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剣と魔法が交わる世界で  作者: 天望
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第12話『集落にて』

 ――フェールフィールド大森林

 数百年前に戦火に苛まれ、森林の約九十パーセントが焼失したが、聖樹であるフェール大木だけが残り、それを起点にして森林は再生した。

 フェール大木は城を飲み込むようにして生えていて、かの王が、どんな賊が来ても、侵入を許さない結界を貼っていたのが、戦火を逃れた要因か、とも言われているがそれは不確かな情報だ。

 森林はトレントで構成されていて、立派なトレント産地としても知られている。

 それらを動かすのは、城の奥深くに眠る魔物か何か、眉唾物だが……。

 この広大な森林は魔窟のように魔力に満ち溢れているのであった。

 そんな森の中で生活をする、獣人(ビースタス)の集落を目指して歩くカムイたち。

 その一行の前と後ろには、獣人が挟む形で歩いており、道案内をしつつ、警戒を怠っていない様子だ。


「こんな辺境の森に来るなんて珍しいにゃ、何か目的でもあるのかにゃ?」


 質問がてらに、緑髪をした獣人は、トト・シーハと名乗り。

 後ろにいる橙色の髪をした獣人は、ハハ・ジートと名乗った。


「魔窟と化したフェール大木に用があるのじゃよ。なんたってワシらは冒険者じゃからのう」

「あんたら冒険者なのかにゃ、胡散臭い連中とは違って冒険者はまだマシにゃ」

「おぬしらはどうなのじゃ」 

 

 トトとハハは、どちらも族長の孫だと言い、見回りに来ていたら侵入者が来たため、遊びがてら手を出したのだと言う。


「と言っても、優秀な族長の息子のハハと、怠け者のアタイは扱われ方が違うにゃ」

「確かにのう、見た目じゃほぼ人間のおぬしと、ケモケモしているハハとは扱われ方は違うじゃろうな」


 トトは見た目こそ人間には近いが、獣人である特徴はあるが、ハハは人間のような体型をした獣の見た目で、同じ獣人だとは思えない。


「ここまで違うのは稀なんですか?」

「たまたまにゃ、集落にはアタイみたいなのもいるし、ハハみたいなのもいる。ここだけで判別するのは早いにゃ」


 丘のようになっている場所を歩いていると、トトが立ち止まり、手を広げる。


「ここがアタイらの集落、『シーハ・ジート』にゃ」


 見下ろせる場所には、まるで城下町が建造されたかのような建物が並んでおり、半分木に侵食された物や、苔や植物の根が張った物もあるが、シシンシャの街と見比べても遜色(そんしょく)ない街並みであった。

