第38話『大海を揺らす者、オオナマズ』
一週間、投稿を延期してしまい、申し訳ありませんでした
区切りの良いところまで書けたので、次回も読んでいただけると幸いです
海の底ではアレクとトリトン十三世が乙姫に案内される形でオオナマズのいる洞窟の奥へと進む中。
その動きを探知したアリシアがほっと胸を撫で下ろし、漁船に乗る全員にアレクの安否を伝えた。
「カエデさん、東の果て島に地下に潜れる場所はないの?」
「さぁね、東の果て島には古い建物が建ってるぐらいで、地下に降りる洞窟なんかは無いと思う」
「捧げ物を運んでいる建物には無いんですか? 捧げ物が残っていないなら天災を起こす張本人が食べるためにそこまで来ているとか」
「確かに不思議だなと思っていたさ。毎年捧げ物を送るが、綺麗さっぱりに食べられていて、残り物があった事はない」
「だとしたら……」
アリシアは東の果て島に視線を移し、カエデは察したのか、漁船の舵を東の果て島に向ける。
先程まで天候は良かったのだが、東の果て島に向かおうとした途端、雲行きが怪しくなり始めた。
「来てほしくなさそうな雲行きだねえ」
カエデがそう呟くと、雨が降り始める。
そうすると、カエデの表情が強張り、漁船に乗るアリシアたちに対して。
「海が荒れるから掴まりな! 天災の前触れだよ!」
忌々しそうに東の果て島を睨むカエデに、アリシアたちは言われた通りに漁船に備え付けてある取っ手部分に掴まる。
漁船は荒れ狂う波を裂きながら進み、東の果て島に向け進む。
「アリシア! 魔法かなんかで天気を良く出来にゃいかにゃ!」
「無理よ! あの馬鹿なら出来るかもしれないけど、魔法も万能じゃないの!」
「海にゃんて初めてにゃのに、生きて帰れるのかにゃ!」
トトの叫びにカエデが応えるように、荒れ狂う波で転覆しないよう船を操る。
「海に投げ出されないようにしっかり掴まりな!」
アリシアたちは耐え忍ぶように荒れ狂う波に揺られる漁船に掴まり続けた。
幸い、東の果て島に近かったため、命からがら接岸を済ませて、アリシアたちは急いで陸へと上がる。
カエデは行き慣れた島の道案内をするように、アリシアたちを古びた建物の場所まで連れて行く。
雨と風が強くなり始め、空はドス黒い雲で覆われ、雷鳴が響く。
「カエデさん! あれですか!?」
木々を割るように道が続いた先に見えて来たのは、赤い鳥居に縄が下げられ、その奥にある古びた木造建築の建物であった。
「ああそうさね! あそこに捧げ物を運んで入れるのさ!」
古びた建物内に入ると、隙間風と雨が差し込んでいたが、直接雨風に晒されていない状況を吉と見て、アリシアは魔法で雨で濡れた衣服を瞬間的に乾かし、トトやハーフェッド、フリジールとカエデ、ルナにも同じように衣服を乾かす。
「いにゃー魔法は便利にゃね、毛まで乾いてるにゃ」
「先人の知恵ね。今日、魔法は生活家電のために使われているから、便利なのは当然よ」
建物内はかなり広く、捧げ物が置かれていた場所が分かるほど埃が溜まっていて、どことなくカビの臭いが鼻をつく。
「捧げ物がないだろう? だから多分、天災を起こしてる奴が食べ切ったと思うのが丸い」
「手分けして探してみましょ」
雨風が差し込まない場所に穴が無いかくまなく探し、建物の奥にも行くが、特に目立つ物はなかった。
しかし、フリジールが耳をそばたて、何かに気づいたのか、捧げ物が置かれていた場所の後ろ辺りを指差し。
「その下から金属が鳴るような音が響いてます。もしかしたらその床下に穴が空いてるんじゃないでしょうか」
アリシアが探知魔法を建物内に這わせ、フリジールが指差した床に隙間がある事が分かった。
