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剣と魔法が交わる世界で  作者: 天望
35/49

第35話『ヒガシに渡るには』

今回は試験的に予約投稿にしました

PV数が伸びたのが日曜日だったので、試しにこの先の何話かは日曜日に予約投稿するつもりです

もしPV数が伸び悩んだら、その時にまた考えます

 エルフの御者が操る馬車が簡易拠点に着いたのは、ものの見事に短時間であった。

 待っていたカムイたちは、爆走してやって来た馬車を魔物だと勘違いして臨戦態勢に入っていたが、馬車からアレクとフリジールが現れたため、慌ててアレクの安否を確認する。


「痛い所はないか? 腰痛めとらんか? 魔力はあるか?」

「キス以外に何かされてない? どこにも傷はない?」


 心配の仕方が過剰なような気もするが、アレクは「何もされていないですよ」、と言ってその場を収める。


「ちゃんと乗客は無事に到着させましたよー。駄賃はいらねぇやーい、アタイは馬を走らせる事に生き甲斐を感じてるので。ではさらば!」


 エルフの御者が再び爆走して森の中へ消え、カムイたちは安堵する。

 しかし残ったエルフのフリジールに視線が集まり、アリシアとトトはまだアレクを女の子扱いしなければならないのかと気を揉む。


「勘違いしとるようじゃから言っておくが、純エルフはさほど性欲はないぞ。エルフに関しては擁護出来ないぐらいに性欲が強いが」

「それならアレクを女の子扱いしなくても良いんですね」

「そうじゃな。きっとリロールが旅立ちの時だ、とか言ってフリジールを外界に出し、ワシに預けるつもりでアレクと同行させたんじゃろうし」


 アリシアとトトは気を揉む必要がないと判断すると、荷物がなくなった馬車の荷台に乗り込み、早く乗り込むようにと促す。


「師匠、僕から脱がした服とかありますよね?」

「あるぞ、ここに」


 カムイが何もない空間に手を突っ込んだかと思えば、そこから手を引き抜くと服が現れ、それをアレクに渡した。


「ほい、じゃあ馬車に乗り込んでそこで着替えよ」

「流石に女の子の前で着替えるのはちょっと……」

「そうか、ならここで着替えてから出発じゃ」


 カムイはフリジールと共に馬車に乗り込み、すぐさまアレクは着せられた服を脱いで、普段着を慣れた手捌きで着こなした。

 星導剣も白亜鋼で作られた剣も、腰に巻きつけたベルトに噛ませて携えると、アレクは馬車の荷台へと乗り込む。

 アレクが馬車の荷台に乗り込むと、素っ頓狂な声を上げるフリジール。


「お、男の子だったんですかぁ!?」

「流石に気づかんとおもっとったが、これがあるから楽しいのじゃよな」

「え、え、え、えっじゃあ! 用を足す時に見たアレは()()()()だったんですか!?」


 ちんちんと言うワードが出た事により、カムイは爆笑して転げ、アリシアとトトは固まり、ハーフェッドはあの時の感触を思い出し赤面する。


「そ、そうだよフリジール。僕は男の子だったのさ」

「声をあまり出さなかったのはバレないための作戦だったんですね!」


 アレクも恥ずかしさのあまり赤面して、キラキラとした目をするフリジールから顔を背ける。