 その先には、フェール大木がずっしりとした印象を与えながら(そび)え立っていて、半分出かかった城も、年代を感じさせるような色合いをしていた。


「ここから降りたら集落に入るにゃ。と言っても、ここは裏道みたいなものにゃから、歩きづらくても、文句は受け付けないにゃ」


 トトが先を進むようにして歩き始め、その後を歩く。

 蛇がのたくり回ったかのような坂を下り、坂の終わりに近づくと、獣人の子供たちが集まってきた。


「トトとハハが帰って来た! 変なの連れて帰って来た!」


 ワイヤワイヤと騒ぎ立てながら子供たちは群がり、カムイの服の裾を掴んで遊んだり、アリシアにちょっかいを出そうとして、反撃される者もいた。

 アレクはと言うと、剣を二つ差しているため、それを掴まれて振り乱されるので、対応に困っていた。


「にゃはは、客人が困ってるからやめるにゃ」

「えー、トトに言われてもやめなーい」

「知っているかにゃ、外から来た客人を怒らせると、族長に夜吊りの罰が与えられるのは」

「じゃあーやめるー」


 カムイの裾で遊んでいた獣人の子供たちが、一斉に集落に向かって蜘蛛の子を散らすように走り出し、トトは何やら微笑ましい物を見るかのように笑う。


「夜吊りの罰はあっても、客人を怒らせたらダメとは族長は言ってないにゃ」

「子供たちぐらいだよ、トトの話を信じるのは」

「痛いとこ突かれたにゃ……」

「人の前で嘘をつくからだよ」


 ぐっさりとハハの言葉の矢が刺さったトトは、しゅんとして黙り、反省の色を見せた。

 森の中とは思えない街並みの、石畳の道の上を歩いていると、道を遮るようにして立つ者達がいた。


「そこで立ち止まりたまえ」


 立ちはだかっていたのは、ハハのように獣に近い見た目の獣人と、トトに似た見た目の獣人で。

 その後ろには、大人の獣人たちが戦闘体勢をとっていた。

 

「外から来た客人よ、そこで立ち止まられい」

「なんじゃ? トトとハハの出迎えにしては物騒じゃのう」


 カムイは、彼らの目と鼻の先のところで立ち止まると、毅然とした態度で族長たちを睨む。


「魔法を使った形跡があった、我らはそれを使ったのが誰なのか知りたい」

「ワシとこの小娘が使った。しかし、害をなす魔法を使ったわけでは無い」

「なるほど、そうか」


 前に立つ、深い青色の毛に覆われた獣人は、納得がいったように頷くと、手を差し出した。


「俺はジート派族長、ハッハト・ジートだ。そしてこちらは」

 ハッハトは隣にいる獣人に目をやり、その獣人は勇みよく前に進み、手を差し出す。

「私はシーハ派族長、トットト・シーハです。紫電のカムイ様、お会い出来て光栄です」


 カムイは、ハッハトの手を握り返した後、トットトの手を握り返す。

 そうすると、後ろにいた大人の獣人たちは、戦闘体勢を解き、ピリピリとしていた空気が柔和(にゅうわ)した。


「有名人なのね、様付けされるぐらいに」

「そうみたいだね」

 

 小声で話すアリシアとアレクを見て、聞き耳を立てるトト。

 その目は、好奇の色に染まっており、美味しい獲物を見定めているようにも見える。


「ワシは長老に会いたいのじゃが、構わんかの?」

「ええ、是非ともお会いになってください、長老も喜ばれるでしょうし」

「アレク、アリシア、ワシは席を外す。おぬしらは、獣人と仲でも深めておくがよい」


 そう告げると、ハッハトとトットトと共に奥にある城へと向かう道を歩き始め、その姿を目で追おうとすると、視線を遮るようにしてトトが前に立つ。


「客人の連れはもてなさないとにゃ。ついてくるといいにゃ」


 ホイホイとトトについていくと、民家風な場所に案内され、絨毯が敷かれた場所に座らされた。

 民家風な場所――シーハ派族長トットトの自宅は、他の家に比べてかなり広く大きく、ジート派族長ハッハトの家と比べても大差ない大きさであった。

 エキゾチックな家具やタペストリーなどもあり、ここで獣人が生活をしているのだと分かる。


「食事にするにゃよ〜」


 運び込まれて来たのはエキゾチックな料理……、なのかと思いきや、案外普通の見た目の料理であった。


「そう驚く事はないにゃ、こっちもこっちで、外から来る人間用の料理を作ることを勉強してるにゃ。いきなり郷土料理はキツイと思ってるにゃ」

「てことは虫を使った料理とかなの?」


 アリシアがそう聞くと、トトは首を横に振る。

 

