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剣と魔法が交わる世界で  作者: 天望
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第48話『挑め、限界のその先へ』

一週間の過ぎる速度が上がっているような気がする

 一週間の猶予が終わりを迎えようとしている中、アレクたちは早朝にカムイに起こされ、カムイが買ったと言う場所まで連れ出された。

 その場にはフィソフィニアとルナ、ヘパイストスが待っており、アレクたちは寝ぼけ眼を擦る。


「弟子たちよ、最後に通告するが今回の一戦、()()()という形で執り行う事となった」

「模擬戦……ですか?」

「フィソフィニアとルナ、それにヘパイストスからの進言があった上でじゃよ。ワシはどちらにせよ、本気で取り組むつもりじゃったがな」


 模擬戦と聞き、命の取り合いになると思っていたアレクたちは却って頭が冴える。


「フィソフィニア曰く、ゲームとやらを参考にした模擬戦が良いと言ってな」


 フィソフィニアが結界術を展開していることは承知の上であったが、アレクたちは頭が冴え、目が覚めた状態で違和感を覚える。


「何ですかこれ。数字が書かれた表みたいなのが浮かんでるんですけど」

「それは自分たちの体力を表した物じゃな。その数値がゼロになると、死んだ扱いになる」

「なるほど。非殺傷性の模擬戦らしいですね」

「各々の体力は一万に設定してある。ワシは百じゃ」


 アレクたちはカムイの近くに浮かぶ表を見ると、嘘偽りなく百と表記されていた。


「剣や魔法はどうなるの?」

「この結界内では、剣で受けたダメージや魔法で受けたダメージは体力ゲージで肩代わりをするのじゃ」

「身体には傷がつかないってわけね」

「結界内におる間はそうじゃな」


 カムイがヘパイストスに目配せし、アレクに手渡されたのは、打ち直された白亜剣だった。


「ぶっつけ本番で剣心を扱える者はそうそういないが、アレク君なら出来る」

「ありがとうございますヘパイストスさん」


 ずっしりとした重みを持つ白亜剣は、現実に引き戻される感覚をアレクに与えた。


「師匠、本当に斬っても大丈夫か確認しても良いですか?」

「よいぞ、気持ちのいい気分にはならないじゃろうが」

「では……」


 白亜剣を鞘から抜き出し、アレクはカムイの身体を斜めに斬る。

 そうするとカムイの体力ゲージが減り、百から九十五に減っているのがわかった。


「体力ゲージは回復魔法や治癒魔法では治らん。あくまでも模擬戦じゃからな」


 アレクは白亜剣を鞘にしまい、左腰に差し込み、ベルトを巻く。


「一応確認なんにゃけど、体力ゲージの減り方は使った剣技や魔法、矢や召喚獣の攻撃で変わるのかにゃ?」

「そうじゃな、一番分かりやすいのがアリシアの第十階位魔法じゃ。第十階位魔法ならワシを一撃で倒せる程の威力になる」

「にゃら、アタイらはかなりハンデを貰ってる訳にゃね」

「かと言って、気を緩めるでないぞ。戦いにおいて(おご)りは命取りじゃからのう」


