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剣と魔法が交わる世界で  作者: 天望
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第19話『新たな依頼、新開拓地の名は「ニューフロンティア」』

 昼下がり、人が行き交う大通りに鎮座するように建てられた木造の建物。

 その存在感は強く、その風貌を写真に収める者もいれば、写生の題材にしている者もいた。

 しかし、その建造物に入っていく者たちは、風貌が厳つい者、近寄りがたい者、風変わりな格好をした者が出入りを繰り返し、等間隔にそれは続いていた。

 そんな中に入ると、木造建築の最たる美しさが目に入ってくる。

 が、下を見れば先ほど申し上げたとおりの者たちがいるため、かなり肝が座っていないと、その美しさに囚われる事はないだろう。

 そんなトンチンカンな彼らは一体何を求めてこの場所へやってくるのか、それは仕事だ。

 そんな中に魔法使いのような格好をした少女と、剣士のような格好をした少年がクエストボードを眺めていた。


「仕事が無い」


 淡々とクエストボードを眺めながらアリシアはそう言った。

 だが、その隣にいたアレクが指を指して、依頼書がある事を示す。


「あるじゃないか、何を言ってるんだい?」

「ある……? 訳わかんない事言ってんのはアンタの方よ、中身を見なさい中身を」


 中身と言われ、アレクは自分が指差した依頼書の内容を確認してみると、アレクは絶句した。


「『一日デートしてくれる方募集中……、日給五万リブラでどうでしょうか……』 冒険者に求める内容じゃ無いよこれは」

「魅力的な金銭だけど、隅の方にあるでしょう? あれはね、焦げつき依頼って言われてて、誰かがやらないといけない仕事でも、やりたく無い理由があるから放置されてる依頼書の事よ」

