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剣と魔法が交わる世界で  作者: 天望
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第10話『藪から棒に当たるカムイ』

 冒険者ギルドから出て、まだそう時間の経っていない時分、アリシアはカムイに噛み付くように話しかけていた。


「なんで騎士団長からの依頼を断ったのよ」


 カムイが答える様子はなく、そのまま、つかつかと歩みを進め、街から出る為のルートを辿っているような感じであった。


「師匠、別に選り好みをしたわけじゃないんでしょう? 依頼内容に、星なる者たちを殲滅する事、があったから断ったんですよね」

「そうじゃよ」


 ぶっきらぼうに答え、三人の間には険悪な空気が流れ始め、誰も何も話せない状況になってしまった。

 しかし、それを破る光明が差したのは、言うまでもなくフレイムが要因であった。


「なぁカムイ、俺はこれから冒険者として自由気ままに生きていくが、お前は一体何が目的で旅をするんだ?」

「このご時世じゃ、冒険者は食うに困らんよ。ただワシは、やるべき事を成すまでじゃよ」

「答えになってねぇな。俺が思う目的なら、星なる者たちを殲滅して、カミサマって奴を弱体化させて、その上でカミサマを倒すってんのなら、納得するんだがな」


 カムイはピタリと立ち止まり、三人が(いぶか)しげな顔をしていると、こちらに振り向き、再び来た道を帰ろうとする。


「えっ、目的地は北の関所じゃないんですか?」

「北の関所には変わりないのじゃがな」


 向こうには、何やら人探しをしているような警備隊たちが見えて、こちらには気づいていないようだ。

 しかし、北の関所へ行く道にはなぜか検問所が設立されていて、まるで犯罪者を事前にそこを通る事を知っていて、待ち構えているかのように見える。

 カムイを追いかけるようにしてついていくが、北の関所へ続く道は、どこもかしこも検問所が配置されていて、それを避けるようにしてカムイが動くために、目的地である北の関所まで辿り着くことすら出来ない。