「師匠ぉ……次はやりませんからね、女装は」

「ちんちん! ちんちんじゃて! わははははは!」


 笑い転げるカムイを他所(よそ)に、アリシアとトトがアレクとの距離が近いフリジールに眉をひそめた。


「ちょっと、ポッと出のアンタ。アレクのちん……、ちんちん見たからって距離が近いんじゃないの?」


 アリシアが言い淀むようにして放ったちんちんは、笑い転げるカムイに追い討ちをかける。


「ちんちん! アレクよ、アリシアがちんちんと言ったぞ! わははははは!」

「しつこいですよ、師匠」


 アレクはピシャリとカムイを怒り、カムイは笑うのをやめ、おとなしくなった。


「アタイらとは初めましてにゃから、自己紹介するにゃ」

「自己紹介ですか、良いですよ。これからみなさんの旅に同行するんですからね」


 フリジールは胸に手を当て、自己紹介を始める。


「私はフリジール・オリーブです。リロール様から産まれた純エルフに属します。得意な事は魔法盾で、みなさんを守る事が出来ると思います」

「魔法盾ってかなり古い魔法ね。今は防護結界が流行りだけど、実際の所、どこまで防げるのか教えて」

「単純にですが、大木があるじゃあないですか」


 フリジールが馬車の荷台から見える大木を指差す。


「アレが一度折れた事があって、下敷きになりそうな仲間たちを庇い、魔法盾を展開したら受け止めきれました。その上、そのまま押し潰される事なく、私が重点をずらすと、大木は転がるようにして落ちたんですよ」

「魔法はどうなの?」

「魔法はですね、経験が浅くて……。長生きエルフの仲間たちでも第五階位魔法までしか使えないので、第五階位までなら受け止めきれます」

「普通に通用するじゃない。魔法盾って展開するのにかなり魔力を使うけど、その問題点は克服してるの?」


 アリシアは魔法盾を扱えるフリジールの話に食いつく。


「魔力はかなりある方だとは思います。けどアリシアさんのようにエレメンタル憑きではないので……」

「見えてるのね。流石は純エルフ」

「エレメンタル憑きの情報は、仲間伝に聞いた事しか無かったので、私も初めて実物を見ました」

「……魔法盾は得意なようだけど、弓や剣の扱いは駄目そうね」

「えっ、なんで分かったんですか?」


 フリジールが慌てふためき、トトがアリシアに同調するように頷くと、


「他のエルフのように弓も矢筒を持ってにゃい。その上、携えている短剣は新品のように傷もにゃく、鞘からも抜かれた様子もにゃく、使われていにゃいと推測出来るにゃ。それに……」


 トトがフリジールを足先から頭の先まで見ると、フリジールが恥ずかしそうにする。


「モデル体型にゃね、感心感心。にゃけど、冒険者には向いてにゃいにゃ」

「ま、まだ若いだけです」

「発展途上なら尚更にゃ。動けない庇えにゃいとにゃったら、魔法盾も宝の持ち腐れにゃ」

「それはそうですね……」


 自分の体型を見直すフリジール。

 しかし、トトの指摘に横槍が入った。


「違うな、魔力の循環で体を強化しておるんじゃよ。かと言って、トトの指摘は別に間違ってはおらん。アリシアは既に気づいとるじゃろうが」


 アリシアは、分かってましたよ、と言った顔をして鼻から息を漏らす。

 