「なんだってデートに行きたくないのさ」

「ちゃんと見なさいよ、下」


 アレクの視線が依頼書の下に行くと、写真が添付されていて、その写真に映る者の顔を見て再び絶句した。


「あんなのと一緒にいないと駄目なのか……」

「でもまぁ、継続的に張り出されてるって事は、金銭面については心配する事はないみたいね」

「なんでさ」


 疑問に思ったアレクがアリシアに問うと、アリシアはこう答えた。


「依頼書を貼り出すにも最低限の金銭が発生するのよ。それも位置によっては一万リブラとかね」

「目立つ場所に貼り出すとなると、結構お金がかかるんだね」


 また一つ賢くなれたと、手を打つアレクであった。

 しかし、他にも依頼書はあると言うのに、なぜアリシアが仕事が無いと言うのかいささか不思議である。

 首を傾げ、他の依頼書の内容を見てみると、どれも普遍的で金銭感覚が矯正されるような額面しかなく、あの問題児が受けたがらないと踏んでの事だろうと、アレクは納得した。


「でもここに来たって事は、何か重要な事があるから来たんだよね?」

「そうよ、時間潰しにもってこいだからクエストボードを見ていたんだけど……」


 アリシアが、ちらり目配せするような視線を受付嬢に送ったかと思えば、受付嬢がそっと手招きをして、アリシアは受付嬢の前に立った。


「依頼主は来たのかしら」

「えぇただいま。お部屋へご案内しましょうか?」

「ええ、お願いするわ」


 受付嬢はにこりと微笑み、後ろに立っていた人に受付を代わってもらうと、受付から出てきて、先を行くようにして歩き出した。

 それについて行くアリシアとアレク。

 建物の奥の方へと案内されて、豪奢な造りの扉の前で受付嬢は立ち止まり、扉をノックする。


「お二方をご案内しました」

「よろしい、入れ」


 返事が返ってきた事を確認すると、受付嬢は扉を開けて、アリシアとアレクは誘い込まれるような形で部屋に入っていき、受付嬢は深く礼をして、扉を閉めたのであった。


「リヴィング騎士団の団長さんが、直々に呼び出すって中々無いことよね。騎士団ってそんなに暇なのかしら」

「出会い頭に皮肉か。生憎だが、我々も別にただ単に外遊をしにきているわけではないのだよ」

「騎士団の団長が一個師団引き連れて来たから、シシンシャは大騒ぎだったみたいだけど、いつまで滞在するつもりなのかしらね」

「無論、君たちが『星なる者たち』を殲滅するまでだ」


 髪を弄り回していたアリシアの手が止まり、隣でピンとした姿勢を保つアレクの脇腹を突っつく。


「このぐらい簡単ならいいんだけど、殲滅って厳密にはどの程度がクリア条件なの」

「簡単な事だ、奴らはまとまった場所にいる。目星を付けた場所に君たちを派遣し、そして殲滅だ」

「目星を付けた場所を教えてもらえるとありがたいのだけど」


 騎士団の団長であるリエイラが兵にに指示を出すと、兵は手に持っていた地図を机に広げて、リエイラが目星がついた場所を指し示した。


「フェールフィールズはこの前にド派手にやってくれたので、すでにバツ印を付けてある。他になると……」


 地図の真ん中にシシンシャの街があり、北のフェールフィールドの中心にバツ印が付いていて、騎士団の期待に応えられているとわかった。

 リエイラはすっと西の方を指して、トントンと名前のついた場所に指を当てる。


「ニューフロンティア……? 聞いた事ないんだけど」

「この地図はね、ある程度最新の物なのだが、ニューフロンティアは冒険者によって開拓された、新たな開拓地を指す地名さ」

「まだ名前が決まってない土地ってわけね」


 リエイラは頷き、アリシアはソファーに深く腰を埋め、アレクはニューフロンティアと書かれた土地を眺めていた。


「ニューフロンティアに、『星なる者たち』の息が掛かってしまっている、そう言いたいんですか」

「そうだな、新たな開拓地は誰が主権を握るかで争いが起こることが多々ある。そこに付け入る隙はいくらでもあるからな」

「そんな権力争いに、僕たちが介入しても良いんでしょうか」

「良いとも、クリーンな権力者に土地は納めてもらいたいからな」


 仕事だ、と言わんばかりの態度でリエイラは二人を見据え、アレクとアリシアは頷くしかなかった。


「それはそうと、奴はどうした」

「師匠の事ですか?」

「そうだ、きっとこの話をいち早く聞きたかったのは、紫電のカムイであると踏んでいたのだが」

「あー……それなら……」


 言い淀むように口籠もるアレクに、アリシアがリエイラに告げ口をするように、


「アイツなら、二日酔いで今にも死にそうになってたわよ、だから二人で来たの」

「二日酔いか、またやけに夜遊びをしたものだな。借金を抱えている事を忘れてもらっては困るのだがな」

「報酬の範疇で夜遊びしてるからいいんじゃない? 馬鹿みたいに金の掛かる所には行ってないみたいだし」

「まるで監視しているような言い方だな」


 アリシアが天井を見るような仕草をすると、手を何かを撫でるように動かす。

 それを見てリエイラは首を傾げる。


「虫でもいたのか?」

「いえ、そうじゃないの。エレメンタルに監視をさせてたから、それのお礼、みたいな感じかしら」

「ふむ、確か君はエレメンタル憑きだったな」

「そっ、王都じゃ珍しくもないんじゃないの、エレメンタル憑きは」


 リエイラは見えない物を見るように視線を移すが、どうあがいても見えない物は見えないと諦めるような素振りを見せて、笑みを浮かべる。


「私にはエレメンタルが視えなくてな、エレメンタル憑きだと言われても、普通の人間にしかみえないのだよ」

「そう、それは失敬」

「ただ、君が言う通り、王都ではさほど珍しくもない。名のある魔法使いや剣士は、みんな揃ってエレメンタル憑きだと聞いているよ」


 それを聞いてアリシアは一層自分に自信が持てたのか、アレクの方を見てふんぞり返った。

 しかし、当の本人は地図と睨めっこしながら、徒歩でどのくらい掛かるのか、などと独り言を展開していたのである。

 それを見てアリシアは段々と膨れっ面になり、ソファーから立ち上がると、ツカツカとブーツを鳴らしながら扉の前まで行くと、乱雑に扉を開け、


「アレクの馬鹿!」


 と言って、扉をバタンと強く閉めたのであった。

 その様子を見て、微笑ましい物を見るような顔をしたリエイラは、独り言を展開していたアレクに声を掛ける。


「アレク君、一人だけで考えるんじゃなく、周りと相談しながら決めたほうがいい、グループで動くんだからな」

「えっ、あっ、はい、そう……ですね。……ってアリシアがいない!?」

「アリシア君なら先程、君の事を罵倒してから出て行ったよ、追いかけたほうが良いんじゃないかな」


 アレクは、助言をしてくれたリエイラに感謝の言葉を伝えてから部屋を慌てて出て行き、部屋にはリエイラと兵士だけが残った。


「あれを見てどう思う、()()()()

