第32話『東の島国へ』
ゲームのイベントでしばらく書けそうにないので、細々と分割するように投稿します
と言っても、書き溜めはしていないので投稿は不定期更新になります
リエイラに呼び出されたのは、うっすら日の光が垣間見えた早朝の事である。
王都直属リヴィング騎士団が一個師団を引き連れてやって来た事は、シシンシャ全体に知れ渡っていた。
そして度重なる突発的な事案の対応に追われていた冒険者ギルドは、元凶が誰かと躍起になって探していた。
二度の事案に、二度も活躍した紫電のカムイ一行に疑いの目が向けられ、カムイは審問を受ける事になる。
「で、ワシが槍玉に上がったわけじゃな」
審問で挙がったのは、フェールフィールドから現れた超巨大ゴーレム討伐と、先日のニューフロンティアに現れた突然変異魔物の討伐、その二件である。
審問官たちはカムイに威圧的な態度をとるが、カムイは気にする事なく応答していた。
「どちらも自分の名声や実力の誇示の為に行われたマッチポンプ。ダイヤモンド級冒険者などと言う肩書きを維持するためのな」
「ほう、貴様らはワシを冒険者ギルドから追い出したいのかのう」
「それだけではない、超巨大ゴーレム討伐時に使われた魔法だ。第五階位までしか存在しないのにも関わらず、どの魔法にも該当しない魔法を使用したと聞いているが、それはどう説明するつもりか」
「冒険者ギルドから追い出したいなら審問などせず、ワシのギルドカードを失効すれば良いじゃろう」
カムイは飄々とした態度を見せ、審問官をさらに苛立たせる。
「それが出来ないから呼び出したのだ! なぜ失効させられない! 突発的な事案を頻発させ、冒険者ギルドを潰すつもりか!」
「ワシがちゃんと答えた所で、貴様らは聞く耳を持たんじゃろうに。それに――」
部屋の扉近くにいたリエイラに視線を移し、リエイラは視線が集まったことに気づくと、兜を外し顔を露見させる。
「リヴィング騎士団団長から直々の依頼でのう。ギルド組合には通しておらんだけで、ワシらはちゃんとした依頼をこなしているのじゃよ」
「依頼案件などは冒険者ギルドに通さねばならない。これはこの世の冒険者と依頼主にとって当たり前のルールだ!」
「そーじゃな。しかし貴様ら、『星なる者たち』の存在は知っておるかの」
「トンチキな新興宗教団体だろう? 知っている」
審問官たちが「知っていて当たり前だ」と言いながら笑い、カムイはため息をつく。
「では貴様ら、その新興宗教団体からいくら甘い汁を啜ったか公表してやろうか?」
「な、何の事だ?」
「姿は見えんが動揺した時点でワシには分かる。では貴様らにもう一度問う、ワシを冒険者ギルドから追い出したければ、ギルドカードを失効させれば良い」
「くっ……!」
審問はあっという間に終わり、扉が開いてカムイの姿を見るとアレクたちは安心感を覚えた。
「師匠、やはり駄目でした?」
「冒険者ギルドも近いうちに組織を浄化させんといかんが、それはワシがする事ではない」
カムイは待たせていたアレクたちを連れて、リエイラと共に会議室へと向かう。
会議室の扉の前には、副団長であるピュートが待っており、リエイラの姿を捉えると、敬礼をしてから扉を開け中へと入る。
リエイラを筆頭に会議室へと入室すると、ソファーには見知らぬ男性が座っており、アレクたちは武器に手をかけて睨む。
「大丈夫じゃ弟子たちよ、あれはフィソフィニアの変装じゃよ」
「えっ、でも男の人にしか見えないんですが」
「変装じゃて」
フィソフィニアが変装していると聞き、アレクたちは武器から手を離し、各々ソファーに腰掛ける。
「ソフィさんがいるって事は、もしかしてまた遠出になるんですか?」
「それは知らん、じゃがこの姿に変装しているのならば……」
フィソフィニアの変装は、この街で見かける事のない服を着ていて、頭には木材を薄く引き延ばしたかのような物を編み込んだ被り物をしており、無精髭を生やしたただの男性にしか見えない。
