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二人の行き先


 気づいてやれなかった、聞こうともしなかった自分に今更後悔する。

 そんなアレックスを見て、ディックはにんまりと笑う。


「そう。養子。だから僕は、爺さんに魔術をかけて吐かせた。なんと爺さんは、父親だっていうのに、エヴァンジェリンには一回も会っていないそうだ。なんでもグレアムは、財政も跡継ぎもいなくて風前の灯火のハダリー家を援助すると持ち掛けて、養子縁組を組ませたみたいだ。となると、エヴァンジェリンの本当の出自が気になるところだ。もちろん調べたよ。ところがさぁ」


 くくっ、とゆがめられたその顔から、目が離せない。

 聞いちゃダメだ。信じちゃダメだ。そう思うのに、アレックスはその続きを待っていた。


「あの子の戸籍は、養子縁組する前の記録が一切なかった。実の両親も不明、孤児院から引き取った形跡もない。そりゃあそうだよね、あの子は『作られた』んだから」


「馬鹿を言え……! だいたい人造人間を作る方法なんて、現代じゃほぼないだろ……!」


「たしかに、パラモデアは存在しない。けれど、トールギス家の継承者の魔力をもってすれば、不可能ではないと思うけどね。グレアムの魔力量がすごいのは、君も知ってるだろ?」


「あいつが優秀なのは認めるが、だからといってそんなものを作るメリットはどこにも……!」


「そう。グレアムは何を目的に彼女を作ったのか? それが僕は気になるんだ。もしかして……トールギス家はひそかに、『死なない軍隊』でも作ろうとしているのかな? そうなると、ゆゆしき問題だよね」


「待て、お前の妄想に騙されるほど馬鹿じゃないぞ」


 するとディックはシュッと指先をアレックスの顎元につきつけた。


「僕は、僕の『呪いの目』を使って彼女の中を見た。彼女の心臓は、グレアムの魔力につつまれていたよ――。まぁ、君は信じないだろうけど。それでもいい。あとでわかることだしね。さぁ、あいつらの居場所を教えてもらおうか」


「やめ、ろ。イヴはここにはいない……!」


 バチバチとディックの指先にまがまがしい光が沸く。


「へぇ、嘘つくんだ。そんなにあいつらの肩を持つ? まぁいいよ。それなら君にも、僕の呪いを飲ませてやろう」


 カッ、と光がさく裂したその瞬間、二人の間を植物の蔓が遮った。


「そこまでよ、ディック・イースト!」


 ココが秘蔵のつる植物を片手に、檀上に乗り込んできた。つるがディックの指先を覆い、手錠のようにその手を拘束する。

 しかしディックは、友人を見つけたような気軽さで言った。


「ああ、君でもいいよ。教えてくれないかな、やつらの居場所」


 ディックの呪いによろけたアレックスをかばうようにココは立ちはだかり、言い放った。


「教えてあげる。私たちも、二人がどこに行ったのかは知らないわ! あんたに聞きたいくらいよ!」


 ギリギリ、と蔓がディックの腕をしめあげる。


「エヴァンジェリンは今日、私たちに遺言みたいな手紙を残して、どこかに消えたわ! ねぇ、二人はどこにいったの? 何をするつもりなの? 知っているなら、教えなさいよ!」


 その言葉に、ディックは目を丸くした。


「手紙を残して消えた? なぜ……?」


「あんた、とんだ無駄足だったわね。のこのこパーティ乗っ取りに来て、肝心の復讐相手はいないんだから。間抜けもいいとこよ」


「な……グレアムに惚れるような間抜け女には言われたくないね!」


 蔓がとうとう、ディックの喉にまきつく。


「私、あんたの事まだ許してないわよ。イヴに罪を着せて、私をさんざんこき下ろしてくれたわね? その上パーティまでめちゃくちゃにして」


「ふん、こんな草、呪いで―――ッ」


 ディックは指先から魔術を出して蔓を撃退した。しかしすぐに別の蔓が巻き付く。


「なっ…‥‥し、しつこい草め!」


 そんなディックを冷たく見下ろして、ココは言った。


「皆がいまごろ通報して、あんたはまもなくしょっ引かれるでしょうね。その前に教えなさいよ。もしイヴが人造人間だったとしたら、なんで彼らは今日出て行ったの? 何が目的なの? 調べまわったならわかるでしょ? 教えなさいよ」


 指をすべて蔦で覆われ拘束され、ディックはやっとのことで叫んだ。


「ト……トールギス家が、禁忌を使って……ッ覇権を得る、ためだろっ……! ぐふっ…!」


 ココの横に立ったアレックスが、ちょっと怖いものを見る目で言った。


「おいおい、ちょっと緩めろよ窒息するぞ」


「……なんで今日? イヴは養子? グレアムはなんのために……?」


 しかし、ココはぶつぶつつぶやいていて聞いていない。


「おいココ、」


「あんたも考えて。エヴァンジェリンは遺言みたいな事を言って、本当はどうするつもりなのか。あの手紙読んだでしょ!? 今彼らにたどり着かなかったら、なんだか……なんだか私」


 アレックスはうなずいた。


「ああ。たしかに。グレアムが『全部終わったら説明する』って言った、その時にはもう、イヴは―――」


 根拠はない。ただ、手紙を受けとった後だと、全身で感じる。第六感が嫌な予感を告げる。


「もう、手遅れになる」


 その時、ごふっと蔦の中から声がした。ココは慌てて蔦の動きを緩めた。


「っごほ、ごほ、今日……の、日付……ッ」


 息も絶え絶えに、ディックが言う。


「今日は卒業式の日……だよな」


「暦で言えば、五月祭前夜ね。それがどうかしたの」


「お前ら、ちゃんと、古代魔術の授業、受けてなかったのか、今日は……」


 ディックのあおりに、ココとアレックスはあ、とつぶやいた。


「春が終わって、夏が始まる日――すべての魔力が高まる日、っていってたな」


 その情報と、古代魔術が結びつく。


「そうだ、古代魔術において、4月30日は重要な日……!」


「古代のすべての暦は、今日で終わってる。今日、一年が終わり、新しい一年が始まる。だから、卒業式は現代でもこの日に行うのが通例になってる……んだよな?」


「でも待って、それとどう、あの二人は関係あるの?」


 ディックが吐き捨てる。


「にぶいな、エヴァンジェリンは人造人間なんだぞ、今日ここにいないってことは――何か目的があって、出ていったんだ。そうだ、それもトールギス家が覇権を取るために――」


 最後の一言は無視して、アレックスとココは考えた。


「馬鹿ね。グレアムがそんなこと考えてるなら、とっくにイヴを使って何かしてたでしょう。けどグレアムは学園にいる間ずっと、イヴを従えているだけで何もしなかったわ。むしろ――あんたみたいなやつから、守ってた」


「何かの目的のために――イヴをわざわざ学園に連れてきて、従わせてたのか?」


「それって、古代魔術に関すること? この学校のどこに、そんな……」


 そこで二人は、ばっと顔を上げて目を見合わせた。


「遺跡……!」


「そうだ、遺跡で今日、何かが起こるのかもしれない……!」


 二人は縛ったままのディックを残して、無人になったダンスホールを駆け出していった。


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