「リエイラ団長、視えないと言う嘘をお吐きになられなくてもよかったのでは?」


 ピュートと呼ばれた兵士がそう言うと、リエイラはうすら笑みを浮かべる。


「副団長の貴様からみてあの子はどうだった。紫電のカムイの弟子は」

「……可もなく不可もなく、と言った感じでしょうか」

「そうか、可もなく不可もなく……か」


 リエイラは、部屋を去ったアレクがいたソファーに視線をやり、その場に行くと、スリスリとそのソファーを撫でた。


「とても有望な剣士だ、()()を扱えるようになれば更に……」

「出来るでしょうか、こんな田舎にいる剣士風情が」

「出来るとも、私がそうであったように、彼も出来るさ」


 いつもの事だと半ば諦めたようにため息を吐くピュートを横目に、リエイラはソファーを撫で続けるのであった。


 問題が解決して、ボロ家同然だった建物が、新築同然になった家がある住宅街に帰って来たアレクとアリシアは、その家の中に入ると、出迎えるようにしてトトが現れた。


「早かったにゃね、依頼主はどんな顔してたかにゃ?」

「可もなく不可もなくって感じね、大きな依頼だからまだまだって思われてそう」

「フェールフィールドを救ってくれたのに、評価されないなんてあんまりにゃ」


 耳をぴこぴこ動かして、寝起きですと言わんばかりの寝癖を付けたトトは、あくびをしながらリビングへと向かって行った。


「フェールフィールドを救った感覚はあんまりないけどね」

「そう? 私はそうは思わないけど」


 アレクとアリシアも共にリビングへと向かい、リビングに入ると、そこには二日酔いでグロッキーになったカムイが、青い顔をして待ち構えていた。


「あら、ベッドから抜け出せたのね」

「次はどこへ……うぷ……、行くのじゃ……?」

「西の方にある、ニューフロンティアって言う土地に行って欲しいみたい」

「ニューフロンティアか……うぷ」


 なぜかトトが新聞を広げてソファーに座っており、その中に挟まれていたであろう広告の数々が、カムイの座るソファーの前にある机に置かれていた。

 散らかるようにして置いてある広告たちを、アリシアがまとめ上げて捨てようとする。

 しかし、カムイの座る横にも広告があることに気づき、アリシアは手を伸ばして、カムイにそれを渡すように要求した。


「これは……ニューフロンティアに関する……情報が載っとる広告じゃよ……」

「あらそう、じゃあこれだけ捨ててくるわね」


 鼻歌混じりにゴミ捨て場に広告を捨てに行くアリシアを横目に、アレクはその広告を受け取り、内容を確認した。

 そこには、『第3次開拓者募集中!』、とデカデカと書いてあり、細かい物も見てみたが、特にこれと言って目につく情報はなかった。


「ワシらはこれに便乗してニューフロンティアへと向かう。募集期日はまだ大丈夫じゃろうて」

「募集人数が集まり次第打ち切りますって書いてますけど」

「……むっ?」

「だから早めに申請しないと行けませんよ、ニューフロンティアに」

「アレク、もう一度冒険者ギルドへ行ってはくれまいか」

「嫌です」


 拒否をされるとは露知らず、カムイはその場で青い顔をしながらしばらく固まり、フリーズしていると、新聞を読み終わったトトが机に新聞を乱雑に置き、二人の様子をまじまじと見ていた。

 そうしてしばらくの間、無言の時間が続き、居た堪れなくなったカムイがソファーから立ち上がり、広告をアレクから受け取ると、そのまま玄関へと向かい、家から出て行くのであった。


「最初から自分で行けば良いのに」

「お師匠さんは、面倒くさがりかにゃ?」

「そうでもないんだけど、やりたがらない事は進んでやりたがらないからね」

「そう言うのを面倒くさがりって言うにゃ」


 ニマニマと笑みを浮かべるトトの耳が動き、顔が動くと、リビングにアリシアが入って来た。

 アリシアはリビングからいなくなった人物がいるにも関わらず、気にする事なくソファーへと座る。


「あの馬鹿が行ったのね、最初から自分で行けば良いのに」

「アレクとおんなじ事言ってるにゃ。晩年夫婦か何かかにゃ?」

「どこが夫婦なのよ」


 まんざらそうでもない顔をするアリシアを見て、トトはニマニマと笑みを浮かべる。

 それが気に食わなかったのか、アリシアは小さな氷のつぶてをトトに向かって飛ばし、トトはソファーの後ろへと隠れてそれをやり過ごした。


「何やってるのさ、二人共」


 氷のつぶてはソファーに当たると音を立てて床に落ち、ソファーの周りが冬景色みたいになった。


「にゃはは、ソファー様々にゃ」

「タダで置いてもらったからって、そんな使い方したらダメじゃないか」

「アリシアに怒るにゃ、仕掛けて来たのはそっちなんにゃから」


 悪びれる様子もないトトに、アリシアは更に追撃をかけるのかと思いきや、何かを思い出したように声を上げて、ソファーから立ち上がった。


「アレクの剣! あの馬鹿に教えてもらった鍛治師がいる店に行かないと!」


 突っ立っていたアレクの手をとり、アリシアは一目散に玄関へ向かい、その様子を見ながらトトは、いってらっしゃいにゃ、と言った。

 アレクとアリシアはそのまま家から出て行き、残されたのはトト一人であった。


「昼寝でもするかにゃ」


 そう言って、あくびをすると、ソファーに寝っ転がり、うとうとと瞼を閉じ、幾分かもしない内に寝息が聞こえてくるのであった。

次回は6月16日18時に投稿します

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