「ソフィ、今度は東じゃな?」
「話す前に話さないで欲しいな、カムイさんよぅ」
口調や声まで変わっている事にアリシアが驚くが、すぐに押し黙る。
「リエイラ団長、東の島国にいる『星なる者たち』の動きが怪しいんですよね」
「そうだ。各地域にいる教団に侵入させた内通者は既に天使に始末されている。が、しかし、情報は私たちの耳に入っている」
机の上に広げられた地図の東の方向に指を当てるフィソフィニア。
そこには海に囲まれ、ポツポツと土地を表す色がゴマのように集まっている。
「東の島国『ヒガシ』。ここにゃあ『星なる者たち』が入る隙のない『自然教』一強の土地だったんだが、最近になって奴らの信者が増え始めている」
「『自然教』を押し退ける程の介入か、恐ろしい奴らじゃ」
『自然教』と聞いて、アレクたちは普段の食事風景を思い浮かべた。
『自然の恵みに感謝して……』、から始まる祈りは、あって当たり前ではない自然から作られた物に感謝を捧げる『自然教』の教えである。
「介入した相手が問題でな、『ヒノカミ一族』を知っているか?」
「『ヒノカミ一族』と言えば『ヒガシ』では知らぬ者がいない豪族じゃのう」
アレクたちは聞き慣れない一族の名前に違和感を覚え、カムイに説明を求める視線を送る。
「『ヒノカミ一族』は遥か昔から存在する、人間と魔族の血を受け継いだ混血種の集まりじゃな」
「人間と魔族が交わって子供が出来るんですか?」
「そうじゃのう……話すと長くなるから簡潔に説明するぞ。要するに原初に生まれた人間と魔族の間に子を成したのが今の『ヒノカミ一族』の始祖じゃな」
「子供が出来るんだ……」
説明に納得のいかないアレクであったが、アリシアとトト、ハーフェッドは上手く飲み込めたのか、小さく頷いていた。
「してリエイラ、今回はどの程度『星なる者たち』を殲滅すればよい」
「やはり『ヒノカミ一族』をたぶらかしている元凶を叩くのが一番手っ取り早いだろう。しかしだなカムイ、『ヒノカミ一族』の敷地に入るためには『ヒガシ』で名声を上げるしかない」
「面倒じゃのう、ワシの通り名を聞いても、敷地に入ることを許されない可能性が大いにありえる」
「そうだな、しかし」
リエイラがフィソフィニアに目配せすると、フィソフィニアは待っていましたと言わんばかりに懐から筒状に丸められた紙を出し、机の上に広げる。
広げられた紙には、黒いインクをぶちまけたような線で謎の生物が描かれていて、アレクたちは首を傾げた。
「『ヒガシ』の海域に周期的に現れる『海獣イッカク』。これを討伐出来りゃ『ヒノカミ一族』は敷地内に入る事を許すだろうな」
「周期的に出現する天災じゃな」
「けんど、冒険者ギルドに目をつけられてる中でそれを討伐した所でなぁ」
「それについては大丈夫じゃ。ワシらがやるべき事は、『ヒガシ』に向かい『海獣イッカク』を討伐、そして『ヒノカミ一族』に取り入る『星なる者たち』を排除する事。以上かの」
皆が納得して頷くと、カムイはリエイラに尋ねる。
「馬車の手配は済んでおるのか?」
「それについてなんだが……」
リエイラが地図に目をやり、フィソフィニアが指先を目印代わりにして二、三度指の腹で叩く。
「馬車は手配出来ている、その上、腕の立つ御者も手配済みだ。しかし、『ヒガシ』を繋ぐ道の中に厄介な部族が住み着いているそうなのだ」
「やはりか……避けては通れんのだろう?」
「奴らに捧げる供物があれば通れなくはない。だが奴らは味を占めて要求する物が多くなり、現状は『ヒガシ』とこちら側は鎖国をしているようなものになっている」
シシンシャから発ち、『ヒガシ』の道なりにフェールフィールドのような森林が広がる中に赤丸がされており、カムイとリエイラは眉間に皺をよせている。
「あの、部族って言いましたけど、どんな名前なんですか?」
「聞いても笑うだけさ、俺の生まれ故郷なんだけど」