「魔力を循環……知らにゃかったにゃ」

「呼吸をするように魔力の循環をしておるから、パッと見ただけでは分からん。しかし、筋肉があれば出来る事は増えるし、しばらくの間は筋トレに勤しんでもらおうかのう」


 フリジールはカムイの提案に頷く。

 そうすると、フリジールはアリシアをじっと見る。


「な、なによ」

「私の自己紹介はしました。アリシアさんたちも自己紹介をお願いします」

「そうね、改めて自己紹介するわ」


 ――とアリシアから順繰りに自己紹介をしていき、フリジールは楽しそうに笑い、馴染むのも時間の問題であった。

 そうしている内に馬車はエルフの住む森を越え、ヒガシが見える海岸線前に到着したのである。

 海岸線沿いには町があり、あって当然のように冒険者ギルドの建物も見えた。


「御者よ、リエイラたちから貰った資金でしばらくはこの町に滞在せよ。ワシらが帰って来たら連絡を取る、良いな?」


 御者は頷くと馬車を動かして、町中に消える。

 カムイたちが降りた場所は、町の真ん中辺りであった。


「ワシはヒガシを行き来する船を探す。お主らは冒険者ギルドへ行き、依頼をこなして船代を稼いでおいて欲しい」

「やる事は変わんないわね。船代も騎士団が出せば良いのに」

「ヒガシは特殊な国じゃからな。御者と馬車がタダで使えただけマシなほうじゃ」

「じゃあ船は任せたわ。私らにかかればどんな依頼も楽勝よ」


 自信があるアリシアは、意気揚々と冒険者ギルドに向かって歩み出す。

 トトとハーフェッドはそれについていき、初めて見る物に溢れる町を見て目を輝かせるフリジールには、アレクが付き添う様に歩く。

 カムイはそれを見送った後、船の手配をするために、港へと向かうのであった。


 冒険者ギルドに到着して、アリシアが先陣を切って受付嬢の元へ行く。

 ヒガシの近くなのもあってか、冒険者ギルドに来ている冒険者たちは、アレクたちにとって見慣れない服装に身を包み、細長い剣を携えている。

 逆にアレクたちの服装の方が浮いており、冒険者たちはアレクたちを見て、聞き慣れない言語で何かを言っていた。

 そうすると受付の方からアリシアの大声が響き渡り、アレクが急いで受付へと向かう。


「どうしたのさ、そんな大声上げて」

「どうしてって、アンタも受付嬢の説明を聞いたら絶対に大声あげるから」


 アリシアが受付嬢を睨むと、アレクは受付嬢に説明を求めた。


「ここ冒険者ギルドは、名前こそ冒険者ギルドですが、ヒノカミ一族のお膝元であるため、ヒガシ出身でない者は依頼を受ける事が出来ません」

「ええっ!?」


 アレクも大声を上げたため、トトやハーフェッド、フリジールがこちらにやって来た。


「二人してなんにゃ、揃いも揃って大声なんかあげて」

「実はかくかくしかじかで……」


 アレクから説明を受けると全員が驚き、受付嬢に詰め寄る。


「お、落ち着いてください。ヒガシ出身でない方々が依頼を受ける方法はあるんです、嘘じゃありませんよ?」

「どうすれば依頼を受けられるの」

「ヒガシ出身の冒険者を一人、パーティーに組み込まれたら依頼を受けられます」

「そうなのね、騒ぎ立てて悪かったわ」


 アリシアは冒険者ギルド内を見渡すと、視線が集まっている事に気づく。

 だがしかし、その視線は下心のある舐めつけるような視線であったため、アリシアはアレクたちを促し、冒険者ギルドから出ていくのであった。


「どこまで行っても所詮は冒険者、ヒガシ出身だろうと綺麗な花に(たか)る害虫のようにゃね」

「アリシアさん、ヒガシ出身の冒険者に心当たりでもあるんですか?」


 アリシアたちが冒険者ギルドの建物から出て行った後、ぶらぶらと町を歩いている一団になり、当てずっぽうな町探索へと変化していた。


「ない。けど冒険者が集まるのは冒険者ギルドだけじゃない。酒場を探すわよ」

「真昼間から酒盛りしてる奴らが下心無しでパーティーに入ってくれるかにゃー?」

「あの馬鹿がよく言うのよ。酒場には、酒場に入り浸る理由がある奴らが集まってるって」

「あの人もおんなじ匂いはするけれど、なんとなく分かるような気がするにゃ」


 一行は酒場を探す目的が定まり、手分けしてこの町の酒場をしらみつぶしに探す。

 そうして見つけた酒場に入ると、ヒガシ出身の冒険者かどうかを聞き回る。

 酒場に入り浸る理由はなんにせよ、先程の冒険者ギルドにいた輩よりかはまともな感性をしていた。

 しかし、どの冒険者もそのヒガシ出身の冒険者を探すのを諦めた西側の冒険者たちばかりで収穫はなく、アレクたちは一度集まる事にした。


「ダメね、どいつもこいつもヒガシ出身の冒険者を探せなくて酒場に入り浸ってる奴らばかり」

「こっちもダメだったよ」


 西側出身の冒険者が理由として上げた、ヒガシ出身の冒険者を探すのを諦めた、だが、聞き回る内にヒガシ出身の冒険者が嫌いになるような話ばかりしか聞けなかったため、一行は冒険者ギルドに戻ろうとは思わなかった。