カエデがその隙間に指を差し込みこじ開けると、床板がガバリと開き、大穴が現れた。
「なるほど、地下にいたのかい。忌々しい天災を引き起こす輩は」
大穴から風が吹きこみ、その音の中に金属音が鳴り響いているのが聞こえ、アリシアたちは意を決し。
「カエデさんはここで待っていてください。私たちはこの穴から地下に向かいます」
「海獣イッカクの討伐依頼がこんな事になるなんてね。あとは冒険者のあんたたちに任せるよ、船を操れる奴が居なかったら帰れないからね」
カエデは床板を奥に向かってずらす。
アリシアは大穴の形が分かっているのか、勇足で穴へと飛び込んだ。
滑り台のようにツルツルと衣服が滑る音が聞こえ、しばらくの間トトたちは待つ。
そうすると、大穴の下からアリシアの呼ぶ声が響き、トトたちは間隔良く飛び込む。
暗い穴の中を滑り降りるトトたち。
穴はうねっていて、蛇の腹の中を思わせるような造りであったが、トトたちは大して気にする様子もなく、穴の中を滑り降りて行く。
「滑り台みたいにゃね」
「こんな長くて大きな穴を登ってくる魔物がどんなものなのか気になりますね」
「落ちた先に魔物が口を開けて待ってたら笑っちゃうにゃ」
「ははは、そんな事はないでしょう。捧げ物でお腹一杯になってるでしょうし」
穴の先が明るくなり、開けた場所に出たかと思えば、その先に巨大な口が開かれた状態で待ち構えており、先頭にいたトトは状況を一瞬で判断して、焦る事なくすぐさま弓を構え、魔物の口奥に狙いを澄まして矢を放つ。
トトたちが開かれた口に辿り着くよりも早く矢は命中し、痛みが走ったのか、口を閉じて唸り声を上げた。
「全員いるかにゃ?」
アリシアの魔法の補助もあり、下に着地した面々は人数確認をして、誰も欠けていない事を知る。
「で、あれは何にゃ?」
矢が喉辺りに刺さったのが苦しいのか、咳をするように息を吐いている魔物を指さすトト。
アリシアは知らないようで、ハーフェッドに視線が集まる。
「龍と呼ばれる伝説上の魔物……だと思うんですが。実際の所、私が召喚するドラゴンとは違って、存在するであろう魔物の一種ですね」
「曖昧ね」
喉に刺さった矢を抜いて欲しいのか、龍と呼ばれた魔物は口を開け、大人しくする。
勇よく向かったのはアレクで、矢を喉から引き抜くと、トンボ返りしてきた。
「オオナマズ、って名前らしいよ。そこにいるトリトン十三世と乙姫さんが教えてくれた」
アレクの口からオオナマズと聞いて、首を傾げるアリシア一行。
ナマズのようなヒゲが生えてはいるが、滑らかな鱗がびっしりと身体を覆い、こじんまりとした手が覗き、蛇のように胴が巻いていた。
「オオナマズ……、どこら辺がナマズなの?」
「伝説上の魔物と言いましたよね? 東の果て島に鳥居と建物があったのを覚えてます。今まで起こっていた天災が捧げ物を運んでみたらピタリと止まった事を踏まえると、もしかしたらこの龍は、遥か昔から信仰されていた魔物なのではないでしょうか」
「信仰ねぇ……、実際の所どうなの?」
アリシアが事情を知っていそうな乙姫に訊ねる。
「信仰されていたのは事実である。妾もよくヒガシ人に会っていた時期もある」
「けど信仰されず、暴れていた時期もあったと」
「ヒガシ人はいつからか伝統を忘れ、ヒノカミ一族を信仰するようになった。人間は敬うだけで良い、信仰なぞしなくても」
「私たちとしては天災を起こす存在は討伐しないといけないと思ってるのだけど。このまま捧げ物を捧げ続ければ大人しくするの?」
オオナマズを指差し、乙姫に問い詰める。
「妾は現状維持が出来るのであれば構わない。しかし今、オオナマズ様は呪いに苦しんでいる」
「呪い?」
オオナマズは別段苦しんでいる様子はなかったが、アレクだけはオオナマズの頭部を見据えていた。
