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剣と魔法が交わる世界で  作者: 天望
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第47話『仲良くなるためには?』

一週間は早いですね

 カムイがヒノカミ一族に提案した一週間の猶予。

 半分の期間が過ぎ、アレクたちは大いに鍛え上げられた。

 アレクはヘパイストスに白亜剣を打ち直してもらう間に基礎を叩き上げ。

 アリシアは第十階位魔法を扱う危険性を思慮(しりょ)し、現時点で最高位の第五階位魔法である絶対零度(アブソリュート・ゼロ)を簡易的に放てるようにする事に力を入れ。

 トトは星穿(ステラ)を必殺技として使えるよう、基礎練習と魔力操作を同時に行い、カムイの分身を射止める対人戦を想定した弓術を鍛え。

 ハーフェッドは召喚獣であるドラゴンを召喚するために、カムイが提案した初歩級召喚獣の召喚精度を高めつつ、妥協を覚えた。

 フリジールは魔法盾が鉄壁と化し、防げない物がほぼなくなった。

 しかし、カムイから渡された呪いの人形の扱いにうつつを抜かす事が多くなり、カムイに指摘を受ける。

 短期間ではあったが、各々は確実に実力を高めることとなった。


 一週間の猶予後半に差し掛かり、離れの部屋にいるアレクたちにカムイが声をかける。


「お主ら、ちょっといいかのう?」

「なんですか急に、鍛錬の内容を変えるつもりですか」

「違う。実力が上がったお主らに最後の試練を与えようと思ってな」

「最後の試練……?」


 アレクは首を傾げるが、アリシアは何かを察したのかため息をつく。


「どーせ、ワシ対私らとかでしょ。束になっても敵わない事を示してどうするのよ」

「今のお主らならば勝てると踏んでじゃよ。決して卑下する事はない」


 カムイが茶化してくると思っていたアリシアは、真面目な顔をして話すカムイに調子を狂わされる。


「あんたなんかと戦ったらヒガシがどうなるか分かるでしょ」

「その点は心配せんで良い、フィソフィニアの結界術を張った上で買い取った土地で戦う」

「買い取った……?」


 アリシアがそれを追求しようとすると、カムイは咳払いをして話を続ける。


「命の取り合いになる訳ではない。死ねば二度と現世には戻れないからのう」

「フィソフィニアさんの結界術が肝なのね」

「アリシアの察しの通りじゃ。結界内では死が制限され、蘇生術を使えば生き返る」


 アレクとアリシアは納得したが、トトとハーフェッド、フリジールが怪訝な顔をしていた。


「死ぬ感覚を味合わせてまで何がしたいのにゃ?」

「鍛錬で培った能力を真に発揮できる相手が必要じゃろうと思ってな」

「いにゃ〜……別にアタイはお師匠さんと相対したいわけじゃにゃいし」

「ハーフェッドとフリジールも同意見か?」


 カムイに質問された二人は頷き、カムイは唸り声を上げる。


「壁を越える自信が無くて……」

「私は守りに徹するだけなので」


 カムイは深く頷き、アレクとアリシアの肩に手を乗せる。


「お主たちは仲を深めなくてはならないようじゃな」

「一体どこをどう捉えたら仲を深める話になるんですか?」

「ん? アレクとアリシアは良しとして。トトにハーフェッド、フリジールは加入してから日が浅い、戦いにおいて連携が取れる取れないは大きいのじゃ」

「確かにそれはそうですけど」

 