「足元見てくる輩ばかりだから酒場にいるって、冒険者は言ってたわね」

「その上、ヒガシ語が喋れないと会話をする事もままならないって言ってたね」

「私たちの場合、あの馬鹿にどんな言語にも対応出来るように教育を受けてるからいいとして……」


 アリシアはトトとフリジールを見て、二人はきょとんとした表情を見せる。


「アタイはヒガシとは無縁だったから話せないにゃ」

「私はリロール様の加護があるので問題なく話せます」


 と、二人は別々の回答をしてきたのでアリシアは頭を抱える。

 アレクは隣に立っていたハーフェッドに視線を移し、尋ねる。

 

「ハーフェッドは知ってそうだからアリシアが聞かなかったけど、大丈夫?」

「魔族の貴族である私を舐めないで下さい、いついかなる言語が必要になるかもしれないと言われ、百年前にあらかたの言語を習得済みです!」

「そうなんだ、流石貴族の娘だね」


 そういえば魔族だったなとアレクは思い出し、頭を抱えてうずくまるアリシアに声を掛ける。


「うずくまってても仕方ないよ。酒場もあと一軒だし、みんなで行こう」

「見つからなかったらあの馬鹿を呪ってやるわ……」


 最後の一軒である酒場は、既に営業を終了しているかのような風貌で、それを見たアリシアが港に向かって邪気を放ち始める。


「とりあえずみんなはここで待ってて、僕が行ってくるからさ」

「分かったにゃ、アリシアが暴走する前に用を済ませてくるにゃ」


 トトたちに見送られるようにアレクはボロボロの店内へと入っていく。

 中はほぼ半壊していて、雨漏りしているのか天井から水滴が落ちて水溜まりを作り、水に濡れて腐った床が抜け落ちている。


「ごめんくださーい。誰かいらっしゃいますかー?」


 店内はとても静かで、水滴が水溜まりに落ちる音だけがアレクに返事を返していた。

 だが、アレクが店内の奥の方に足を踏み入れようとした瞬間、溢れ出る殺気がアレクを襲い、一歩引く。

 そうするとすんでのところで首元を狙って剣を振るう風切り音が鳴り、アレクは冷や汗をかく。


「誰だ!」

「……」


 アレクは出口を背にするようにして後退し、店内の奥から人影が現れるのを待つ。

 ぽちゃり、ぽちゃりと水滴が水溜まりに溜まる音が何度かしたかと思えば、奥から人影が現れた。


「私の住まいに何か用?」


 人影が動き、穴が空いた天井から差し込む光で照らされる。

 照らされて露わになったのは、ヒガシ国の正装である和服を着た女性であった。

 手に持っているのはカムイと同様の魔刃剣に見え、アレクは柄に手をかける。


「あなたの家だとは思いませんでした。勝手に入って来た事は謝ります、ここで一悶着起こすのはやめましょう」

「あら、あなたのその構えかた……」


 和服を着た女性は、白に黄色を混ぜたような髪色をしていて、目は閉じているが、見えていないわけではないようだ。

 背の高さはカムイに比べれば低いが、アレクよりは高い。

 その女性はアレクの構え方にピンと来たのか、魔刃剣を納める。


「あなた、カムイ……紫電のカムイから剣術を教わったりしてない?」

「そう……ですけど、あなたに何か関係があるんですか?」

「あるもなにも、私とカムイは道場仲間よ」


 殺気が消え、和服を着た女性はアレクに近寄り、肢体を触り始めた。


「あ、あの、お名前は?」

「私はルナ・ミツキ。あなたヒガシ出身の冒険者を探してた口でしょう?」

「それはそうですけど、なんで分かったんですか?」