「カミサマとの繋がりを示す縄がオオナマズ様に付いているんだ。力を譲渡されるのではなく吸われている」
「それなら早く斬らないと」
「待って」
ハーフェッドがオオナマズの体を触ったり、魔法で何かを調べている。
縄を断ち切るのはその後でも良いとアレクはアリシアに伝えた。
「ハーフェッド、何か分かった?」
「呪いって言ってましたよね? 捧げ物の中に毒か何かを仕込まれていたんだと思います」
「ヒガシ人がわざわざ信仰されなくなったオオナマズ様に毒を仕込むなんて」
「呪いの類いなら既に私たちにも影響があるはずです。魔法で調べた限りだと、毒で間違いないと思います」
ハーフェッドがオオナマズから離れ、アリシアに魔法で調べた結果を見せると、アリシアはすぐに、
「かなりの量の毒物を飲まされてる。オオナマズ様の図体のデカさから察するに、五年ぐらい毒物を摂取しているわ」
「人間基準で言えば、もがき苦しんで生き絶えるぐらいの毒ですし、五年摂取してまだ生きているのが不思議ですね」
「弱らせたい理由があるんじゃないの」
アリシアがアレクに視線を移すと、アレクは頷く。
「この東の果て島には古くから、龍脈と呼ばれる膨大なエネルギーが循環する土地らしくて、オオナマズ様はそれが暴走しないようにするための守護者なんだって」
「なるほど、溜めに溜めた龍脈のエネルギーを放出させて天災を引き起こしたい輩がいるのね」
「みたいだね。だから僕がやるべき事は、カミサマと繋がった縄を断ち切って、オオナマズ様を元気にする事だ」
星導剣を鞘から引き抜くと、既に七星の輝きが瞬いており、アレクはオオナマズの頭部に繋がれた縄を断ち切った。
そうすると、ぐったりとしていたオオナマズが次第に活力をみなぎらせた様子を見せる。
『呪いが解けたんだね!』
「良かった良かった」
トリトン十三世と乙姫は喜び、オオナマズは咆哮を上げて感謝の意を示した。
「これで二度と天災は起きないのね」
「ヒガシ人がオオナマズ様を信仰し続ければの話であろう」
「それはそうだけど。毒を捧げ物に仕込める人物がいる限り、オオナマズ様は毒を喰らい続けることになるのよ?」
「それは妾たちがする事ではない」
「ま、そうなるわよね」
半ば諦めたようにアリシアは呆れる。
すると、オオナマズが何かを察知したのか、低く唸り声を出す。
アレクたちがオオナマズの視線の先を見ると、フードを深く被った人物がいた。
「素晴らしい、素晴らしいよアレク・ホードウィッヒ君」
「誰だ!」
声から察するに、男であろう人物は、好奇の眼差しをアレクに向けている。
フードの下からでも分かる威圧感にアレクは怖じけるが、ヘパイストスが打った白亜剣を鞘から抜き出し、構えた。
「俺か、俺は七曜の星が一人、メラクだ」
熾天使セラフィムと違い、七曜の星は元々はカムイの仲間であった人物である。
今現在はカミサマの支配下にあるが、縄を断ち切れば解放する事が出来るのは周知の事実であった。
メラクはフードの付いた服を脱ぎ去ると、上半身が裸であり、下半身はやや攻めたようなズボンを履いていた。
髪色は黒く、瞳は茶色く、日に焼けた肌を露出して、筋骨隆々であった。
「へ、変態だ……」
「んー、良いねその反応」
その場にいた全員があからさまに嫌な顔をすると、メラクは恍惚の表情を見せ、気分が高揚したのか荒い息を吐く。
「俺は変態と自覚しているが、そんな物はただの飾りでしかない」
メラクが両手を体の前で擦り合わせ広げると、黒い物体が生成されたのが見え、それが放たれるとアリシアとフリジールが前に出た。
「耐えられるかな? 俺が独自に編み出した破壊魔法を」