 アレクとアリシアが三人の方を見て、馴染みの顔にはなってはいるが、知らない事が多いとカムイに指摘されて納得する。


「要は仲良くなればいいんでしょ? アンタと戦うために」

「平たく言えばそうじゃな」

「けど仲良くなるってったって、一朝一夕(いっちょういっせき)で得れる物じゃないわよ」

「それを解決する為に、ワシには策がある」

「策ゥ……?」


 アリシアとアレクにカムイが耳打ちをする。

 そしてカムイが懐からヒガシ札の束を取り出し、畳の上に置く。


「余った金じゃ。五人で遊ぶには十分すぎる量じゃから、使い切るつもりで使うのじゃ」

「ふーん、()()()金ねぇ」

「早う行け」


 カムイがアリシアの追求を拒むように追い払うと、アリシアは札束をトトたちに見せ、


「鍛錬の成果が出たから休暇だって。このぐらいの札束なら五人で一日中遊んでも無くならない程よ」

「にゃにゃ? 休暇かにゃ? どう言う風の吹きまわしにゃ?」

「私は正直に言うけど、あの馬鹿と戦わないといけないから仲を深めて、戦いでの連携を取れるようになれってことよ」

「休暇の意味あるかにゃ?」


 トトは首を傾げるが、フリジールが輝いた目をしてアリシアに迫る。


「休暇! いい響きですね! 鍛錬を重ねてストレスが溜まっていましたし、発散しないと!」

「ハーフェッドはどうする?」


 ハーフェッドにアレクが問うと、ハーフェッドはウズウズと身を震わせ、落ち着きがない様子であった。


「ハーフェッド?」

「ラーメンは定かではありませんが、ヒガシ発祥なんだそうです、だから……そのー……」

「ラーメンか、良いね。昼時になったら行こうね」


 ハーフェッドはこくこくと頷き、札束から何枚かヒガシ札を抜き取り、残りを見えない空間に預けたアリシア。

 そのまま六人の弟子たちが離れの部屋を後にすると、残ったカムイは深くため息をつく。

 しばらくの間が空くと(ふすま)が勢いよく開き、カムイは呆れたようにそちらに視線を移す。


「やっと来たな。古き友人よ」

「一時的に受肉させて貰った事は感謝しよう。久々だね、カムイ・シンバット」

「冥界で娘に会えて良かったのう」

「喜ばしい事ではないだろう? 君も内心焦っていただろうし」


 部屋に入って来たのは、黒く長い髪と青い瞳を持った女性だった。

 白磁のようにきめ細やかな肌とグラマラスな体型をした人物は声を上げる。


「アイレン・ド・フォーレン、アリシアの母親である」

「んなことは知っとる。お主に会わせたくなかったから休暇を(うた)って、離れから出て行かせたのに」

「ほうほう、土地を買ってまで自分と戦わせる舞台を作り上げた本人が言うセリフか?」

「弟子たちは命の取り合いは何度か経験しておる。しかし弟子たちだけで死力を尽くして戦った事がない。ワシがおるからな」


 アイレンは部屋の中をウロウロと彷徨(さまよ)うように歩く。


「ワシ頼りではカミサマに勝てない状況が生まれる。そもそも七曜の星(セブンスターズ)を名乗る奴らは星導剣で縄を断ち切れば勝ったも同然じゃ」

「元仲間たちがカミサマの支配下から逃がれる事は喜ばしいじゃないか。ミザールと名乗っていたフレイム・フレイガはこそこそと何かしているようだし」

「それについてはフィソフィニアから聞いておる。弟子たちには話してはおらんが」


 適当な相槌(あいづち)を打つアイレン。


「ワシをもし弟子たちに敵対するように差し向けられれば、()()弟子たちでは勝てない」

「私も何度か見積もってみたが、今の状態では勝てないね。しかし、勝てる見込みがない訳ではない。そう言う所だよ、君の悪い癖だ」

「仲を深めるとかは建前でしかない」

「娘も言っていたが、一朝一夕で得られるものではないからね、信頼関係は」


 アイレンは窓から外の様子を伺い、カムイはその指摘にぐうの音も出なかった。


「冥界に帰る時間のようだね。先程から冥界の使者たちが私の魂を探しに現世へと侵入し始めている」

「冥界はつまらんか」

「つまらないなんて野暮な事は言わないで欲しいね。現世と変わりないよ、私にとってはね」


 アイレンは襖を開け、部屋の外へ出ようとすると、既に冥界の使者が待っており、アイレンはカムイの方に顔を向ける。


「じゃ、私は帰るよ。娘が寿命を全うするまでは、冥界に来させるんじゃないよ」

「呼んでおいて悪いが、早う帰れ。冥界の使者も困惑しとるから」


 冥界の使者に導かれるようにしてアイレンはそのまま姿を消し、離れにはカムイが残る。

 そうしてカムイは机に置かれた牛乳に砂糖を入れ、ゆっくりと味わうように飲み始めるのであった。


 離れから()った、アリシア率いる五人衆はヒガシの街へと繰り出していた。

 様子から察するに意気揚々としていて、明るい雰囲気を(かも)し出している。


「ヒガシ名物を食べ歩きしましょ! それから〜」


 珍しくテンションの高いアリシアに、アレクは笑みが綻び、トトは間の抜けた顔をして二人を見比べる。


「二人が仲良いのは分かるにゃけど、アタイらとは少し……いや、かなり壁を感じるにゃ。お師匠さんから何か発破かけられたとしか思えないにゃ」

「そうなんですか? 私はラーメンを共に食べた仲なので、そこまで気にはしてませんよ」

「確かにそうにゃけど、フリジールに関してはつい先日加入したばかりにゃ」


 トトとハーフェッドがフリジールの顔を覗くが、フリジールの視線は腕に抱かれた呪いの人形であるソーセキに向いており、定期的に名前を呼んでいる。


「フリジールはソーセキに夢中にゃね」

「呪いの人形でしたっけ? そんな物をよくフリジールさんに渡しましたよね」

「名前を三十分(さんじっぷん)以内に呼ばないと暴れるみたいにゃ」

「面倒な人形ですね」


 ハーフェッドがこぼした一言にソーセキが反応し、フリジールが頭を抑える。


「ハーフェッドさん、ソーセキは褒めて褒めて、さらに褒めた上で名前を呼ばないと駄目なんですから」

「め、面倒くさい……」


 ハーフェッドがこぼした一言にソーセキが反応を示し、フリジールが低い声でソーセキの名を呼びながら(しか)るとソーセキは静かになった。

 