「フィソフィニアさんの生まれ故郷……?」
「そ、生まれ故郷。アレクくんたちは『エルフ』って聞いた事あるかい」
途端にアリシアとトトが吹き出すように笑い、アレクは不思議そうな顔をする。
「いくらなんでも、架空の存在みたいに扱われている人種を出されても……。いや、けど部族として存在するのなら本当にいるんですか?」
「な? 俺の生まれ故郷にいる輩の話をしてもこうなるのさ」
フィソフィニアは少し間の抜けた言い方をしてソファーに体を預け、不貞腐れたような雰囲気になる。
「だって森の中で遭難した冒険者が口を揃えて名前を出す架空の存在だからだもん。その部族とやらが『エルフ』を名乗るんだったら信じるけれど」
「アタイは半信半疑にゃ。実際に存在しているのにゃら、もっと騒がれても良いような存在だからにゃ」
笑いの渦に巻き込まれるアリシアとトト。
そんな二人を見てアレクは『エルフ』についての知識を頭の中から探してみるものの、アリシアの言うよいに、絵空事のような話でしか聞いた事が無いと結論がでた。
「『エルフ』たちはのう、笑い話にしてやる方が良いぐらいに残忍で狡猾な輩じゃよ」
「えっ? 師匠どうしたんですか?」
フィソフィニアの前で突然生まれ故郷を貶す言い方をするカムイにアレクは驚く。
笑っていたアリシアとトトは場の空気が重くなったのを察したのか笑い声が無くなり、部屋の中に芯のある冷たい空気がやってきた。
「奴らは表向き単一な部族として存在しているが、実際は他種族との混血種。『エルフ』の姿の特徴は耳が尖っていて、容姿端麗であるが男の姿はない」
「えっと、じゃあ『エルフ』は他種族の男性と交わる事で増えている存在なんですね」
「そのくせ寿命も長いし、食べられる物はどんな物でも食べる。害虫擬きがたまたま女性のような姿をしているから、他種族の男性諸君はころっと騙されて奴らが増える手助けをしてしまう。……碌でも無い奴らじゃよ、『エルフ』とは」
「が、害虫擬きって……」
恐る恐るソファーに体を預けているフィソフィニアにアレクは視線を送るが、フィソフィニアは怒る様子もなく、どちらかと言えばカムイの意見を汲むように目を閉じている。
「奴らは一ヶ所に集まるのではなく、何グループかに分かれて拠点を構える。女王蜂的存在もいるのじゃが、そやつだけは自立して動く事が出来ず一ヶ所にとどまっているのじゃよ」
「女王蜂的存在がいるのなら、それを叩けば良いんじゃあ?」
「わかっとらんなぁアレク。ワシがそうせん理由を考えてみよ」
「そんな急に問題文みたいな振り方しないでください」
アレクはカムイの問いについて頭を働かせようとしたが、なんとなくアレクは一つの答えがすぐに思い浮かんでしまう。
「『エルフ』たちは特別綺麗なんですよね? だったら簡単です。女王蜂的存在を叩くと『エルフ』がこの世から消えてしまうから、ですよね? 師匠」
答えが的を射たのか、カムイはハッとした顔をするが、すぐに首を横に振った。
「えっ、違うんですか?」
「女王蜂的存在は『自然教』の始祖なのじゃよ。カミサマと違って、この世界由来の存在じゃがな」
「『自然教』の始祖……!?」
アレクは驚きを隠せなかったが、ハーフェッドはピンとこず、アリシアとトトは驚くどころか、白々しい目でカムイを見ている。
「本音は逆ね、『自然教』の始祖とやらを倒せないのは『エルフ』がこの世から消えるからでしょうに」
「胸がデカいのがいれば、ケツがデカいのもおる。容姿端麗を書き記したかのように、一際輝くような美女たちと戯れる事が出来なくなるとなれば始祖を倒せないのは明白じゃ」
「ダメね、本音がダダ漏れよコイツ」
――早朝から朝へと変わる日の高さになる頃には、馬車に積荷を乗せた物に乗り込み、カムイたちはシシンシャから出発するのであった。
次回も不定期更新になります
短い話を毎日投稿出来れば見る人もふえるんだろうか……




