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一緒にいこう

 すると子どもは、ぱっと振り向いた。

 呪いによって塗りつぶされて、顔は見えないが、その視線を感じて、エヴァンジェリンは説明した。


「人間は、よみがえらない――。これは、2000年後の世界でもう解明されたこと。でもね、死んだ人間がどこへ行くのか、それは誰も知らないの。だって、見てきたって人がいないから」


「ドユコト……?」


「だからね、ご主人様は死んでしまったけれど、それはきっと、死んだあとにいける別の世界にいるってことなのよ。私たちも死んだら、そこに行けるかもしれない……と思わない?」


「ソコニ、ゴ主人様、いる?」


「おそらくね。ご主人様がこちらによみがえるんじゃなくて、私たちが、ご主人様のいる方に行ってあげるのよ」


「デモ……デモ、私、魂、ナイ……ソノ場所、人間ジャナイト、イケナイ……」


 たしかに、自分たち人造人間に、魂はないとされている。

 けれど、それなら、この胸の中にある気持ちは何なんだろう。


(私が、皆に生きててほしいって思う気持ち。この子が、ご主人に会いたいって思う気持ち)


 魂ではない、けれど、限りなく魂に近いものなんじゃないだろうか。

 エヴァンジェリンは力説した。


「魂はないけれど……きっと私たち、魂に近いものを持ってるはず。だってあなたなんて、2000年以上生きてるんだから。もう神様みたいなものでしょう。大丈夫。きっと、どうにかなるわ」


 しかし、彼女は首を振った。


「デモ、ホムンクルス、シネナイ……コレガ、アルト」


 胸元を指さした彼女に、エヴァンジェリンは請け負ってみせた。


「だから、私がパラモデアを砕いてあげるわ」


「エ……」


 さすがに、子どもはためらった。エヴァンジェリンは穏やかに言った。


「心配しないで、あなたを一人では行かせない。私も一緒にそっちへ行くわ。それで、あっちで一緒に、ご主人様を探すのを手伝ってあげる」


 頭からの血は、流れ続けている。そうでなくとも、パラモデアを砕くほどの魔力を使えば、エヴァンジェリンはグレアムからもらった力を使い果たしてもう動けなくなり――心臓の止まった肉体は腐り、死を迎えるだろう。


「だから、どうかな……」


 エヴァンジェリンがほほ笑むと、子どもはやっとうなずいた。


「ワカッタ……アタナニ、任セル。アナタト一緒ニ行ク。オネエ、チャン?」


 呪いに塗りつぶされたその向こうに、無邪気な微笑みを、エヴァンジェリンは見た気がした。



◆◆◆



「皆集まれ! 一列に固まって、遺跡まで行くぞ! 何がおこるかわからない。気を抜かずに歩け……!」


 アレックスが皆を先導しながら、たいまつをかかげ、夜の森を歩む。

 危険の可能性を察知したアレックスは、すぐに教師と腕の立つ6年生たちを集めて、遺跡へと出発した。

 ものものしい雰囲気を漂わせながら、一向は遺跡の入り口に到達した。

 そして――


「あれは……グレアム⁉」


 ぐったりと、遺跡の扉にもたれている彼を発見した。

 ココは慌ててグレアムに駆け寄った。


「グレアム! 一体どうしたの」


 ココが彼を揺り起こす。グレアムは蒼白な瞼をちら、と開けたかと思うと、色を失って叫んだ。


「ココ……それに皆……! なぜここに。いけない。早く戻れ! ここは危険だ」


 扉に手をつきながら、ずるずるとグレアムは立ち上がって命令した。


「皆、すぐに立ち退け! 城に戻るんだ。早く……!」


 尋常ならぬその様子に、ココはどう反応すればいいかとまどった。

 しかしアレックスは、まっすぐグレアムの目を見つめていった。


「グレアム。イヴはどこだ」


 するとグレアムは、とたんにうつむいた。


「………」


 普段はスマートに皮肉を返すその口が、堅く引き結ばれている。

 それを見て、アレックスも動揺した。


「おい、何とか……なんか言えよ! イヴが……イヴが人造人間って、嘘だよな⁉」


 するとはじかれたようにグレアムは顔を上げた。


「なぜ。誰がそんなこと……」


「本当なのか」


「君には関係のないことだ」


 平行線の二人の間に、ココが割って入る。


「それなら、グレアム。あなたがここにいるのはどうしてなの。なぜ扉から手を離さないの。もしかして……遺跡が、開いているの?」


「ダメだ。ここは誰も通せない。危険なんだ――」


 冷や汗を流しながら説明するグレアムを、ココは無理やり押し通そうとする。


「じゃあ一緒に戻って、話を聞かせてよ! 大変だったんだから! いきなりディック・イーストが乱入して、パーティはめちゃくちゃになるし、イヴは遺書みたいな手紙をよこすし……!」


「なんだって⁉ ……ディック・イーストが……忘れの術が溶けたか……。そうか、それでか」


 グレアムの力が緩んだその瞬間を狙って、アレックスは彼を扉から引き離した。


「待て、やめろ……っ」


 グレアムが押さえていた扉が、音もなく開き始める。


「あ……」


 ココも、アレックスも、他の生徒たちも、教師も――その遺跡の開いた扉に、目が釘付けになる。


「やっぱり、開いてる……!」


「今日が五月祭前夜だからか。イヴは……お前はイヴに何をさせようとしてるんだ!」


 ガッ、と必死のアレックスがグレアムに掴みかかる。しかし冷静さを取り戻したグレアムは再び無言で扉を閉め、自分が重しとなり押さえた。


「開いてはいけない」


 アレックスが激高する。


「なんだよさっきから馬鹿の一つ覚えみたいに! 俺の質問に答えろ! イヴは……イヴはこの先にいるのか⁉ だったら俺が連れ戻す! 危険だろうが!」


「やめておけ。お前も死ぬぞ」


「イヴなら死なないっていうの?」


 ココが腕組をして詰問する。


「おい、説明しろ。ディック・イーストは言ってたぞ。トールギス家が外法を使って覇権を取ろうとしてるって。お前、イヴを遺跡に入らせて、そんなことの道具に使うつもりなのか」


「……ちがう」


 ココが険しい顔でため息をつく。


「説明できないならどいて。私たち二人で行く。イヴを助けに。みんな、グレアムをどかすの手伝って!」


 ココが声をかけると、ついてきた生徒がじりじりと扉に近づいてくる。


「まて、待ってくれココ。終わったら説明すると言ったじゃないか」


「待てないわ。だって手遅れになりそうなんだもの。私たちを通したくないなら、せめて説明をして! イヴの安全を証明してよ!」


 屈強なメガロボール選手たちの手が、満身創痍のグレアムの身体にかかる。今の自分に勝ち目はない――。そう観念したのか、グレアムは両手を上げた。


「わかった……わかった。話す。少し、3人だけにしてくれないか」


 その言葉に、他の生徒たちは手を引いて、ココとアレックスを残して後ろへ下がった。


「……話して」


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