 

「ソーセキはカムイさんに任せようと思っていたんですけど、カムイさんの手に渡った途端、暴れ散らかしてしまって」

「なるほどにゃ〜、溢れ出る母性と美少女が合わされば誰でも骨抜きにされるにゃろうにゃ」

「美少女だなんてそんな〜えへへ」


 フリジールは照れ、トトとハーフェッドは苦笑いを浮かべる。


「自覚なき男たらしにゃ」

「純エルフ、恐ろしや、ですね」


 アレクたちはヒガシ名物料理を食べ歩き、散財の限りを尽くす。

 今朝方から昼時に時刻は回り、ラーメンを食べ終えた一行は、手持ち無沙汰(ぶさた)になり、ヒガシを見渡せる展望台へとやって来ていた。


「ヒガシは本当に小さい島国だって事がよく分かるね」

「そうね。海に囲まれた島国なのに、こんなに栄えているんだから驚きの一言に尽きるわ」


 青々とした海の水面(みなも)は日の光を乱反射させ、波が打ち寄せる様子が見て取れる。


「ヒガシに天災が降りかからないようになったんにゃし。この先、ヒノカミ一族が変な気を起こさない限りは安泰(あんたい)にゃ」

「私はあまり活躍らしい活躍はしませんでしたけど、次は絶対に皆さんを守り切れる防御役に徹します!」

「鍛錬でみんな()強くなったんにゃから、期待してるにゃ」

「トトさん、貴女もちゃんと強くなってますよ。悪い癖、治さないと」


 フリジールに指摘されたトトは獣耳を伏せ、海に気持ちを()せるように遠い目をする。


「みんなはこの先どうするのさ。師匠から離れる時が来たら」


 アレクの突拍子もない話に、アリシアたちに衝撃が走った。

 アリシアは赤面し、トトは獣耳をピンと立て、ハーフェッドは頭の処理が追いつかず、フリジールは上の空になる。


「どうしたのさ、みんな」

「ど、どど、どうしたって!? そ、そそ、それはその……!」


 アリシアは赤面しつつ上目遣いをしてアレクの顔を直視する。

 アレクは不思議そうな表情をして、アリシアの目を見る。


「いつか、け……結婚……したいなって……」

「そうなんだ。いい人が見つかると良いね」

「……は?」

「アリシアならきっと見つけられるさ」


 軽く頷くアレクの顎にアリシアの拳が命中し、アレクはその場で崩れ落ちた。


「ほんっとそう言うところ! そう言う所もアレクだけど……! 本当に……!」

「口から魂抜けてにゃいかにゃ? 大丈夫かにゃ〜?」


 トトがアレクに寄って様子を伺うと、意識が飛んで(うつ)ろな目をしており、トトはすかさずアリシアに冷水を要求する。

 冷水を浴びてアレクは体を震わせ、瞳に光が戻ると、トトは安堵する。


「アリシアは手が早いからにゃ〜、気持ちの表現力が脳筋にゃ」


 アレクが(おもむろ)に上体を起こすと、トトの肩を借りて立ち上がった。


「いつもの事さ」

「ふんっ」


 アリシアはツンと鼻を立てるように横を向く。

 その様子を見てフリジールが慌てる。


「アリシアさんとアレクさんの仲ってあんな感じなんですか!?」

「いつもの事ですよ。夫婦(めおと)漫才的な安心感があります」

「意識が飛ぶ程の威力でしたよね!?」


 乾いた笑いをするハーフェッドの肩を揺らすフリジール。


「悪い癖が露見すると安心感があるにゃ。人それぞれ違いがあるからにゃ」

「まぁまぁ、アリシアだって悪いわけじゃないんだし」

「本当かにゃ〜? 実はアレクはドが付くほどの変態にゃったりして」

「そうやって茶化すのも悪い癖だよ」


 トトの額に冷や汗が(にじ)み、頭に手を置き、謝るような仕草をする。


「フリジールさんは褒められると気が緩む癖がありますね」

「ハーフェッドさんはラーメンが好きすぎて異名が付いてるじゃないですか」

「ぐっ、そ、その話はやめて下さい」


 互いの悪い癖を明らかにする程、仲睦(なかむつ)まじいアレクたち。

 今の自分たちであれば、巨大な壁であるカムイを越えられるのだと、信じてやまないのであった。

次回は7月27日16時半に投稿します

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