 トトは体を伸ばしてあくびをするが、普段よりも短く、冴えた瞳でカムイを捉えていた。


「体力ゲージをゼロにすれば良い事は分かりましたけど、私たちの体力ゲージがゼロになったらどうなるんですか?」

「体力ゲージがゼロになり死んだ扱いになれば、結界外に飛ばされる。一度結界外に排出されると、内部に再度侵入する事は出来ないのじゃ」

「なるほど、分かりました」


 ハーフェッドは胸を撫で下ろし、深呼吸をすると、毅然(きぜん)とした態度になる。


「魔法などを魔法盾や防護結界で防いだら体力ゲージは減らないんですよね?」

「そうじゃな、身体に命中しない限りはダメージにはならないと思え」

「ふむふむ……」


 フリジールの腕には呪いの人形であるソーセキが抱かれていたが、フリジールは思い切り、フィソフィニアにソーセキを手渡す。


「一時的に預かっていて下さい。ソーセキが邪魔をして皆さんに迷惑をかけたくはありませんから」

「預かり受けたわ。目一杯頑張りなさい」

「はい!」


 フリジールは頬を叩いて気を引き締め、アレクたちの輪に入る。


「説明は以上じゃ。有利不利がなくなるよう平原を選んだ。弟子たちよ、決してワシに負けるで無いぞ」


 アレクたちは互いに目配せをして、深く頷くと。

 フィソフィニアとルナ、ヘパイストスの姿が消え、けたたましい音が鳴り響き、それを皮切りに最後の試練が開始されるのであった。


 絶対なる壁――カムイは平原の真ん中に陣取るように立ち、弟子である五人の出方を窺っていた。

 けたたましい音が鳴り響いた途端、六人は転移魔法で離れ離れになっている。

 弟子たちが一纏(ひとまと)めで戦えば多少勝ち目はあっただろうとカムイは考えていたが、それでは鍛錬の意味が無くなるとも考えていた。


「まず誰から処理していくか……」


 魔力探知でそれぞれの位置は把握出来ているカムイは、極度に強まった魔力の波形を感じ取り、すかさず『虚無・崩壊(ニヒル・コラプス)』を唱え、『極寒・氷塊(パゴニア・パーゴス)』を放とうとするアリシアを潰しにかかる。


「やはりこうなるな。今しか出来ない戦法だからな」


 カムイを中心に、北にアリシア、南にアレク、北東にトト、北西にハーフェッド、南東にフリジールが転移魔法によって離れ離れになっていた。

 巨塊な氷山が空に浮かび、冷気を纏いながら今にも落ちてきそうな雰囲気を見せていたが、カムイが『虚無・崩壊』でアリシアの防護結界を削りとるようにして何発も命中している。

 しかし、カムイは『虚無・崩壊』がアリシアが展開した防護結界で防がれている事は肌で感じ取っていた。

 詠唱が済んだのか、氷山が落下してきていたのもあったためである。


「アレはまだ対処せんで良いが……」


 空から落下している氷山はおおよそ三分で着弾するとカムイは推算し、アリシアから注意を逸らす。

 すると向こうでドラゴンが召喚され、空を羽ばたく様子が目に映り、北東に向かって飛んでいくと、ドラゴンでアリシアとトトを回収していき、一直線にこちらに向かってきていた。


