第14話『アレクとアリシア』
話し合いの最中、まだ昼過ぎの頃合いにて、トレント狩りを終えたアレクたちは、昼食をトトとハハから提供されて、それを美味しく頂いていた。
提供された料理はやはりと言ってか、パンと肉、野菜が備わったサンドイッチであった。
「ここのは普通に売ってるサンドイッチとは別物ね。野菜は新鮮だし、肉は捌きたてって感じで美味しいわ」
「にゃはは、普通に売ってるのとは違って、狩りで獲れた物を使ったり、野菜は栽培してあるから、それを使ってるから美味しいのかもにゃ」
「自給自足って良いわね」
サンドイッチを、これでもかと口に入れているのはアレクで、見ているだけで笑みが溢れそうな食いっぷりであった。
「あんたはいつだって食い意地張るわよね。ゆっくり食べないと喉に詰まらせるわよ」
「ふぁってふぉいふぃんふぁふぉん」
「なんて?」
口にある物を慌てて咀嚼して、アレクは先程言った事をもう一度繰り返すように言った。
「だって美味しいんだもん」
「まあそうね、自然に囲まれて、鳥のさえずりや木々の擦れる音を聞いて食べるサンドイッチは、何にも変え難い程に美味しいわ」
さわさわと風に揺れる草木の音が聞こえ、森のどこかからか、鳥のさえずりが聞こえてきた。
そんな自然体験をしながら食べるサンドイッチは、普段食べているサンドイッチとは、また一味違うような気がする。
「それにしても、お二人がトレントを狩る様子はとても凄かったです」
「そうにゃ、息の合った連携技が見ていて気持ちが良かったにゃよ」
トトとハハは互いに目を輝かせ、先程までのトレント狩りの様子をベタ褒めしてくる。
アレクはかなりデレっとしていたが、アリシアはムッっとした顔になり、不機嫌そうにみえた。
それを見てトトはニマリと笑い、ハハを小突く。
「見るにゃ、外の人間は、褒められても真っ当に受け取る者と、そうでにゃい者もいるみたいにゃ」
「そうみたいだね、でもそう言う違いもまた良いよね」
「にゃに言ってるにゃ、アリシアは好きな人の前だから素直になれないだけにゃよ」
好きな人、と言う単語を聞き逃さなかったアリシアは、すぐに顔を赤らめてトトに詰め寄り、事実を否定をする。
「どこにそんな奴がいるのよ! こんな凡人臭い、へっぽこ冒険者みたいな奴を好き好むやつが!」
「まぁまぁ落ち着くにゃ、顔にめちゃくちゃ好きって出てるから、こっちまで恥ずかしくなっちゃうにゃ」
アリシアはさらにかぁっと赤くなり、溢れ出た羞恥心を、目の前にいるトトを揺さぶる事で、なんとか抑えようとしていた。
「アリシアは好きな人がいるんだね」
藪から棒にアレクがそう言うと、さらにトトを揺さぶり気持ちを抑えようとする。
「やめ……やめ……やめ……」
今にも吐いてしまいそうな顔をし始めるトトを助けようと、ハハが仲介に入り、アリシアを引き剥がした。
「けほっ、けほっ、今しがた走馬灯をみたにゃ」
「大丈夫? アリシア、謝りなよ」
トトの介抱に交わり、謝罪を求めてきたアレクを見て、アリシアはつんと鼻を高くする。
「アレクのそう言うとこが嫌い、謝らないから」
「にゃはは、気難しい人にゃねぇ」
謝罪を要求するアレクとアリシアの押し問答はしばらく続き、その様子を見ていたトトとハハは、仲がいいのだと思うのであった。
昼下がりも過ぎ、日が傾き始めた頃、辺りは木々の間から差す、オレンジ色の斜光が流れていた。
帰り支度を始める獣人たちに混じって、アレクたちも、集落へと帰ろうとしていた。
「この変な格好はいつまでしなくちゃならないわけ?」
「好きな時に着替えれば良いにゃよ。けど、その格好、人間には刺激的に見えるみたいにゃから、意中の人にアタックするのもありかもにゃー?」
「もうっトトさんったら!」
からかわれ慣れないアリシアはまた顔を赤らめて反論し、意中の相手であろう、アレクをチラリと見る。
しかし、当の本人はそれにすら気づかず、ハハと喋りながら前を歩いていた。
「ねぇ、あたしとアレクってどう見える」
「どうってそにゃぁ……仲睦まじい冒険者仲間?、って感じにゃよ」
「どこをどうみても?」
「うにゃ」
そう言われると、肩を落としてガックリとするアリシア。
アレクと、恋人のように見えると言って欲しかったのだろうか。
「にゃにもそんなに肩を落とす事ないにゃ、いつかあの優男もあんたの事、好きになってくれるにゃよ」
「そう……だといいんだけど」
「不安なのかにゃ?」
顔色を伺いながら話していると、前の二人は意気投合しはじめて、会話に花が咲いたのだろうか、声の弾みが違って聞こえる。
