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剣と魔法が交わる世界で  作者: 天望
34/49

第34話『自然教の始祖、リロール・ロール』

毎日投稿は難しかったです

でも早く投稿出来ました

続けられるように頑張ります

 先遣隊が簡易的に組み上げた拠点は、とても質素で、長期的に滞在するのにはいささか不便な造りであった。

 そこに馬車が到着すると、先遣隊は辺りを警戒し、部外者がいないかを確認する。

 確認が済み次第、隊員は積荷を下ろし始める。


「ワシらはここまでじゃ。良いな? スタッドよ」

「ああ、構わない。我々エルフの住む拠点まで来られると厄介事になるからな」

住処(すみか)まで行こうとは思わんよ」


 馬車を待たせていたのか、御者と共に簡易拠点へ現れ、御者のエルフは収穫物の多さに笑みを綻ばせていた。


「今回は大漁じゃないか、どこかの貴族がヒガシに向かうつもりだったのかい?」

「いや違う、冒険者だ。カムイって奴がリーダーのグループだ」

「カムイ……カムイねぇ、なんか聞いた事ある名だけど、今は置いておいて」


 乗り移るようにして積荷がエルフの乗る馬車に積み替えられる。

 先遣隊はその馬車に乗り込み、フリジールも馬車に行こうとしたが、勘付いたようにアレクの方を見て固まる。


「星の器……? 連れてきて……? 決して手を出すな……?」


 ぶつぶつとフリジールがアレクの顔を見たまま呟く。

 気味が悪いと感じたアリシアは、アレクとフリジールとの間に立つ。


「この子は女の子よ、アンタらが欲しい物じゃないわ」

「はい、それは重々承知しています。けど、リロール様が連れて来いとおっしゃっているので、連れて行きますね」

「な、なんでよ」

「リロール様が念話をされた時は必ず大事な要件です。取って食いはしないので安心してください」


 あのアリシアが気圧され、渋々と間から離れると、フリジールはアレクの腕を掴んで馬車から降り。

 エルフたちが乗る馬車へとアレクを放り込み、フリジールも乗り込んだ。

 それに気づいたカムイは慌ててアレクを取り戻そうとするが、エルフが乗る馬車はあっという間に森の中へと消え、残されたカムイたちは唖然とするしかなかった。


「だ、大丈夫かのう……」

「知らない。あのフリジールって奴を信じるしかないわ」


 森の彼方に消えた馬車の残滓を見るようにカムイは立ち尽くし、トトとアリシアは上の空になり、ハーフェッドは、


「い、いつまで召喚陣を張れば良いんですか!?」


 いつまで経っても役割の果たせない召喚陣を展開するのをやめ、その場でへたりこむのであった。


 ――一方、アレクはと言うと。

 エルフの御者が操る馬車はとても乱暴で乱雑だが、荷台に載っている収穫物を一切揺らさない事に感心しているふりをして、なんとかやり過ごしていた。


「フリジール、リロール様がこの子を連れて来いとおっしゃったのか?」

「はい、星の器? とかおっしゃってました」

「ホシノウツワねぇ……? 聞いた事ないな」


 スタッドは頭の中を探るように目を上げるが、記憶の中に星の器に関する情報が無かったのか、思い出すのを止め、収穫物について話し始める。


「そんな事よりも、今回の収穫物は大漁だったな! カムイって奴はきっと有名な冒険者なんだろうな」

「矢を相殺する奴もいたな。弓が上手い冒険者を見たのは初めてだ」

「短命種は怖いなー! 我々よりも短い期間で技を習得するし」

「そうそう! それに――」


 馬車内は長命種であるエルフと短命種の人間とのあるあるで話が盛り上がり、なんとかやり過ごせそうだとアレクは安堵する。

 しかし、安堵したのも束の間、アレクは下腹部からの緊急信号に身震いして焦る。


(ま、まさか尿意がここで来るなんて……!)