「氷山が落ちるまでの戦いじゃのう!」


 ドラゴンに対して『虚無・崩壊』を放つが、やはりと言ってかアリシアの防護結界で防がれている。


「エレメンタルが増えた事による成長と見るべきじゃな」


 魔法をかけられ、急加速するドラゴンに追突されると、カムイは唸り声を上げる。

 しかしドラゴンの追突を物ともせず、カムイが地面を抉りながら足で踏ん張ると、ドラゴンの速度が下がり、乗っていたアリシアとトトは青い顔をした。


「ワシにドラゴンをぶつけるとはなぁ!」

「量より質です!」


 ドラゴンの口が熱を帯びたかと思えば、火炎が吐き出され、カムイが火だるまになる。

 体力ゲージが減る、はずであったが、カムイの体力ゲージが一向に減らず、アリシアたちは目を疑う。

 ハーフェッドがドラゴンに指示を出し、火炎の勢いが増すが、それでも体力ゲージが減ることはなかった。


「ギリギリのところで防護結界を張って、火炎を防いでる……!」

「任せるにゃ! 『星穿(ステラ)!』」


 引き絞られた魔導弓からカムイに向かって矢が放たれる。

 しかしそれが肌身に命中する事なく、トトは嫌な顔をする。

 何故ならば、


「ワシが魔刃剣を展開しとらんかったのは一時(いっとき)(おご)りから来たものではない」


 魔刃剣で火炎が切り裂かれたかと思えば、ドラゴンに切れ目が走り、血が(にじ)み出すと、ドラゴンが真っ二つに(わか)たれる。

 三人は急いでドラゴンが降りるが、魔刃剣を持ったカムイに近距離で戦う事を強いられるのを嫌い、三方向に走り出す。


「敵に背中を見せるとはな。ハーフェッドはともかく、アリシアとトトは……」


 火炎を払い、カムイが(おもむろ)に動き出し、魔刃剣を振るうと、魔力で生成された斬撃が飛ぶ。

 トトは空気の流れを読み避ける、アリシアは強大な魔力を感じ取り避けた。

 しかし、ハーフェッドは避ける事が出来ず、本来であれば上半身と下半身が離れ離れになる一撃であったが、体力ゲージが減る事で事なきを得る。


「い、今の攻撃で百ダメージなんですけどぉ!」

「一万の体力が少し削れたぐらいよ! あの馬鹿に『極寒・氷塊』が当たれば勝てるんだから!」

「その前に私たちの体力ゲージが無くなりそうなんですが!?」


 ハーフェッドは斬られた感触がない事に違和感を覚え、自分の脈拍や血が出ていないかなどを確認していたため、カムイは斬撃を避けた二人を追いかける。


「どちらにせよ元を潰さんとな」

「はぁっ……?」


 アリシアの隣を並走するように現れたカムイに、アリシアの口から素っ頓狂な声が漏れた。


「ワシはいつでもお主らを殺せる技量を持っておる。しかしお主らが束になってかかれば容易で無くなる事を肝に(めい)じておけ」

「言われなくても……!」


 魔刃剣の切先がアリシアの身体に差し掛かろうとしたが、それがすんでの所で防がれ、カムイは目を丸くする。


「遅くなってごめん! アリシア」

「ア、アレク!?」


 アレクが白亜剣で魔刃剣を振り払い、カムイは後ろに下がる。


「距離があったじゃろうに。一体どうやってここまで……?」

「簡単な話ですよ、フリジールの魔法盾で表面に当たった物を反射する事だけに注力し、紫電一閃を使って一気に距離を稼いだんです」

「なるほどのう、一番厄介なフリジールとアレクを一緒にしたのが間違いじゃったか」

「師匠の考えることはお見通しですよ」


 空から落下している氷山が近づく中、アレクとカムイは互いに睨み合い、アリシアとトトは好機を窺う。

 風が凪いだかと思えば、カムイとアレクが剣を振るい、魔刃剣と白亜剣が火花を散らす。

 鍛錬では何度も繰り返していた太刀筋であったが、命が懸かる戦いにおいては、アレクは不利であった。


「普段とは違うのだと意識せい! 体力ゲージがみるみる減っていくぞ!」

「くっ……!」


 アレク自身が隙だらけなのは理解しているだろうが、些細な気持ちの甘さがアレクの太刀筋に表れている。

 カムイはそれを突いて、着実にアレクにダメージを負わせていたが、発破を掛けてからは二度同じ場所に傷をつける事は叶わず、カムイは笑みを浮かべた。


「やるのう……!」


 好機を窺っていたアリシアとトトにはカムイの洗練された剣術に隙は無いように見えたが、アレクは何かを掴み始めたのか、一度カムイから大きく離れ、白亜剣を鞘にしまいこむ。


「紫電……一閃!」


 雷鳴が響き、カムイに向かって光の筋が走り抜けるが、カムイの肌身を傷つけられず、姿を現したアレクは苦笑いを浮かべた。


「紫電一閃は基本中の基本じゃ。ワシにとっては必殺技であるが、お主にとってはどうかのう」

「師匠、これは集団戦です。ただ単に紫電一閃を放ったわけじゃありませんよ」


 カムイは魔力の籠った波形を感じ取り、アリシアとトトの方を向くまでもなく防護結界で魔法と魔法矢を防ごうとしたが、防護結界が機能せず、二人の攻撃がカムイに直撃する。


「なんぞや……!?」

「簡単な話です。第十階位魔法までの魔法を絶対に防げる防護結界に、斬撃を防げる余地が無いと踏んで紫電一閃を放ったんですよ」

「よく見抜いたな……! 久々にまともな攻撃を受けたわい!」


 カムイの体力ゲージが一気に半分以下にまで削られ、アレクたちに光明が差す。

 フリジールはハーフェッドの召喚したドラゴンで回収されており、囲むように対峙する。


「まさかこれで追い詰めたと思っとらんじゃろうな」

「束になればなんとやらってアンタが言ったんじゃない」

「まだ体力ゲージがあるから余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)でいられるだけじゃろうに」

