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8.

「シェリル、もう上がんな」

「ですが、まだ下処理が途中です」


 料理長の強い口調に、私は何かしてしまったのかと今朝からの過程を遡るも、準備した調理器具や食材の切り方など、自分としては、むしろ普段より段取り良く動けていたほうだと思う。


「騎士団様が戻ったみたいよ!昨日聞いたのよ。あ、シェリルは昨日休みだったから知らないのか」


 アンさんが、野菜をザルに上げながら教えてくれた。


「まだ間に合うだろうから早く行きなさい」

「南門よ!間違えちゃ駄目よ!」


 料理長が早く行けと手シッシと動かし、アンさんは、そそっかしい私に何処の門から入ってくるのか教えてくれてた。


「いいねぇ、若いのは」

「ほら、汗拭きな」

「あ、ありがとうございます!いってきます!」


 ベテラン調理師さんのおば様の一人からハンカチを投げられたので、なんとか掴み、慌てて厨房を抜けた。


「ハァハァ、あ、あそこだわ。間に合った」


 城内で勤務しているであろ方々の人だかりが既にできていた。ご家族や恋人を心配しているのだろう。此処まで来る際に顔見知りになった騎士様が、遠征先で町を繋ぐ道が豪雨により土砂災害で埋まり、復旧活動もしていたから予定より大幅に日数がかかったと教えてくれた。


「あ、ラング…」


 久しぶりに見たラングレイ様に思わず足を更に前へと進め名を口に出しかけて、止まった。


 騎乗している彼は、微笑んでいた。その視線の先には、私ではなく隣にいる青の騎士団の騎士服を身に着けた女性だった。


「今回は赤と青での合同訓練だと言っていたわ」


 我が国の騎士団は三つ。討伐や有事の際にまず一番に出ていくのが赤の騎士団。青の騎士団は、王都を護る事が主になるけれど、規模が大きい災害や討伐、戦の際には赤の騎士団と共に動く。そして、銀の騎士団は精鋭だが人数は騎士団の中では一番人数が少なく、王族の方や来賓の方々を警護している。


赤と青騎士団の仲は悪くないとお兄様が以前言っていたけれど。


「〇〇だな」

「レア!〇〇!」


 その女性騎士に肩を叩かれたラングレイ様は、叩いた彼女であろう名を呼び何やら話をしている。


 普通に仲間同士で話をしているだけ、じゃれ合っているだけ。


 でも、なんだか苦しくて悲しくなってきて。私は、上げかけた手を降ろして賑やかな世界から背を向けた。





✻〜✻〜✻




「お嬢様、またお手紙が届いております。差し出がましいですが」

「ええ、失礼よね。今から書くわ」


 結局、あれから一度もラングレイ様とお会いしていない。以前からカレンに会う為に訓練の時間は把握していたので、勤務日を大幅に変更、また勤務時間を増やした結果、訓練場にいるカレンに差し入れも出来ていないが、ラングレイ様とも会わないで済んでいた。


 ハンナから受け取った手紙は、彼とは別にもう一通。


「悩んでいたけど、良い機会なのかもしれない」


私は、ペンをとり書き始めた。







「いよいよ明後日か」


 最近、睡眠がままならない。いえ、とろうとしているのに眠れない。


「たくさん働けば疲れて眠れるはずだと思っていたのだけど不思議ね」


 お父様は、視察で昨日から不在。お兄様も忙しいのか家にはここ数日帰宅していないようで。


「夜の庭って少し怖いような落ち着くような気持ちになるのよね。でも、花の香りが昼間より強く感じて良いわね」


 亡き母が珍しくねだり東方から取り寄せたという木は、薄く小さな花を咲かせている。


「あの世界では蝋梅ろうばいと言ったかしら」


 甘く、けれど清涼感を感じさせる香りだわ。お母様が特に気に入っていたのも頷ける。


「あ、急に何故?」


パラパラ


「モルトンが作ってくれたのに」


 足首を見れば、小さな宝石達が散らばって風により転がっていく。早く拾わないと。


「お嬢様!」


 緑の光る石を集めていると、なにやらハンナが慌てた様子で小走りでこちらに向かってきた。


 走ってはいけませんと、幼少のころから私に言っていたのに。


「丁度よいわ。ハンナ、悪いけれど灯りを持ってきてもらえないかしら?モルトンが作ってくれたんだけど、鎖が切れてしまっ」


 顔を上げて、息を切らしてやってきたハンナの背後には。


「シェリー嬢、夜分にすみません」


 言葉とは裏腹に全然申し訳なさそうな様子の男性、ラングレイ様が、立っていた。






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