「あの、師匠、さっきからなんか変ですよ。検問所を通れば、簡単に北の関所へ行けるのに、どうして検問所を避けるようにして歩くんですか」

「……」


 検問所を避けて通る道理は、アレクたちには無い。

 しかし、カムイだけが顔色を悪くして、意図的に検問所を避けているようだった。


「どこもかしこも、なぜ検問所があるのだ」

「知りませんよ、そんなこと」

「魔窟を破壊した罪人でも探しておるのか」

「冒険者ギルドでそんな噂聞いたことありませんよ。魔窟は一度壊れても自己再生するらしいですし、気にする必要はないです」


 それを聞いた途端、ほっと胸を撫で下ろした様子のカムイ。

 恐らく、魔窟が崩壊しても再生する事を知らなかったのだろう。

 パッと明るい表情になり、避けていたはずの場所に意気揚々と向かい始める。


「何が原因かまだ分からないわよ、こいつは信用ならないから」

「まるで師匠に、隠された事実があるかのような物言いだね」


 カムイに聞こえないように小声で話し、険しい顔をしたアリシアは、検問所を通る前に再三、確認をするように再び話しかける。


「ほんとに何も無いなら、検問所を避ける理由がないはずよね。検問所に行ってから、はいありました、じゃ、フェールフィールドに行けなくなるんだから」

「何も無い、何も無いから検問所を通るのじゃよ。なんの問題もない」


 こう言った時のこいつは信用ならない、と言った顔をするアリシアは、答えないのなら、と、検問所までに隠された事実を確認する事を諦めた。


「はい、止まってください」


 そうこうしているうちに、検問所までやってきた一行。

 警備隊の隊員に止められ、身分を確認出来るものは無いかと言われたので、冒険者カードを差し出す。

 フレイムは持っていないと答えたので、若干警備隊を包む空気がピリつき、アリシアが睨む。


「冒険者カードは申請中なんだ、それに俺はこの先にはいかねぇしな」


 難を逃れるようにしてフレイムは答え、早い別れだが達者でな、とアレクたちに言って、冒険者ギルドへと続く道に消えていった。

 そうすると、朗らかな雰囲気になり、全く問題なく検問所を通り抜けられる、と安堵した矢先。

 隊員の検査キットが異常を示すブザーを鳴らし、一段と空気が悪くなる。

 それも、カムイの冒険者カードを読み込んだ瞬間だった。


「やっぱりあるじゃない!」

「ま、まま、ままま、待て待て待て! ワシは何にもしとらん! 何もしておらんぞ!」


 警備隊にもアリシアにも詰め寄られ、カムイは青い顔をして、事実無根だと主張する。

 だが、隊員から告げられたのは、カムイの悪どい金遣いの報告であった。


「夜のお店で冒険者カードを使って、多額の支払いをされているようですが、その後、リブラ金貨でのお支払いはされましたか?」

「よ……る……」


 カムイは段々と数々の所業を思い出したのか、青ざめた顔がさらに悪い色になり、今にも吐き出しそうな顔色になった。


「ねぇ、払ったのならそんな顔色になるはずが無いわよね。……いくらぐらい使ったのか聞いても?」


 隊員に周りに聞こえない程度に耳打ちされ、アリシアの顔が、怒り心頭に達するまでを、コマ撮りしたかのような変化をして、カムイに詰め寄った。


「リブラ金貨千枚ってどう言う事よ……!。それも、銀行から引き出された分よりも遥かに超えてるから、それの残りだって聞いたんだけど!」

「そ、そそ、そんなはずはない! そんなはずはない……はずじゃ!」

「はずじゃないなら、なんで借金として残ってるのよ!」


 アリシアはカムイの胸ぐらを掴んで、これでもかと言わんばかりに振り、ぐわんぐわんと揺れ動くカムイの頭は、今にも首から落ちてしまいそうだ。


「銀行には、()()()が保管されているはずじゃ。それがなぜ使われておらん?」

「さぁ? 銀行に問い合わせてみないと分かりませんね」

「古い友人の伝手で、調べてみるか」


 耳に電話をかけるようなハンドサインをして当てると、どこかに繋がったのか、パッと明るい表情をして喋り出した。


「もしもしワシじゃ、……カムイじゃよ」


 アリシアが同じような仕草を見せて、アレクにも同じ仕草をするように促し、紐を手繰り寄せるような仕草をしたかと思えば、耳に当てた指の部分から、声が流れ始めた。


『……何の用? どうせ夜のお店で大はしゃぎして、払えていないお金がどうなったか調べて欲しいんでしょう?』

「な、なんで分かるのじゃ」

『分かるも何も、私が夜のお店で支払いをした時に、逐一(ちくいち)通告してたじゃない、シーンレーン金貨の価値が危ういからリブラ金貨に替えておきなさいって』

「……そんな話、しとったか?」

『酒が入ったアンタに話した私が馬鹿だったわ。そもそも、あんな古い金貨を持ってる人は珍しいから、私以外にも念話かけた人は、何人かいたでしょうね』

「知らん……」


 はぁ、と深いため息が挟まれ、一息ついたかと思えば、念話口から話されたのは、一つの現実だった。


『シーンレーン金貨は最近になって、古銭扱いにされて、その価値は暴落したわ。リブラ金貨に対等してたのは昨日までよ』

「なん……じゃと……」

『どうせ借金が出来て、街から出られないってなったから念話掛けてきたんでしょう?』

「今現在進行形でそうなっとる……」


 念話口の相手の声のトーンが一つ落ち、悪態を吐く。


『シーンレーン金貨を保有してたのなら、リブラ金貨に変えておけばよかっただけよ。長生き仲間のアンタには、世話になることだらけだったから、せっかく忠告していたのに……』

