第33話『エルフが住む森の中へ』
早いですが、ゲームのイベントの事もあるので、次回も不定期更新になります
カムイたちを乗せた馬車はシシンシャから遠く離れ、既にエルフと自称する部族のテリトリーに入ろうとしていた。
献上品として用意された物はどれも最新の魔法で冷却保存されており、見た目は壺にしか見えないが、中には肉や魚、野菜や香辛料に合わせて果物が別々に詰められている。
そして魔法が適度に冷却をするため、長距離の輸送に向いているのだとか。
「この森に入る前にアレク、お主にはある事をしてほしい」
「なんですか急に」
改まった表情でカムイに迫られ、アレクは困惑する。
アリシアやトト、ハーフェッドも首を傾げ、なにをするのだろうと二人の様子を伺っていた。
「男性は奴らにとって最高の供物。分かるじゃろう、アレク。お主にはしばらくの間、女の子になってもらう」
「……はい?」
突拍子もない提案に、アレクの思考が停止していると、アリシアが声を上げる。
「性転換魔法はれっきとした医療行為よ。けど医者以外が使うのは御法度だし、エルフに魔法に通ずる輩がいたらすぐに見破られるわ」
「アリシア、今からやる方法は決して口外するでないぞ」
「なによ、まさか私たちに違法行為を素知らぬ顔で見逃せって言うの?」
「古典的なやり方で奴らを騙す。エルフたちが見たことも聞いたこともないやり方じゃ」
アレクの着ている服を丁寧に脱がし始めるカムイに、思考が停止したままのアレクは抵抗する余地もなく、黙ってなすがままにカムイに身を委ねる。
カムイはアリシアとトト、ハーフェッドにアレクを見ないようにと視線を逸らさせ、呆れた三人はたあいもない話しで時間を潰し、カムイの古典的な行為が終わるのを待つのであった。
そうして待つこと三十分ぐらいだろうか、カムイが声を上げ、アリシアたちがアレクのいた場所を視界に入れると、そこには美少女がいた。
「えっ……はぁ!? ど、どど、どう言う事よ! アレクどこにやっちゃったの!?」
「くくく……やはりそう言う反応になるじゃろうと思ったわい」
「トト! 匂いは!」
トトは獣人自慢の鼻を使い、美少女の匂いを嗅ぐ。
「んにゃ!? 雌の匂いがするにゃ!?」
「い、一体どう言う事か説明しなさいよ!」
騒ぐアリシアとトトに、魔族であるハーフェッドが場を諫めるように二人と美少女の間に割って入る。
「カムイさんは古典的なやり方、と言っていたでしょう? 性転換魔法がない時代に生まれた技術、その名を『女装』! 逆に女性が男性っぽくする『男装』もありますよ」
「はぇ……?」
アリシアとトトは頭の処理が追いつかず、混乱しそうになる。
手入れの行き届いた金色の髪が風でなびくほど伸びており、赤い瞳は潤んだように見え、きめ細やかな白磁の肌は芸術的で、着ている服は上質な絹で出来たフリルの付いたものである。
「ふむ、なるほど。女装の王道ファッションですね」
「女装に王道も外道も無いがの」
「ですがエルフを騙せますかね、古典的なやり方に精通している可能性もありますし、それに……」
ハーフェッドが女装をしたアレクのスカートの裾を掴んで持ち上げると、アレクは声にならない声を上げる。
そうすると、女装を見慣れていない二人はハーフェッドの手を叩き、烈火の如く怒りを露わにした。
「美少女になにしてるの!」
「そうにゃ! この外道で飲んだくれ女遊び大好きギャンブル好き野郎の隠し子かもしれないにゃ!」
ハーフェッドはすごい剣幕をした二人に押され、カムイに助けを求める。
するとカムイがアレクの肩を叩き、アレクが声を上げた。
「ぼ……わ、私の為に争わないで」
「ア、アレク……?」
ハーフェッドの胸ぐらを掴んでいたアリシアが冷静になると、手を離し。
トトは耳に入った声がアレクであると判断したのか、怒りが冷めるようにして冷静さを取り戻す。
「女装の恐ろしさ、とくと味わったかの」
「びっくりしたぁ……、本当にアレクよね?」
アリシアはペタペタとアレクの顔を触り、瞳を覗き込む。
そうするとカッと顔を赤くするアレクに、アリシアはホッと胸を撫で下ろすかのように離れ、座った。
「でも匂いは雌の匂いにゃよね? 何をやったのにゃ?」
「これじゃよ」
カムイがトトに見せつけたのは香水であった。
しかし、
「なんにゃ? これ?」
「香水じゃよ。女性特有の甘ったるい匂いを再現した物でのう」
「獣人には必要のにゃい代物にゃねー」
トトは香水に興味を持つ事なく座る。
そして二人は遠い目をして空を眺める。
「かなり効いたみたいですね、カムイさん」
「エルフに効いて欲しかったのじゃがなぁ」
放心した二人をよそに、カムイとハーフェッドはアレクの両隣りを挟むようにして座る。
アレクは恥ずかしさのあまり縮こまり、俯くしかなかったのであった。
「ふうむ、奴らが来ると踏んでアレクに女装をさせたが杞憂に終わりそうかのう」
「エルフが架空の存在で、襲ってくるのが山賊みたいな奴らだったら笑うわ」
「山賊よりも恐ろしい奴らじゃからな、エルフは」
傷心気味であったアリシアとトトは、幾分か顔色を良くして普段通りの会話をするようになった。
