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助け?

 疑いの視線を浴びつつも、エヴァンジェリンは小さい声で先生に伝えた。


「あの、クロハガネの成虫が、居て……」


 その言葉に、先生は目を吊り上げた。


「成虫!? そんなもの、ここにいるはずが……一体どこに!」


 そう聞かれて、エヴァンジェリンは言葉に詰まった。今しがた、クロハガネは自分の魔術で消滅させてしまったのだ。もう塵一つ残っていない。


(そうだ、手の傷を見てもらえれば……)


 しかしココはハッとした。

 クロハガネの証拠は消してしまった。なのでこの傷も、もしかしたら『自作自演』と取られてしまうかもしれない。


 ココたちのさらに前にいるアレックスが、こちらを鋭い目で睨んでいる。


『お前、クロハガネがいるって嘘をついて、わざとココにスプレーを吹きかけたんだろう!!そんな傷までわざと作って!』


 そう責める声が、エヴァンジェリンの頭の中で響く。彼はきっと、そう言うにちがいない。ココは右手をとっさにローブの内側に隠し、首を振った。


「すみません。たぶん、私の見間違いです。スプレーをかけてしまってごめんなさい」


 先生とココ、両方にエヴァンジェリンは謝った。


「そう……気を付けなさい。あなたは座学は優秀なようだけど、農作業には向いていないようね」


 そう冷たく言って、先生は去っていった。この場が収まり、エヴァンジェリンはとりあえず胸を撫で下ろした。

 が、もちろんそれだけは終わらなかった。


「おい、待てよ。出てきてさっそく喧嘩をふっかけてくれるじゃんか」


 急ぎ寮に戻り手の治療をしようとするエヴァンジェリンを、アレックスが呼び止めた。

 エヴァンジェリンはおそるおそる振り向いた。グレアムより背の高いアレックスを見上げると、まるで大人と子供くらいの身長差を感じてしまい、エヴァンジェリンは思わず体をすくめた。

彼の後ろにはココとグレアムもいる。ココはもちろん、グレアムは射殺すような目でエヴァンジェリンを見ている。


(私、また……騒ぎをおこした、ってグレアム様に怒られる……)


 せっかく、謹慎を解いてもらったばかりだっていうのに。エヴァンジェリンはうなだれた。


「……ココさん、ごめんなさい。本当に、間違ってしまって」 


 心からそう謝るが、ココは何も言わない。代わりにグレアムが低い声で言った。


「……余計なことはするなと、あれほど言っただろう。君が態度を改めないなら、僕も考えがある」


 もしかして――とうとう捨てられるのか。そう思ったエヴァンジェリンははっとして悲壮な顔を上げた。

 グレアムは不快そうに、エヴァンジェリンのその顔を見ていた。そしてココは、隣で汚いものを見るような目を向けていた。


 その時だった。エヴァンジェリンとアレックスの間に、さっとディックが割って入った。


「何してんの?彼女に三人よってたかってさ。まさか集団いじめ?」


 アレックスは眉をひそめた。


「あんたには関係ないだろ」


「そりゃ、ないかもだけど。でも俺ってほら、女の子が困ってるの放っておけないからさ」


「ココも困ってるんだよ、そいつのせいで」


「彼女は間違いを認めて謝ってるじゃんか。それなのにまだ責めるのはおかしいと思わない?」


「あのなぁ、これが初めてじゃないんだよ」


 そう言うアレックスを、ディックは軽くいなした。


「来たばかりの君たちは知らないだろうけど、ハダリーさんは真面目な人で、あんな嫌がらせなんてするタイプじゃないんだよ。ねぇ、トールギス君はよく知っているだろう?」


 ディックはそう言ってグレアムを挑発するように見た。この二人は、一年次の時からあまり仲が良くない。北の正統派の魔術家系のトールギス家と、東の古株の一門であるイースト家は、昔から何かと争いを繰り返し、因縁があるのだという。

 そのせいで、グレアムはディックと距離を取っていたし、一方のディックはグレアムをはっきり嫌っていた。


(けど……なぜか私には、普通に接してくれるのよね)


 エヴァンジェリンそのものには、トールギス家の血が流れていないからだろうか。昔からディックはエヴァンジェリンには親切だったし、今日もこうして助けてくれている。


「何で君が、こうもハダリーさんを粗末に扱うのか……俺は理解できないね」


 するとグレアムではなくアレックスがふんと鼻を鳴らした。


「そんな性格の悪い女、見限って当然だろ」


 待っていましたとばかりに、ディックはエヴァンジェリンの肩を抱いた。


「それなら、見限られた彼女を俺がもらっても、文句はないよね?」

 

 すると、黙っていたグレアムがやっと口を開いた。


「おい、待て」


「待たないよ。後悔しても、遅いんだからな!」


 快活な笑顔でそう宣言して、ディックはエヴァンジェリンを半ば抱えるようにして、無理やりその場から連れ出した。エヴァンジェリンがとっさに逆らえないほどの、強い力だった。


「待って、待って、ください、イーストさん……っ」


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