防護結界と魔法盾が展開され、破壊魔法が着弾すると、アリシアとフリジールの表情が険しくなる。
「なるほどなるほど、防護結界に魔法盾か、進化してるね魔法防御術は。だが、それでは俺の破壊魔法には太刀打ち出来ない」
以前カムイがフェールフィーズに放った第十階位魔法に似たような爆発が起こり、防護結界と魔法盾が破壊される。
勢いそのままに、爆風で吹き飛ばされるアリシアとフリジールをアレクとトトが受け止め、事なきを得た。
「ほうほう、どこぞの馬鹿が第十階位魔法を使って見せたのが知恵になって、俺の破壊魔法をそこまで軽減したのか。やるねぇおたくら」
アリシアはすぐに立ち上がるが、フリジールは魔法盾を展開していた腕がアザだらけになっていて、ハーフェッドが回復魔法を掛ける。
「防護結界の特徴は、もし魔法の追加効果で人体に影響を与えようとしても、それが届かない距離で魔法を防げる事。……けどフリジールまでは守れなかった、ごめんなさい」
「謝る空気じゃないにゃ! あの破壊魔法が着弾したらアタイら粉々になるところにゃったろうに」
「トトありがとう。けど今ので分かった、あんた独自に魔法を編み出したって言ってたけど、そんなちゃちな魔法しか作れなかったって憤りを感じたでしょう?」
アリシアの煽りが効いたのかメラクは怒りを露わにして、破壊魔法を作り始めた。
「防護結界で防いだだけで調子に乗るなよ! 二度目は無いと思え!」
「こっちの台詞よ」
メラクが違和感に気づいた時には既に遅く、剣の間合いに踏み込んだアレクが右腕を切り落とそうとしていた。
「煽りはブラフ……! そして間合いに踏み込みまで姿を捉えられなかった……! くく、良いねおたくらぁ!」
「紫電一閃!」
雷鳴のような音が地下空間に鳴り響き、切り落とされた右腕が血を噴き出しながら地面に転がる。
「紫電一閃か、良い技だ。しかし首を斬らなかったのは判断ミスだ」
「ええわかってますよ」
弦音が鳴り響き、矢がヒュンと音を立てて左腕に刺さる。
展開していた破壊魔法が制御出来なくなり、左腕を巻き込んで消滅した。
「連携技が冴えている……! 素晴らしい!」
ヨタヨタと後退し壁に背をもたれ掛け、メラクは笑みを浮かべる。
「勝負ありましたね」
「果たしてそうかな?」
少し離れた場所に転がっていたメラクの右腕が自立して動き始め、アリシアたちのいる方へと向かったのが見え、アレクはアリシアたちに向かって声を上げる。
「勝負はまだついてないんだよ」
目を離した隙に、メラクの左腕がいつの間にか治っており。
その手がアレクの首元に伸び、アレクが気づいた時には破壊魔法が炸裂していた。
アレクが爆風で吹き飛ばされ、岩壁に身体を強く打ち付けると、メラクは疑問に満ちた目をする。
「威力を抑えたつもりは無いんだがな」
五体満足で岩壁の前で横たわるアレクに近づこうとするメラクであったが、それを遮るように氷壁が張られた。
「アレクに近付かないで!」
「愛されてるなぁアレク君は」
標的を変えるようにメラクはアリシアたちに向かって破壊魔法を生成し始める。
自立していたメラクの右腕は、既にメラクの元へと帰っており、両手で生成された破壊魔法は先程よりも巨大であった。
「アレク・ホードウィッヒ! 仲間が死ぬ様を見届けな!」
先程の一撃で満身創痍になったアレクは、立ちあがろうとしても力が入らず、か細い声でアリシアたちの名を呟く。
「アリシアちゃん! この洞窟一帯を一時的に暗く出来ない!?」
「出来るけど、あの魔法をどうにかしないと」
「一瞬でも良い、奴に深手を負わせればいいのだから」
「一瞬だけよ!」
アリシアはルナに言われた通りにほんの数秒、この洞窟内から明かりを消失させた。
