幸感が、そうさせているのだろうか。
ふわふわとした感覚のまま、だらりとしていると、ふと、誰かがこちらを見下ろしているのに気づいた。
それは半透明だが、人の形をしているようにも見えた。
ただの人間ではないと、ぼんやりとしていた脳が危険信号を出したのか、水の中から飛び出すようにして、アレクは起き上がる。
先程までとは打って変わって感覚が鋭敏になり、見下ろしていた何かから距離を取ろうと、立ち上がり、少し離れる。
半透明な何かは、やはり人の形をしていて、光を透過してそこに立っているのだ。
魔物だろうか。
冒険者としての勘が当たっているならば、アレがかなり上位の魔物であろう事は間違いない。
それとも剣に宿ると言われる『剣神』だろうか。
迷いがあるが、何にせよ、敵であるとアレクの中では決まっていた。
「初めましてにしては、えらく怖い顔をするんだね」
その声はとても聴き心地が良かった。
ずっと耳に入り、脳を掠めれば体が震え、心に染み入るような感覚がアレクを襲った。
だが、それがアレクにはとても不快に感じられ、あまりの不快さに後ずさってしまう。
何かしらの魔法だろうか、ただ、人を不快にさせる魔法なんて聞いたことがない。
アリシアやカムイとのたわいない会話を思い出すが、そんな魔法は一切聞いたことがないと、アレクは断定出来た。
と言うことは、コレは明らか生理的嫌悪感だ。
「なになに? なんか嫌な事でもあった?」
「黙ってもらえますか、その声や話し方を聴き見みしただけで、吐き気に襲われそうになるんです」
「黙っちゃったら話が出来ないじゃないか。……あっそうだ、声を変える事が出来るからそうするよ」
声を端的に出しながら声の調整をする魔物。
それをジロジロと見ていると、声音を変えた魔物はその場に立ったまま、話を再開した。
「君は選ばれた。ボクがそう決めた」
「選ばれた……?」
なぜか、それを聞いた途端、右手に重みを感じ、アレクは安心感を覚えた。
その安心感すらも不快に感じて、右手に握っている物をその目で捉える。
それはとても不思議な剣だった。
半透明な刃が光を帯びて輝いており、光の一つ一つが星の瞬きのようにも見えた。
重みは感じるが、その見た目にしては軽く、よく扱っていた愛剣と同じような感覚を、アレクは感じていた。
「それは、星導石で構成された剣。ボクが作り出した神器の一つさ」
「あなたは何者なんだ」
「ボク? ボクはカミサマ。この世界に平穏と平和をもたらす存在さ」
声音は変われど、底知れない嫌悪感が止むことはなく、アレクは今すぐにでも、この悪い夢から醒めたかった。
カミサマ、と言う名前には心当たりがある。
師匠であるカムイが怖い顔をした理由に、その名前があったからだ。
「そんなあなたが、僕に何の用ですか」
「話があってね、それで君の夢の中にお邪魔したのさ」
「じゃあ早く出て行ってもらえますか?」
あからさまな態度が気に食わないのか、カミサマは不機嫌そうな声を出す。
この嫌悪感は、右手に握られた剣から伝わっているような気がする。
そもそも、これの持ち主はカムイだ。
カムイが何かしらの細工を施していたのだろうと、アレクは考えた。
「話だけでも聞いて、くれない感じかな」
「嫌です。あなたが魔物でない可能性を拭いきれないし、夢の中に入るだなんて、高位の魔法に違いない上、初対面なのにも関わらず、馴れ馴れしいのが無理です」
「そっかー、普通なら泣いて喜ぶんだけどなー。こっちが泣きそうだよ」
わざとらしく、ぐすんぐすん、と泣いて見せるカミサマ。
人間らしさをアピールしているのだろうか、とアレクは薮睨みをして、様子を伺う。
「まぁ良いや、質問形式でいこう」
「……」
「その剣の持ち主は君だ、君だけにしか出来ないことがあるんだよ、やってくれるかな?」
「嫌です」
即答だった。
「そうか、じゃあ次。旅を続ける上で様々な困難が待ち受けるんだけど、その時はボクを頼ること、いいかい?」
「得体の知れないあなたを、頼るつもりはありません」
嫌悪感たっぷりの返答。
「じゃあ次。星なる者たちの邪魔はしないこと、良いね?」
「師匠が敵視しているのでそれは不可能です、僕自身もあまり良い思いはしていないので」
星なる者たちとは、昔に嫌な思い出がある。
師匠であるカムイも敵視しているのだ、邪魔をしないわけがない。
これも、明らかな否定だった。
「……君、今回は強情だね。いつもなら二つ返事で返してきてたのに」
「今回はって、僕とあなたが会ったのはこれが初めてなんですが」
「こっちの話だ、気にしないでくれ」
カミサマが何か知っているような口ぶりだったため、アレクはもう少しだけ、情報を聞き出せないかと思ったが、同意を誘うような質問しかしてこないため諦めた。
「そうだな、こうも同意してもらえないとなると、夢の中に入ったのが無駄足になっちゃったな」
「二度と入ってこないでください」
「……仕方ない、どうせアイツが起こすんだろうし。じゃ、またね、アレク・ホードウィッヒ君」
カミサマがそう言い残すと、周りの景色が歪み始め、暗闇に包まれると、奥の方から光がやってきて、アレクの意識は浮上した。
次回は3月17日の18時に投稿します