 馬車は当分走りっぱなしだろうし、降りたいなどと言える雰囲気でもないとアレクは怖気付いて、迫り来る尿意に耐える。


「あれ、なんか顔色悪くないですか?」

「……だ、大丈夫……」


 押し殺すように絞り出した声で話そうとするが、後ろのエルフたちの話し声にかき消され、聞き取れなかったフリジールが耳を近づける。


「だ、大丈夫……」

「……ふむ、大丈夫じゃなさそうですね」


 フリジールは立ち上がり、前の方に行くと荒ぶる御者に馬車を停めて欲しいと直訴した。


「あぁん!? 停める理由は!」

「お花摘みに行きたいんです」

「ほ、そうかい」


 馬車が急ブレーキをかけたように止まり、荷台にいたエルフたちは何事かと慌てる。

 フリジールが後ろの位置にいるアレクを連れて、荷台から降りると、エルフたちはドッと笑う。


「お花摘みに行くのな! 気をつけなー? この森には男だったらなんでも食べるこわーい魔物がいるからなー?」

「もし見つけたら声を上げな! アタシらが助けてや……やるからなっ……くふふ」


 笑いが収まらない馬車から離れ、フリジールはアレクをある程度の距離まで連れて行くと、目星をつけた大木に祈りを捧げた後、アレクに用を足すようにと(うなが)す。

 促した後、アレクに対してフリジールは背を向ける。

 アレクはすかさず用を足そうとするが、着慣れない異性の服に悪戦苦闘した。

 スカートを捲り上げても、その下にはドロワーズがある。

 両手でスカートを持ち上げているため、下着を下ろす事が出来ず、アレクは一度冷静になろうとする、がしかし。


「……ん? もしかして手間取ってますか?」


 手慣れていないと思われたのか、フリジールがこちらにやってきた。


「自然に還すだけですから、普通にすればいいんですよ」


 フリジールはスカートを捲り上げ、ドロワーズに手を掛けようとする。

 アレクは慌てて声にならない声を上げるが、会話をしようとすれば声でバレるため、なすがままに委ねるしかなかった。

 そしてフリジールの慣れた手つきでドロワーズが下ろされ、隠されていた物が露わになる。


「……へっ?」


 フリジールはエルフには絶対無い物を見て固まり、アレクもフリジールと同様に固まってしまう。

 しばらくの間、アレクの思考が停止していると、フリジールが下着を上げたり下げたりして、付いている物が現実であると認識する。


「なるほど、外界の女性にもこんな物が付いているんですね」


 事前に聞いていたエルフならばこの時点で食い付くこと間違い無しであっただろうが、なぜかフリジールはわかっていない様子である。


「終わったら言ってくださいね」


 と言って、フリジールは再びアレクに背を向ける。

 アレクは九死に一生を得て、すぐさま用を足し、もう二度と尿意が来ないように中にある物を出し切るのであった。


 用を足し、エルフたちが乗る馬車にアレクとフリジールが帰ってくると、エルフたちが獲物を見つけた鷹のような目をしていて、帰ってきた二人に視線が移る。


「フリジール、お前男を見かけなかったか?」

「いいえ、見てないです」


 アレクとフリジールは荷台に上がり、スタッドが御者に出発するようにと命令した。

 エルフたちの視線がフリジールの隣に座るアレクに向けられ、アレクは緊張はするが、表情に出ないように取り(つくろ)う。


「さっき、風に紛れて男の尿の匂いがしてな。全員で方向を探ったんだが……」


 スタッドがアレクを見ながら、軽く唇を濡らす。


「今この馬車の中に男がいる。女のつける香水の匂いにさっき嗅いだ男の尿の匂いが混じっている」

「隊長が言うんなら信じますけどぉ……、けど今この馬車には女しかいないじゃあないですかぁ」

「ふぅむ……勘が外れたか?」


 スタッドの犬のような嗅覚にアレクは(おのの)く。

 その動揺が顔に出ていたのか、エルフたちの視線が刺さる。


「リロール様が連れて来いとおっしゃったから連れてきたんだよねぇ?」

「はい、リロール様は念話でそうおっしゃっていました」

「普通の女の子連れて来いってなんかモヤっとするぅ」

「リロール様が連れて来いとおっしゃったのなら、連れて行くしかありません」


 爆走する馬車が停まり、御者は、


「ほい、着いたよ、リロール様の面前だ」


 荷台に乗る先遣隊の面々は急いで降り、状況を飲み込めていないアレクをフリジールが抱えて降りる。

 御者は軽く一礼をしてから馬車を集落の端に向かわせる。

 馬車が視界から消えると、その先には舞台のような場所に座るエルフが見えた。

 他のエルフに比べて腕の数が多く、決まった型を構えているのか、像のような美しさがあった。


「リロール様、ただいま戻りました」


 スタッドを筆頭にエルフたちは膝を曲げ、(こうべ)を下げると、フリジールはアレクにも同じように頭を下げさせる。


『星の器は連れてきたか』


 リロールの声は口から発せられたものではなく、頭の中に直接響くような魔力のこもった声であった。


「はい、リロール様。よろしいでしょうか」

『良い、近こう寄れ』


 フリジールがアレクに立つように促し、アレクと共にリロールの前に立つ。

 リロールはかなり大きく、丸太から削り取られた木像のような威圧感がある。