「そうか、わかった。仕方あるまい、使えなくなってしまったのなら、稼ぐしかない」

『リブラ金貨千枚は流石に、短期間で返せるものではないはずだけど、アンタなら返せるって信じてるわ。じゃ頑張ってね』


 念話はカムイ側から切り、ぼぅっと空を仰ぐカムイ。

 それはこれから訪れる、借金返済に奔走する覚悟を決めているかのように見えた。


「借金を返済されるまでは、この街から出る事は出来ません。ただし、依頼で街から出るとなれば、例外として、街を出ることが出来ます。保証人付きであればの話ですが」


 淡々と隊員は説明をして、それを真面目に聞くカムイ。

 念話を盗聴していたアレクは、こうも真面目に聞いているのであれば、借金を真面目に返すのだろうと考えていたが、アリシアは違っていた。

 明らかに敵意のある目をしてカムイを睨み、絶対に不審な行動はさせないと、覚悟を決めているように見えた。


「おっと、どうやらお困りのようだな」

「むっ? 貴様は」


 声のした方を向くと、そこには先程、全身鎧で身を包んで現れたリエイラが、兜を脱いだ状態で微笑み、立っていた。


「なんじゃ、その、助け舟を今にも出そうとしているような含み笑いは」

「いやいや、依頼を受けてもらえそうだと思ってね」


 勇みよく前に進み、カムイと並ぶと、リエイラの方が小さく見えてしまうが、アレクやアリシアと比べれば背は高い。


「依頼料はリブラ金貨千枚で手を打とうではないか。こんな話は滅多にない。受けてもらはねば、こちらとしても困るな」

「足元を見おって、ワシが断れば誰に頼むつもりじゃ」

「我々騎士団の中から優秀な者をあてがうつもりだ」

「そやつらにリブラ金貨千枚は高すぎるのう」


 ちらちらと、こちらに目配せしてくるカムイに、痺れを切らしたのはアリシアで。

 物理的に頭が高い相手に勇みよく詰め寄り、こう答えた。


「リーダーに代わって私が言うんだけど、依頼の保証人になってもらえるかしら」

「保証人か! はっはっは、街から出るために、保証人を付けないといけないほどの借金なのだな」

「しめて、リブラ金貨千枚よ」

「良いだろう、保証人になろうではないか」


 リエイラは話が済んだのか、隊員から渡された書類を確認して、署名欄に自分の名前を書き込み、返す。

 と、そこに、見覚えのある人物が現れる。


「検問所が騒がしいと聞いて来たのだけど、やはり貴女だったのね」


 警備隊隊長であるリリーが現れ、書類を受け取ると、話の流れを察したのか、呆れてため息を吐く。


「貴女、埃は叩けば出るって言うけれど、どれだけ叩けば埃が出なくなるのかしら」

「百万回ぐらいかの」


 ふざけた冗談を漏らすカムイの(すね)を、杖で小突いたのはアリシアで。

 今日もまた一段と強く小突いたのか、カムイはその場でうずくまり、痛みを堪えていた。


「大きな依頼の中の一つだが、言ってもよいだろうか」


 真剣な眼差しでこちらを見るリエイラに、カムイは痛みを堪えながらだが、真っ当に向き合い、話を聞こうとする。


「フェールフィールド全体で、星なる者たちが密かに活動をしていると聞いてな、それらの活動の中止及び殲滅を依頼したい」

「フェールフィールドか……いてて。ワシたちも向かおうとしていた場所だ、良いだろう、依頼の中の一つだとしても、奴らを根絶やしに出来るなら、喜んで引き受けよう」

「ふっ、今度は素直に聞いてくれるのだな」


 先程の事は水に流そう、と言ってリエイラはカムイに手を差し伸べ、カムイはその手を掴んで立ち上がった。


「この依頼の目的は、先遣隊となった貴殿らが、星なる者たちの、前もって準備されていた儀式や活動を阻止する事だ。くれぐれも、それらが行われないようにな」

「分かっておる。()()は今までやってきたことじゃよ」


 騎士団長や、警備隊に見送られる形で、北の関所へと歩き始め、カムイたちはシシンシャの街からフェールフィールドへと出発する。

 借金のためか、はたまたカミ殺しのためか、一重二重と重なった旅が今、始まる。

次回は4月14日の18時に投稿します

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