「いんや、肉料理と魚料理にゃけど、丸焼きばかりだから食べずらいのにゃよ」

「食べようと思えば食べられるけど、確かに丸焼きが来たらびっくりするわね」

「もてなしも食い違えば、関係に亀裂を生みかねないにゃ」

「獣人たちも苦労してるのね」


 アレクたちが食事を済ませると、トトとハハに別の部屋に案内され、そこには獣人が着ているような服が二つ置いてあり、着るように促された。


「お二人さんは仲良さそうだから、仕切りはいらないにゃさそうだにゃあ」

「必要だから持って来なさいな」

「ええ〜?、仲の良い男女は仕切り無しで着替えるものではないのかにゃ〜?」

「早く持って来なさい」


 ヘラヘラと笑いながら喋るトトに対して、アリシアは圧をかけるようにして言いつけ、その様子に呆れたハハが仕切りを持って来てくれたのであった。

 着替えを済ませ、仕切りのカーテンを開けようとすると、何やら隣が騒がしく、ちらりとカーテンの隙間から覗いてみると、そこには、


「私の服なんか布地の面積小さくない!?」

「同じぐらいにゃよ、メスの獣人はそんな感じの服が正装にゃ」


 トトと同じような服装のアリシアがいたのだが、普段隠れている部分が全開になっており、布地が少なく、際どいのがさらに拍車を掛けて、直視できない物となっていた。

 だからこそ、アリシアは抗議をしているのだろう。


「慣れれば気にならなくにゃるから、噛み付かないで欲しいにゃ」

「この耳と尻尾は必要なのかしら」

「必要にゃよ、害は無いし大丈夫にゃ」


 着替えている最中に、アレクも耳が付いたカチューシャを付けていたのだが、髪色に同化して、まるで獣人かのような耳としっぽが生えていた。


「まぁまぁ、別に大丈夫だから怒らなくても」

「ほらほら〜彼氏さんもそう言ってるんだから、落ち着くにゃ〜」


 仕切りのカーテンを開けて現れたアレクに対して、アリシアは再び仕切りのカーテンを、顔だけ出して、隠れ蓑にするようにして動かす。


「恥ずかしいから見ないで!」


 アレクは、アリシアに殴られないだけマシかと思い目を逸らし、再びトトの悪行に呆れたハハが、慌てて別の服を持って来てくれたのであった。


「ここはトレント伐採場です。僕たちのような若い衆が、大人たちに混じって伐採を行い、伐採したトレントを薪や木材に加工するんですよ」


 次いで案内されたのは、集落から程近い、トレント伐採場であった。

 昼間なので、伐採や加工作業に勤しむ獣人が多くいて、その中に子供が混じる、と言った感じだった。

 トトとハハが視界に入ったのか、何人かの獣人が手を振り声を上げるものもいた。


「トレントの中にオールドトレントはいないのかしら」

「いますね。その時は大人が数人がかりで伐採します」

「そう、なら良かった」


 アリシアはちらりとアレクの方を見て、勝ち誇るかのような息を吐く。

 それを見て、(なお)のこと、にんまりと笑みを浮かべていたのはトトだった。


「そう言えば、客人に聞くのも変ですが。こんな時期によくここに来ようとしましたね」

「えっ? 何かあるんですか?」

「知らないようなので教えますが、今、集落は気が張った状態なんです」

「気が張った状態? あっ、確かに魔法を使っただけで、手厚い歓迎を受けましたけど、それですか?」


 ハハはそれを聞くと横に首を振り、トトが割って入るようにして説明を続けた。


「獣人と人間の(いさか)いにゃよ。アタイみたいな人間と獣人のハーフが増えてきたから、集落に人間が住みたい、と言って来たのにゃ」

「獣人側は、人間の主張が受け入れられなくて、ピリピリしているってことですね」

「そうにゃ、魔法を使うのは人間ぐらいにゃから、魔法を使っただけで物騒な歓迎して悪かったにゃ」

「……って、トトさんは人間と獣人のハーフなんですか!?」

「にゃは〜、もしかして劣性種だと思われてかにゃ?」


 父や母はどんな方か、と、そんな話をしていると、ハハの顔が曇ったような気がしたが、盛り上がってきたアレクとアリシアはそれには気が付かなかった。


「そんなことよりも、トレントの伐採を体験してみてはどうです? 食事も済んだ事ですし、動かないと損ですよ」


 ハハは、ぱっと笑みを浮かべ、森の奥の方へと手招きして二人を誘う。

 それについていくようにして、アレクとアリシアは森の奥へと踏み込み、トトもその後をついていくのであった。

次回は4月28日18時に投稿します

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