「最後の試練だ、って豪語した割にはあっさりとやられ――」


 ――刹那、カムイを囲んでいたアレクたちの体力ゲージが一瞬で半分削られ、遅れて雷鳴が鳴り響く。

 紫電一閃では無い何かでアレクたちは切り刻まれ、姿を現したカムイはニンマリと笑みを浮かべていた。


「ワシに奥の手を使わせるまで追い詰めた事は褒めてやろう。実際、現実の戦いで使ったのは一度きりじゃからのう」


 カムイはアレクたちに囲まれないように離れた場所に立っており、アレクたちは冷や汗を滲ませる。


「現実ならハーフェッド以外は今ので死んでおる。ワシの防護結界を斬って魔法を当てたが、その程度では死なんからな」


 アレクたちは半分の体力ゲージが一気に無くなる技がある事が恐ろしい訳ではなかった。

 本来であれば実戦形式の戦いになっていて、ここまで追い詰めたとすれば、既にアレクたちはこの世からいなくなっていたのだと頭をよぎったからである。


「さぁどうする弟子たちよ、氷山が落ちるのを待つか、転移するのが先になるか、考えている暇はないぞ」


 五人は底なしの強さを持つカムイに立ち向かうのを諦めそうになる。

 しかし、アレクの瞳には闘志の炎が燃え上がり、カムイを見据えると、アレクはある違和感に気づく。

 魔力の波形や筋肉の動き、息づかいに注視すると、その違和感が確信に変わる。


「師匠、もしかして()()()ますか?」


 ほんの些細な揺らぎがカムイに表れ、アレクは白亜剣を握る力が強まり、アリシアたちも気づいたのか、諦めかけた目に火が灯り、カムイに立ち向かう気持ちが強まった。


「疲れた? だからなんじゃと言う」


 カムイは魔刃剣を構え、アレクたちを見据える。

 氷山が平原に影を落とし、冷気が平原に伝わってくる。

 カムイが小さく息を吐き、魔法で強化された足でアレクたちに接近し、アリシアは『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)』を放ち、その足を止めようとする。

 カムイの防護結界が『絶対零度』を防ぐ事は当たり前ではあるが、アリシアはアレクと同様に気づきを得た。


「雑になってるじゃない!」


 防護結界の機能がやや落ちているのか、アリシアが簡易的に放つ『絶対零度』を防いではいるが、体力ゲージが僅かだが削られており、アリシアは簡易的ではなく、複雑な詠唱で『絶対零度』を放とうとする。

 当然、カムイはアリシアを潰しにかかろうとした。

 しかし、何かにつんのめるようにしてカムイの足が止まり、トトが声を上げる。


「影縫いにゃ」


 防護結界を剥がし取るためにアレクが紫電一閃を放つ。

 そしてカムイは影縫いから逃れようとするが、手間取る内に、複雑な詠唱を終えた『絶対零度』による確実な一打が放たれようとしていた。


「やるのう、だが……!」


 影縫いから逃れる行為を放棄し、カムイは魔刃剣を両手に携えると、アリシアが放つ『絶対零度』に対抗する意志を見せる。


「『絶対零度』!」


 二つのエレメンタルから送り込まれた潤沢な魔力が込められた『絶対零度』。

 第五階位魔法の限界を超えるような一撃に、カムイが防護結界ではなく、魔刃剣だけで(さば)こうとする姿を見て、アレクたちはカムイを追い詰めたのだと確信を持つ。

 そして、『絶対零度』を防ぎきれずカムイに直撃すると、体力ゲージが一気に減り、緑色から赤色に変化した。


「やった……!?」


 カムイの周りが霧に包まれ、姿は確認出来ないが体力ゲージは赤いままで、トドメが差せていないのだとアレクたちは思い、カムイがどう仕掛けてくるのかを静観する。


「限界ギリギリまで体力ゲージが無くなるとはのう」


 霧の中から放たれた強烈な威圧で空気が揺れ、大地が揺れる。

 アレクはその予兆に覚えがあった。

 先程アレクたちの体力ゲージを半分にまで減らした大技の前触れだと。

  

「アリシア! フリジール! さっきの大技が――」


 ――雷鳴が何度も鳴り響いたかと思えば、けたたましい音が鳴り響いた頃には、アレクを残してアリシアたちの体力ゲージが無くなり、転移魔法が発動してアリシアたちの姿が消えた。