「まだ会って間もないけど、フランクに接してくれるから、こんな話もしたくなっちゃうわね」
「フランクに接して良かったにゃ、好きにゃよ、恋路の話は」
「ふぅん、獣人も人間とそこは変わらないんだ」
「で? 初めて意識し始めたのはいつぐらいにゃ?」
綺麗な物を思い出すように、乙女の顔をしながら思案するアリシアは、滔々と、その時の事を話し始めた。
「私とアレクは同じ街に産まれた幼馴染なの。そんな腐れ縁で、冒険者になろうってアイツから誘ってきて、まだあのイかれた馬鹿とも出会ってなかった頃。私とアレクに危機が迫ったの」
長くなるなと、相槌を打ちながらトトは話を進めるように徹し、語るアリシアを見守った。
「フォレストウルフの討伐に出向いていた私とアレクがはぐれちゃって。地図が無くても大丈夫、と鷹を括っていた私が迷子になって、森の中を彷徨っていたら、突然、フォレストウルフの大群に遭遇してしまったの。魔法が扱える私でも、そんな大群を相手にしたことはないし、冒険者として、駆け出しだった経験不足からくる焦燥感で、詠唱もままならなかったの。多勢に不勢、私は追い込まれ、今にも噛み殺されそうになった時、アイツが現れて、私に噛みつこうとしていたフォレストウルフを撃退したの。当時はまだへなちょこの、そこらへんにいる番犬にすら怯えていたあのアレクが助けてくれて、私は驚いたわ。立てるかい、って手を差し出してきてね」
うんうんと頷きながら、トトは話に耳を傾け、その光景を思い浮かべ、さらに話を聴き入る。
「魔法で手っ取り早く倒す方法はある、だから親玉だけを倒して戦意を喪失させれば良いんだ、って、そこらの犬の見分けもつかないアレクがそう言って、親玉のフォレストウルフを探し始めて、迫るフォレストウルフに魔法を当てながら、それをサポートしたの。そうしたら、すかさず微妙に体躯の大きいフォレストウルフを指差して、あいつを狙って、って言うから、私も焦らず丁寧にそのフォレストウルフを魔法で爆破したんだけど、まさにドンピシャで、親玉がやられたことによって戦意を喪失した子分たちは森の奥へと逃げていったのよ」
危機は去ったのだと、安心して頷くトトは、さらに深掘りをするようにして、それでそれで、と話を聞き出そうとする。
「ほとぼりが冷めて、迷子になってる私をどうやって見つけたのか聞いたんだけどね」
ポッと赤く頬を染めてアリシアはこう言った。
「派手な魔法の音が聞こえたから、きっと君だろうって無我夢中になって走って来たんだよ、って。……こんなので好きになっちゃうの、馬鹿みたいでしょ」
「はぇ〜こっちまで顔赤くなっちゃうにゃ」
前にいるアレクを見て、アリシアはふっと笑い、人差し指を口の前に添える。
「このことはアレクには内緒ね」
「内緒にしとくのも勿体無い気がするにゃけどー……、さっきみたいに惚けられても嫌にゃからね、内緒にしておくにゃ」
ふふふ、と二人は笑い、仲睦まじい様子を見せる。
すると、アレクが振り返り、二人の様子を見て、何事かと思っていたが、言いたいことがあるのか、先んじてそれを告げた。
「ねぇ、アリシア、君が良ければ、夜の見回りにいかない?」
それを聞いてアリシアは、やや機嫌の悪そうな顔をする。
「なによ、またお節介焼きのアンタが引き受けた厄介事を、私とアンタでやらなくちゃいけないのかしら」
「なんでそうだと思うのさ」
「さっきまで、ハハさんとワイワイ話してたのを見てたら分かるわよ」
「夜になると、獣人の子供が消えちゃうって話を聞いたから、僕自身としてはほっとけないって思ったんだ」
厄介事だと先んじて予想していたアリシアは、さらに嫌そうな顔をして、今にも断りそうな雰囲気であった。
「ハハ、他所から来た冒険者に、そんな事言っちゃったらこうにゃるに決まってるにゃ」
「だって、この事は話さないといけないと思って……」
「アタイもついていくから、夜の見回りは四人で行くにゃ」
四人と聞いて、今この場にいる四人に他ないと勘づいたアリシアは、顔を真っ赤にしてトトに迫った。
「私は反対よ! 夜は昼とは比べ物にならないぐらい危険なんだから!」
「四人で行けば大丈夫にゃよ、昼が二人、夜は四人、危険が倍になってもトントンにゃ」
「だからって、なんでこいつのお節介に付き合うのよ!」
「まぁまぁ、夜は距離が縮まりやすいからにゃ」
アリシアに向けて、ニヤリと笑みを浮かべたトト。
アリシアはと言うと、歯切りをして、一旦、冷静さを取り戻し、夜の見回りについていくと、返答したのであった。
次回は5月5日18時に投稿します