しかし、問題のエルフが現れず、カムイたちは警戒を強める。
「焦らしてきてるなら策士ね、エルフって奴は」
「ハーフェッドはドラゴンをいつでも呼び出せるように構えておくにゃ。エルフを脅すには一番最適にゃから」
ハーフェッドは言わずもがな、召喚陣をすぐに出せるように詠唱を絶えず繰り返す事で、召喚を引き延ばしていた。
この一帯の木々は太く高く伸びて生え、空を隠すように茂る葉が地面を緑色に染め、枝がまばらに生えている。
すると、キラッと光る何かが枝の上から放たれ、御者に向かって迫ってくるのに気づいたトトがすかさず矢を放ち、光っていた物とぶつかり地面に落ちた。
「矢にゃ! カムイ! 奴らの使う武器はなんにゃ!」
「弓矢が主流じゃ!」
「そうかにゃ!」
矢を番るが速かったのはトトの方で、枝の上で弓を構えようとしている物体に矢を放ち、弓を破壊する。
「無血開城にゃ、後でイチャモンつけられるかもしれないからにゃ」
カムイが御者に馬を止めるようにと指示をしてから馬車の荷台から降り、大きな声で呼びかける。
「森の賢者エルフたちよ! 我らはヒガシに行きたい! どうか通してくれまいか!」
カムイの一声の後、矢が飛んでくる気配はなく、双方の睨み合いが続く。
「馬車には肉や魚、野菜に香辛料、果物、至れり尽くせりだ! リーダーと話したい! 姿を見せてほしい!」
「……」
カムイはその場の空気が変わった事に気づき、気配がした方に視線をやる。
そこには冒険者のように軽装で身を固め、弓に矢を番たまま近づく者がいた。
「貴様がリーダーか」
「そうだ、私が先遣隊のリーダーだ。名はスタッド」
スタッドと名乗ったエルフは、金髪で瞳は翡翠色をしていて、肌は白磁のように艶やかであった。
「貴殿の名は?」
「ワシはカムイ、カムイ・シンバットじゃ」
「カムイか、どこかで聞いたような名だな」
スタッドが馬車に目をやると、既にエルフの二、三名が荷台に積み込まれている食料品を確認していた。
「貴様ら、私が合図もしていないのになぜ出てきた」
「だってぇその人が、肉に魚、野菜に香辛料、果物があるって言ったからぁ」
「罠かもしれんのによくもまあ」
スタッドは頭を掻き、エルフたちに喝を入れる。
隊員であるエルフたちもスタッドと同じような色味だが、身長や肉付き、骨格などに差異があり、人間や魔族、獣人などの血が混ざっているのだと、見ただけで分かる、
「男はいませんねぇ。食材の入った壺は、最新の魔法で長期保存が効く代物みたいですし、ヒガシに行くためにわざわざ用意してたみたいですぅ」
「なるほど、男はいないがこれはかなりデカい収穫だ。しばらくの間は狩りに出なくても良さそうだ」
「男はいませんがぁ、腹の足しになるものばかりで、私はうれしぃですぅ」
アレクはアリシアが以前話していた事を思い出す。
男であっても女性が数人集まればどうにも出来る、と言っていた事を。
自分が男だとバレれば確実に、エルフの種の保存行為に組み込まれてしまうのだと、冷や汗をかき、息を殺して平静を装う。
「馬車ごと来てもらおうか。ここからだと我々先遣隊の拠点からは遠くてな」
「荷物を運び終わればすぐにヒガシに向かうが、良いかの、スタッド」
「一向に構わない。男以外の物でここまで献上品を捧げたのは貴殿らが初めてだ」
カムイがあっさりとエルフが無数にいる拠点までアレクを連れて行く事を承諾したため、アリシアの表情が強張り、カムイを睨みつける。
アリシアに睨みつけられているのに気づくカムイだったが、『落ち着け』、とジェスチャーを送った。
「馬車の荷台に隊員を乗せても良いか? 一人まだ慣れてない者がいてな」
「どいつじゃ?」
「あそこにいる食料よりも馬車に興味を示しているエルフだ」
カムイがスタッドの指差した方を見ると、そこには馬車の車輪の形を事細かに見つめるエルフがいた。
姿形はスタッドに似ていたが、カムイはそのエルフから香木のような香りを嗅ぎ取る。
「純エルフか、珍しい」
「よく分かったな。昔、フィソフィニアと名付けられた純エルフもいたが、我々の存在に愛想をつかして外界に旅立ったからな」
スタッドが遠い目をして語ると、カムイは純エルフに近づき話しかける。
「おい貴様、名は?」
「貴様……私の事を指してますか?」
「そうじゃよ」
「私……私の名前はフリジール・オリーブです」
屈んでいたフリジールが立ち上がると、カムイと比べ、かなりの体格差があり、アレクやアリシアに負けず劣らずの背丈であった。
「フリジール、スタッドが馬車の荷台に乗って良いと言っておったが、どうする」
「乗って良いんですか!?」
フリジールのキラキラと輝く目に圧倒されるカムイであったが、返答に対して頷くと、フリジールは荷台に乗りこみ、アリシアとトトが声にならない声を上げた。
「ワシは先遣隊と共に馬車の守りを固める。スタッド、道案内を頼む」
「分かった、ついてこい」
スタッドの道案内で、カムイたちは馬車と共にエルフの拠点へと向かうのであった。
次回も不定期更新になります