「あ……あぁ……」


 何も出来なかった。

 ただその一点だけがアレクの心を折りかける。


「さて、あとはお主だけじゃ。束でかかれば勝てる、それは見込みでしかない。やはり命を賭けんと本気になれんな」

「……命が懸かっていれば今の大技を放てましたか」

「どうじゃろうな。しかし、今ので分かったじゃろう、ワシがもし敵対するとなれば弟子であろうが斬り捨てると」

「師匠っ……!」


 アレクは白亜剣の柄を強く握りしめ、カムイと同じ構えをする。


「あともう少しじゃ。少しでもお主の剣が肌身を削れば勝てる。情けない負け方をするではないぞ」

「言われなくても……!」


 互いが互いに同じ技(紫電一閃)を放ち、刀身がぶつかり合い、火花を散らす。

 勢いではアレクに軍配が上がるが、体格差、筋力の差、磨いてきた技の精度の差にはカムイに軍配が上がった。

 刀身がぶつかり合う最中、押し潰すように力を込めるカムイ。

 負けじとアレクも力を入れるが、魔刃剣を押し戻す事ができず、受け流す形で一息を入れ、後退する。


「足りないならどうするか考えろ、ワシは鍛錬の中でその答えを指し示している」

「ぶっつけ本番になるけど……! 『剣心』を発動するしかない!」

「戦いの中でやってみせい」


 アレクは『剣心』を引き出す方法は教えられてはいなかったが、ヘパイストスが折れた白亜剣を手に取って言っていたように、『剣心』自体は宿っている。

 戦いの最中で引き出す方法を見つけなければ、今のカムイには勝てないのだと理解し、アレクはカムイに詰め寄り、その機会を窺う。


「剣術は荒いが及第点以上じゃ、ワシと剣を交えて生きて帰ったものはおらんからな」

「なにおう!」


 普段の鍛錬でよく言われる文言に腹を立てそうになるアレクであったが、こう言う時はカムイに余裕があると身に染みて理解していて、冷静になる。

 しかし、アレクが全力を尽くしても魔刃剣で防がれるばかりで、傷一つ与える事すら叶わない。


「相手の動きをよく見て、自身の動きを洗練せい。『剣心』はお主に応えてくれる」


 魔刃剣に防がれ続け、アレクの動きが精彩を欠き始めると、カムイはアレクを足で蹴飛ばす。


「体力の限界か? ついさっきワシの些細な疲れを読んだから勝ったつもりでおったか? 鍛錬の意味さえも理解できんか?」


 腹を強く蹴られたアレクは平原に転がり、その場にうずくまると、立ち上がる意志がないようにカムイには見えた。


「最後の試練は決してお主らの心を折る為に与えたものではない」

「師匠は……! 強いからそう言えるんです……! 僕らからすれば決して越えられる壁には到底思えません!」

「ワシもお主らのように弱かった。しかし弱かったから強くなる方法を試してここまで登り詰めた。……だがカミサマに勝つには足りない、足りなさすぎるのじゃよ」


 慟哭(どうこく)するアレクに、カムイはそう答えると、アレクは徐に顔を上げ、立ち上がる。

 カムイが吐いたのは弱音のように思え、アレクは白亜剣を胸の前で立て、剣に問いかけるようにして呟く。


「白亜剣、どうか僕の声に応えてほしい」


 白亜剣に宿る『剣心』に問いかけるアレク。

 魔法術式付与武器エンチャンテッド・ウェポンである白亜剣に少しずつ火が灯り始め、アレクが魔力を込めると、その火は火炎に変わり、さらに業火にまで火の勢いが増すと、業火が形を帯び始め、アレクの背後に浮かぶ。


「これが『剣心』なんですね」


 炎で構成された『剣心』は、アレクには姿形(すがたかたち)はエレメンタルのように曖昧だが、炎の剣を携えているように見えた。


「初めてにしては上出来じゃ。打ってこい」


 アレクは白亜剣から『剣心』を引き出すと、カムイに向かって勇みよく走り、距離を詰める。

 意図せず背後に浮かぶ『剣心』から火炎が放たれ、カムイはそれを斬り捨てると、嬉々として笑みを浮かべた。


「『剣心』をまともに扱える剣士はそうそうおらん、今は制御出来るかは怪しいが、お主ならできる!」


 アレクはカムイと剣を打ち合ったが、先程まで足りなかった部分が補填されたかのように動けるようになったアレクに対し、カムイの表情が柔らかいものになる。

 隙を見せなかったカムイが段々と精彩を欠き始めたかと思えば、アレクの振るう剣が肌身を掠めるようになり、今度はカムイが距離をとるために大きく後退した。


「炎雷!」

 

 その着地の隙を狩るように炎雷を放つアレク。

 『剣心』を引き出した最中に放った炎雷は、以前放った時よりも大きく分厚い火炎が雷を纏いながら飛び、カムイは慌てて防護結界を張る。

 しかし、カムイの防護結界が炎雷によって破れ、その隙を逃さないようにアレクはすかさず構えをとる。


「炎雷一閃!」


 火炎を纏う白亜剣と『剣心』が振るう炎の剣がカムイの胸を切り裂き、カムイは満足気な表情をしていた。

 体力ゲージが無くなったカムイは転移魔法で姿が消え、残ったアレクに対してベルのような音が鳴り響くと結界術が解かれ、氷山も消えてなくなる。

 アレクを(ねぎら)うようにアリシアたちが現れると、アレクは鞘に白亜剣を納め、『剣心』が姿を消す。

 こうして、一週間の猶予の中で鍛錬を積んだアレクたちは、奇しくもカムイに勝ち、後から現れたカムイはアレクたちに一人一人頭を撫でるのであった。

次回は8月3日16時半に投稿します

追記、諸事情により投稿を延期します、楽しみにしていただいてる中、投稿を延期する事、重ねてお詫び申し上げます

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