「だってそれは噂を聞きつけて来たんでしょ? ボロ屋に住む冒険者がいるって」


 そうではないと否定しようとしたが、ルナが顔を近付け迫って来たため言い淀む。


「あなた、名前は?」

「アレク……アレク・ホードウィッヒです」

「アレク君ね。あなた一人だけ……て感じじゃなさそうね」


 入り口の先に視線を移すルナに、アレクはカムイと同じような印象を受けた。


「アレク君が先に行ってちょうだい。私が先に出て来たらびっくりされるから」

「それはそうですね」


 アレクが半壊した店から出てくると、音に敏感なトトが最初に気づいた。


「アレク、どうだったかにゃ? 一人にゃから収穫なしかにゃ」

「いや違うよ。ルナさんって人がいて……」


 アレクの背後から現れたルナに驚いたのはトトだった。

 耳が良い獣人(ビースタス)の耳で足音を聴き分けられなかった事に衝撃を受けたのだろう。


 呪詛を並べて呪いを送るアリシアに、アレクが声をかけるが、生返事が返ってくるぐらいであった。


「ルナさん、ヒガシ出身で冒険者なんだって。だから依頼を受けられるよ。だから師匠に向かって呪いを掛けるのはやめにしよう」

「ヒガシシュッシンボウケンシャ? オンナ?」

「カタコトにならないで」


 顔に正気が戻り、アリシアは落ち着きを取り戻す。

 アレクの後ろに立つルナに、アリシアはいささか疑問に思ったのかこんな質問をした。


「なんでヒガシ出身の冒険者なのに廃墟から出て来たの?」

「それはー……そのー……」


 言い淀むルナにアリシアは詰め寄り、手を差し出して、


「冒険者カードを見せてちょうだい」


 ルナは懐をまさぐるような仕草はするが、冒険者カードが出てくる様子はなく、顔色を悪くする。


「もしかして貴女、冒険者カードを無くしたんじゃあ」


 アリシアの問いにルナは頷くと、アリシアはため息をつく。


「フリジールがまだ冒険者カードを持ってないし。ルナさん、貴女の冒険者カード再発行の手続きもしに行きましょう」


 再び冒険者ギルドへと向かう事にはなったが、アリシアの表情は柔らかいものになり、アレクたちは一安心する。


「あなたたちはカムイの弟子なの?」

「そうです。アリシアは魔法を、トトは弓術を、ハーフェッドは召喚術を、フリジールは魔法盾を、それぞれが得意とする技術をさらに昇華するために師匠の弟子になっています」

「女の子ばかりだからカムイの趣味かと思ってたけど、ざっと見た感じ、他の冒険者とは一味違う気配がするわ、それに……」


 目を閉じたままアリシアに顔を向け、ルナは何かを肌で感じ取ったのか、


「アリシアちゃんはエレメンタル憑きなのね」


 通常では見えない存在が憑いている事に気づいたルナは、物珍しそうにしている。


「ヒガシではエレメンタル憑きは珍しいんですか?」

「私は視えるからそうでもないんだけど、視えない人からすれば、お化けが憑いてるイメージになっちゃうみたいで、怖がられたりするのが普通の反応ね」

「西側と同じような反応ですね」

「そうなの? てっきり私は西側の方はエレメンタル憑きの研究が進んでいそうだと思ってたのだけど」


 アレクは首を横に振り、アリシアに向けて遠い目をする。


「アリシアは先天性じゃなくて後天性のエレメンタル憑きなんです」

「詳しくは聞かないけれど、西側も楽じゃないのね」


 ルナはアリシアを見るアレクに何か勘付いたのか、柔らかな笑みを浮かべる。

 するとアレクが何か思い出したかのようにルナに視線を動かした。

  