『星の器よ、(なんじ)はこの世界に(あだ)なす者を討ち取る覚悟はあるか』

「僕自身は既にその答えを出しています」

『良い。汝、我リロール・ロールの祝福を授けよう』


 リロールの多腕が動き出し、アレクに向かって突き出される。

 そしてリロールの両手が花の蕾のような形を作り、その隙間から花びらが舞い飛びアレクの身体を突き抜けて行く。


『星の器よ、汝に危機訪れた時、この祝福は発動する。ただし、一度切りしか発動しない諸刃の剣と思え』

「ありがとうございます、リロール様」

『それと』


 リロールの多腕が再び型を構え、フリジールに視線を移す。


『フリジール、汝、エルフの里を抜け、外界に旅立つ時だ。紫電のカムイは汝を受け入れるだろう』

「良いのですか? かつてのフィソフィニアと同じ、純エルフの私が外界に行っても」

『汝はここに収まるべきではないと、我が判断した。帰ってくる時は孫の顔ぐらい見せてほしい』

「は、早いですよリロール様。まずそもそも、殿方に会えてもいないのに」


 フリジールは頭から煙が出そうな程、頬を赤く染める。


『星の器、汝の名は』

「アレク・ホードウィッヒです」

『そうか。()()()が言っていた隠し玉とは、汝の事だったのだな』

「星の民……?」


 アレクが聞き返すと、リロールから空間が歪み、アレクを包み込むように伸びると、アレクとリロールだけが存在する空間になった。


『ここではカミサマの干渉を受けない。汝には星の民について教えておかなくてはならない』

「母親だと名乗った女性……ですか?」

『そうだ、彼女は元々人間であったが、星の民になるために次元を超え、人間ではなくなってしまった』

「星の民は、一体どう言った存在なんです?」

『この世界でいう()、自然の摂理を調停する存在だ』


 リロールは星々の瞬きを指差す。


『空より先にある星のように、そこにいるが干渉は出来ない。星のような存在である神が干渉しようとすると世界は停止してしまう』

「カミサマがこちらに来れない理由ですね」

『ほんの少し前の事だ、世界が止まったのは。我は星の民ではないが、自然の移り行きが変化した事に気づき、奴らが干渉して来た事を知った』

「シニガミと名乗る存在が来たんです。僕は彼女と喋りました、彼女はカミサマを元の場所に返すと言う目的があるそうですが」


 リロールは驚いたように目を見開き、


『そうか、汝は元々星の民であったな。どんな力が働いたかは分からないが、カミサマによって命を絶たれた汝がこの世界で生を謳歌できるのは、元々人間であった母親が要因だろう』

「星の民は、今も存在するんですか?」

『存在している。遥か昔にカミサマの魔の手から逃れた者たちがそれだ』

「なるほど……」


 アレクはあの時出会った母親を名乗る女性の事を思い出していた。

 白い服に不自然な程に深々と被ったフードで顔を見せずまま、別れを告げたあの人を。


「あの、一つ聞きたい事があるんですけど、良いでしょうか」

『答えられる範囲内であれば答えよう』

「僕の師匠であるカムイは過去に、下界に降りて来た、って言っていたんですけれど」

『ふむ……カムイか。紫電のカムイその人は恐らく、星の民の次元から排他された存在だろう。しかし、今の彼女に星の民であったかと聞いても、のらりくらりとはぐらかすであろう』

「そうなんですね」


 カムイは元々星の民であった事が判明したが、アレクは驚く事はなかった。

 あの時、アリシアが言っていたシンリュウ人は、こちらの世界の人間が名付けた、星の民の事を指す名前ではないかとアレクは推測する。


『さて、そろそろ戻ろう。意識だけで話している我々は、意識を戻さないと不自然になる』

「それってどう言う――」


 ――意識が吐き出されるようにして現実に戻ると、フリジールが目の前に立って、アレクの肩を揺らしている事を理解したのは些細な数秒間の内であった。


「アレクさんがボーっとしてたので、何度か引っ叩きました。肩を揺らしたのは三度目です」

「だ、だから痛いのか……」


 頬を触ると、熱を帯びている。

 リロールが全員に呼びかけるようにして声を発すると、待ってましたと言わんばかりにエルフの御者が馬車を停まらせる。


『汝らの旅に幸多からん事を祈る!』


 その場にいたエルフたちも同調するように声を上げるが、やる気に満ち溢れたような言葉ではなく、


「いー男見つけて帰って来いよー! アタシらにも種分けてって頼むからよー!」

「最近のトレンドは童顔絶倫男だかんなー!」

「あとー――」

 

 聞いていて恥ずかしくなるような性欲塗れの言葉で盛り上がり、アレクは心の底から男だとバレなかった事に感謝しながら馬車に乗り込んだ。


「はいよーお客さん、どこまで行きやす」

「アレクさんのお仲間がいる場所までお願いします」

「はいよー、ちょー特急で行くんでちゃんと掴まっててくださいねー」


 馬車は御者によって発車し、カムイたちの待つ簡易拠点へと向かうのであった。

ひとまとめに書くのもありでしたが、4000〜5000文字ぐらいなら簡易的に書け、投稿するのが楽しいですね

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