4.ラングレイSide
〜赤の騎士団長の呟き〜
「随分と機嫌が良いな」
「やっと彼女と言葉を交わす事ができたので」
早朝からやたら険しい顔をしていると思えば、それか。
団長のノルディックは納得しつつも注意をしておく。
「お前の顔が険し過ぎて新人が更にビビっていたぞ。ただでさえ近寄りがたいんだ。なんとかしろ」
ハッキリ言って迷惑である。
「で、上手く行ったのか?」
基本、部下思いの団長は少し立ち入った問いかけをした。
「春の花のような方でした」
いや、そのような返答ではよくわからん。
「相手からすれば初対面みたいなものだろう? いきなり婚約だなんて無理だったんじゃないのか?」
釣り書を送ったと聞いた時、俺は今年一番驚いた。まともに話をしたこともない令嬢に、しかも明らかな格差があるのだ。
グラント家に対して断るのは難しいだろう。
訓練場で見かける、みるからに人が良さそうな令嬢に同情した。いや、こいつは、表情筋は死んでいるが悪いやつではないし、むしろ仲間を大切にする出来る男だが。
「またお会いして下さるそうです」
俺は、さらに眉間に皺をよせながらも声は弾んでいる氷の騎士に再び恐る恐る聞いた。
「ちなみに、なんと伝えたんだ?」
本当にこの必要最低限しか発しない奴と意思疎通が出来たのだろうか。
「彼女に会いに来ている貴方に惹かれたと。そうだ。私も、あの手作りの品を食べてみたい。そういえば、○日に装飾品を貰っていたようですが、私も頂けないか聞いてみようかと思います」
「そ、そう…か」
コイツ、危ない奴じゃないよなと疑いたくなったのは俺だけではないはずだ。
〜氷の騎士の呟き〜
「カレン!」
弾むような声は、最近よく目にする令嬢だ。
「カレン、これ飲んでみて」
「ありがとう!まぁ、すっごく美味しいわ!シェリーは、ほんと作るのが上手いわよね!」
カレン・ノルマンからシェリーと呼ばれている彼女は、ライズナー家の令嬢だと調べて知った。
彼女は、とても変わっていた。
公開練習は、騎士に憧れる子供、婚約者や気になる者を見に来る令嬢しかいないなか、どうやら友に会いに来ているようだった。
また彼女は、いつも心配そうな不安そうな瞳で友だけを見ていた。
あの一心に見つめる瞳に、彼女の視界に入りたいと思い始めたのはいつからだろうか。
徐々に見るだけでは足りなくなった私は、悩んだ末に婚約を申し込んだ。
家格が上の者からの話には特に断れないだろうと、罪悪感もあったが、あんなに素敵な令嬢ならば、直ぐにでも他の誰かに獲られてしまう。
ならば、強引な手を使うしかない。
「一度、あの視界に入れたら満足できるかと思っていたんだが」
彼女の上目遣いや困惑する様子、花を眺め微かに笑った顔。
「更に欲が出てきてしまうな」
婚約まではとりつけられなかったが、会う約束は出来た。
「次に会う時、もっと声を聞きたい」
睨みつけた顔で切ない気持ちをボソボソと呟くラングレイは、ただの気持ち悪い男にしか見えなかった。