「そう言えばルナさん、まぶたを閉じてますけど、見えてないわけじゃないですよね?」

「ええそうよ、目が悪いわけじゃないの。目が()()()()、って言うのが正しいかしら」

「目が良すぎる……。魔眼ですか?」


 以前会ったアンセムの事をアレクは思い出し、ルナも何かしらの効果のある魔眼持ちなのだと推測した。

 その推測が当たっていたのか、ルナは少し動揺するが、取り乱す程ではない。


「昼間は日の光があるから目を閉じてないといけないのだけど、この目が本領発揮するのは夜なの」

「そうなんですね。以前にも魔眼持ちの方と会った事があって――」


 ――アレクとルナが会話に夢中になっている内に、冒険者ギルドへと到着する。

 冒険者ギルドに入ると、ヒガシ出身の冒険者たちがまだ(たむろ)しており、アリシアたちの姿を捉えると(よこしま)な笑みを浮かべる。

 しかし、アリシアたちの背後から現れたルナに気づくと、邪な視線を送るのをやめて、押し黙った。


「あれ? なんかさっきよりか視線が痛く無い」

「あらそうだったの?」


 ルナが冒険者たちに視線を送ると、(みな)顔を逸らして冷や汗を流し、ルナは不敵な笑みを浮かべる。

 横槍が入らないとアリシアは思ったのか、フリジールを連れて冒険者カード発行受付に向かい、アレクはルナを冒険者カード再発行受付に向かった。

 トトとハーフェッドはその間にクエストボードの前に立ち、依頼を探すのであった。


「冒険者カードの再発行手続きに来たんですけど」

「いらっしゃいませこんにちは! 冒険者カード再発行ですね? 再発行される方の名前などをこの用紙にご記入して下さい」


 受付嬢から用紙が差し出され、ルナはその紙に名前などを書き、受付嬢に返した。


「ルナ・ミツキさんですね? 少々お待ちください」


 受付嬢が奥に消えてから数分。

 慌ててこちらにやって来たのは受付嬢ではなく、少々やつれた風貌をした男性であった。


「申し訳ありませんミツキ様、冒険者カードの再発行をされると聞き、急いで参りました」

「いえいえ、支店長が出て来るほどの事ではないですよ」

「ミツキ様の冒険者カードは再発行しなくても良いんです。つい先日、ミツキ様の冒険者カードの不正利用があり、調べた所、落ちていたから拾い不正利用をしたと言う男を捕まえ、冒険者カードは無事に回収でき、冒険者ギルドへと保管されたのです」


 支店長は冒険者カードを箱の上に乗せた物を差し出して、ルナはそれが本物かどうか手に取って確認する。


「偽造された物ではないわね。よかった、見つかって」

「こちらとしても助かります、手続きは以上でよろしかったでしょうか」

「ええ、ありがとう」


 ルナが受け取ったのは光が透過してキラキラと眩しい瞬きする冒険者カードで、アレクは驚く。


「ルナさんはダイヤモンド級冒険者なんですか!?」

「そうは見えないでしょう?」


 ふふん、と鼻を鳴らしてドヤ顔をするルナ。

 アレクは絶句して、口をぱくぱくしてしまう。


「そこまで驚かなくても良いじゃない」

「だ、だって師匠以外にもダイヤモンド級冒険者がいるだなんて思いもしなかったから……」

「それはそうね」


 用が済んだルナとアレクは、トトとハーフェッドのいるクエストボードへと向かい、二人の様子を伺う。


「どう? 船代を稼げそうな依頼はあるかい?」

「どれもこれもパッとしない依頼ばかりにゃね」

「そうなんだ」


 アレクもクエストボードに視線を移し、依頼の内容を確認しながら読み進めるが、目ぼしい依頼はなかった。


「ルナさんの冒険者カードの再発行、早かったですね」

「紛失物だったから、拾った人が冒険者ギルドに届けてくれたの」


 ルナの手に掴まれた冒険者カードを見て、ハーフェッドもアレクと同じような驚き方をする。

 と、そこへ、冒険者カード発行の手続きが済んだフリジールとアリシアがやって来て、フリジールは全員に見えるように冒険者カードを披露した。


「これで晴れて私も冒険者の一員です!」

「おー」


 茶色の木材で出来た冒険者カードを掲げるフリジールに、アレクたちはまばらな拍手をしておだてる。


「フリジールは冒険者カードを発行したのか、関心関心」


 アレクたちはカムイの声がした事にギョッとして驚く。


「船代を稼げと言ったが、ここの冒険者ギルドはちと面倒な依頼システムじゃった事を忘れておったわい」


 するとカムイがルナの顔を見た途端、ルナが満面の笑みを見せる。


「ルナではないか! よー生きとったのう」

「積もる話は後でやりましょう」

「往復する船は見つかったからのう! では行くぞ、ヒガシへ!」


 カムイの鶴の一声でアレクたちは、ヒガシへと向かう船が停泊する港へと向かうのであった。

次回は27日日曜日16時半に投稿します

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