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13.最終話

「とりあえずどうぞ。あ、狭いですよね?あちらの椅子を」

「いや、ここで問題ない」


 二人掛けだけど体が大きい彼には狭いだろうと、実際ピッタリとくっつく状態になっているので前の席を勧めれば、何故か断られてしまった。


「……」


 とりあえずテーブルの積み上がった本を移動させて、お茶を淹れましたが。 


 どうしましょう。久しぶりすぎて何を話てよいのか分からない!


 腕が触れ合っている感覚に、チラリと見上げると端正な横顔が目に入った。本物よね?隙なしの完璧なラングレイ様が、こんな私の汚部屋にいるなんて!


 何かに誘われるように、もはや無意識に私の腕は上がっていき。


ツンツン


「!ケホッ」

「あ、すみません!」


 不味いわ!勝手に指でツンツンしてしまった!しかもお茶を飲んでいる最中に!


「拭くものをっ」


 どこだったかしら!物が散乱していて分からない。


「あっ」

「シェリー、大丈夫だから」


 立ち上がりかけた私の腕を引き、再び隣に座らされてしまった。やっぱり無言が辛いと何か話さなければと思い口を開きかけたら、ラングレイ様に問われた。


「急に来て迷惑でしたか?」


迷惑?私が?


「いえ!驚きはしましたが」


 今も隣にいるのが信じられない。でも、決して嫌ではない。


「お会いできて嬉しいです」


不思議な、ふわふわした気持ち。


「ハァ…良かった。今回、殿下が近々此方の学園に留学する際に事前に挨拶をしに行くと耳にし強引に警護に入れてもらったんだが、少し不安があった」


 そうですよね。本来は銀の騎士団が付き添う筈だもの。あ、殿下が師匠と仰っていたし親しいのかしら。


「え、どうされましたか?!汚れますよ!」


 いきなり立ち上がったと思えば、掃除がちゃんとされていない床に片膝をついたラングレイ様の目は逸らせないほど真剣で、意味がわからず再び不安になってしまう。


「実は、送る事もできたが、直接渡したくて」


 そう言うと彼は小さな箱を取り出して私の目の前で蓋を開けた。


「これは、耳飾りでしょうか?」

「そうだ。婚約すると我が国では本来指輪を身につけるが、エリエでは婚約者同士が身につけると聞いている」


ラングレイ様が私に?


「食事を作る時に指には邪魔になると思い、耳ならば可能かと思ったんだが。ちなみに一度付ければ相手の魔力を流し込まないと外れない」


 付けたら外れない。すなわち異物混入にはならないのはとても有り難いわ。


「……気に入らないか?それとも、やはり婚約に対して厭うことがあるのだろうか」

「いえ!そうではなくて」


そうじゃないの。


「あの、話をしていない事があるのです。聞いて頂けますか?」


嘘をついているわけでもない。言わなくても関係ないはず。


 けれど伝えたかった。私は前世を覚えていると。


 それだけではない。偉そうな事を言っていたくせに、実際は侍女がいない一人きりの生活は、仕事にあけくれ掃除もままならない私なんだと。ツラツラとまとまらない言葉を吐き出せば。


「また、新しい貴方を知る事ができて、殿下を脅して来た甲斐があったな」

「え、周り見えてます?」


 嬉しそうに微笑むラングレイ様につい、ツッコミを入れてしまったが止まらない。


「前世とかいきなり語りだして怪しいじゃないですか?しかも調理を職にしているのに、この部屋ですよ?自己管理出来なくて人の食事に口を出す権利あります?」


 何故、貴方は満足そうな顔をするの?!


「君は、嘘はつかない。だから前世を覚えているのは偽りのない事実だろう。文献にも数は少ないが過去にも何人かいたはずだ」


……知らなかった。私の他にもいるなんて。


「予想はしていたが、痩せたな」


伸びてきた手は、私の頬を輪郭をなぞる様に動いていく。


「この部屋に置かれているのは、治療食だけではなく薬学、病理学まであるようだ。これは最近発表された薬か」


 私の汚部屋をぐるりと見た彼の視線は、私に戻った。


「頑張ってる君を尊敬している」


ポロリと涙が零れてしまった。


「シェリー、さっき外で会った時、貴方は私に雪がかからないよう、寒さが和らぐよう風魔法を使っただろう?」


 バレていた。というかラングレイ様ならもっと上手く出来ているはずよね。私は、風を操る力があると知ってから隙間時間に学んでいる。ただ、まだ初心者もいいところで道のりは長い。


「何故、私なんかと、以前言っていたが、見返りを求めない優しさは俺にはない。シェリーのような芯の強さも残念ながら持ち合わせていない。だから惹かれた」


 親指で拭ってくれているのに、早く止めなくてはいけないのにポロポロ出てきてしまう。


「今日、もっと好きになった。俺から離れる事はない。受け取ってもらえますか?」


 ぐしゃぐしゃの顔で、ぼやけた目で前に出された箱を手に取り抱きしめたら。


「私も、好きです」


 ラングレイ様に抱きしめられた。頭までポンポンしてくれて、まるで子供のような扱いね。


でも、凄く嬉しいわ。


「で、話したい事はこれで全部かな?」


あ、そうだわ。


「カレンは、手紙では元気そうでしたが、大丈夫でしょうか?」


 彼女の事だから、ちょっとの怪我とかは書いてないだろうし。上司に聞けば分かるわよね。


「……いつまでも部下に勝てる気がしないな」


 肩越しにため息をついたラングレイ様の呟きが理解できない。


「部下とはカレンですか?」


 勝てないとは勝負か何かでしょうか?


「とりあえず、口付けを交わしても?」

「え、ん」


 返事をする前に口を塞がれ、何も考えられなくなり早々に疑問が消えていったシェリーであった。





        ✻✻〜✻End✻〜✻✻



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