「暗くなったから狙いを外すとでも思ったのかぁ!?」
明かりが消失した数秒間、月明かりが灯ったかのような二つの光跡がゆらりと動き、メラクは破壊魔法をそれに向かって放つ。
魔刃剣のような物がルナの手に握られると、破壊魔法は真っ二つに斬られ、勢いそのままに二つの光跡がメラクに迫る。
「小賢しい!」
破壊魔法が次々に放たれるが、二つの光跡は軽々とそれを避け、メラクに近づくと、光を帯びた剣の間合いに入ると目にも止まらぬ速さで軌跡を描く。
そしてパッと明かりが灯った時にはメラクの体が切り刻まれ、頭以外の部位が肉片と化していた。
ルナの瞳は閉じられ、魔刃剣のような剣も消失する。
「勝負は決した。言い残す事はあるかしら」
「勝負に勝つも負けるも、相手が生きてる限り、決まったとは言えないんだぜ」
メラクは口をかっ広げると、天井に向かって破壊魔法を放ち、メラクは嫌な笑みを浮かべた。
「ここに流れている膨大なエネルギーに刺激を与えた。今まで抑えられていた龍脈が一気にエネルギーを放出したらどうなるか、頭が悪くても理解は容易い」
ルナは笑い飛ばすメラクの頭を切り刻み、アレクの元へ駆け寄る。
「アレク君、大丈夫?」
「な、なんとか……」
破壊魔法が炸裂した影響は大きく、衣服は焼け落ち、火傷のような傷が胸部に走っていた。
ルナに支えられながらアレクは立ち上がり、アリシアたちの元へと歩み寄る。
居ても立っても居られなかったアリシアは、満身創痍のアレクに回復魔法を掛けるため駆け寄り、ルナと入れ替わるように肩を貸した。
「馬鹿アレク……! 私たちに気を取られてるんじゃないわよ……!」
「ごめんアリシア。けど、咄嗟に白亜剣を破壊魔法の間に挟んだからここまでで済んだんだ。ヘパイストスさんには悪いけど、剣壊しちゃった」
アレクの右手には、刀身が半分以上消失した白亜剣だったものが握られていた。
「剣なんて何回でも作れるんだから……! あんたは自分をもっと大切にして! アレクを好きな人が今どんな顔してるかよく見なさい……!」
アレクがふと顔を上げ、アリシアの顔を覗くと、アリシアは顔をすぼめ、今にも涙を流しそうになっている。
「ごめん、アリシア」
アリシアは何も言わずにアレクを抱きしめる。
その抱擁は長いようで短かったが、アレクとアリシアにとってはとても密の高い抱擁であった。
「いにゃー正妻ポジションがついに決まったにゃ、アレからアレクを寝取ろうものにゃら、百倍返しになって帰ってきそうにゃ」
「アリシアさんからは奪えそうにはないですね」
そんな会話の最中、フリジールが耳を澄ませていると何か聞こえたのか、乙姫とトリトン十三世に尋ねる。
「地響きのような音が聞こえました。龍脈が暴走し始めた兆候では?」
「耳が良いようだな。メラクと名乗った輩が放った魔法で龍脈が動き出したかもしれぬ」
乙姫はアレク一行に呼びかけ、集まるように指示を出した。
「皆の衆、オオナマズ様の背に乗ってここから脱出せよ」
オオナマズは首を下げ、アレクたちを乗せる準備をする。
その上に乗り込むアレクたちであったが、乙姫がなぜかオオナマズに乗り込まず、疑問に思ったアレクは乙姫に、
「乙姫さんは乗らないんですか」
「妾は龍脈から生まれた魔物の一種じゃ。ついては行けぬ」
洞窟内に響き渡る鈍い音。
巨大なエネルギーが動き出したのだと感じさせる揺れに一行は恐怖する。
「乙姫さん、また会えますよね?」
「再び会った時は妾をそう呼んでくれ。次の妾は妾ではないが、名前は残るからの」
乙姫が見送る形でオオナマズが天井にある巨大な穴に飛びこみ、アレクは後ろ髪引かれる思いのまま、地上へと昇り始めたのであった。
次回は5月25日16時半に投稿します




