失恋同盟卍卍卍
「なによ突然」
「いえその、よろしければ、ご友人のマリアンさんの予定なんかをですね……」
すると皆、目の色を変えて次々とココに詰め寄る。
「それならジュディは⁉」
「レニちゃんは⁉ もう申し込まれちゃってる⁉」
しかしココは、それらの質問をバッサリ切り捨てた。
「それは直接! ご本人にお聞きください。友人を売るような真似はいたしかねます」
「なんだよぉ。そう言わずにさぁ」
「そういうのは、自分で誘ってこそでしょ。卑怯な手つかうもんじゃないわよ」
「ちぇっ」
ぶつくさ言いながらも、男子たちの声はうきうきしていた。そして、そんな彼らを、ちらちらとみる他の生徒たちの視線も感じる。女の子の、嬉し気なクスクス笑いも。
――皆、プロムに向けて、そわそわしているのだ。
(ま、伝統だものね。いちお、男子が女子を誘う事になっているし……)
卒業式のあとの、学園主催のダンスパーティ。下級生は、6年生にパートナーとして誘われないと出れないので、ココはまだ行ったことはない。
プロム前は、男子は意中の女子をどう誘おうかとそわそわし、女子は目配せとくすくす笑いが止まらなくなる。
寮生の輪を離れて、ココはひとり窓辺にたたずんだ。ここから、向かいにある北寮の窓が見える。
「……ココは、やっぱりグレアム・トールギスと行くの?」
すると隣に、友人がすっと立った。
「レニ。ううん。そんなことないわ。彼はたぶん、イヴと来るんでしょ。婚約者だもの」
「そう……?」
レニは心配そうだ。ココは心配をかけまいと明るく言った。
「それよりレニは? って決まってるか。西寮に彼氏いるもんね」
「うん、まぁ」
ココはふうとため息をついた。
「いいなー、彼氏がいれば、この時期じたばたしないもんね。最初からパートナー決まってて……当日はいい思い出になるでしょうね」
レニが苦笑する。
「そんな事言って。ココだって、いい思い出つくればいいじゃない。グレアムじゃなくたって、他に男の子はいっぱいいるんだし。アレクとかどう? 灯台もと暗しってやつ?」
「いやだ、冗談じゃない。一生に一度のプロムでまで、アレクと顔突き合わせるなんてごめんよ」
「それならなおさら! 他の男の子に目をむけないと! ねっ?」
明るくそう言われても、そんな気持ちにはなれないが――レニの心遣いがありがたくて、ココはうなずいた。
「うん、そうね。考えてみる」
そして、ココはちらりとアレックスを見た。彼もまた、窓の外の塔を見ている。
ココは内心、ため息をつく。
(やぁね。私たち二人とも、似たような気持ちでいるんだわ)
せっかくの、プロムパーティなのに。
あの二人の面影が頭をはなれなくて。
このわくわくした空気に、気持ちがついていかないのだ――。
◆◆◆
しかし、あくる日の放課後。ココは人気のない廊下で、目撃してしまった。
「あ、あの……あの、アレックス、さん。プロムのパートナーは、決まっていますか」
「いや……それは」
下級生の女の子が、アレックスを見上げて必死に話している。
その現場に遭遇しそうになったココは、慌てて柱の陰にかくれた。
(やだ、あの子はたしか、2個下の……黒髪のクールな美人)
アレックス、モテるのか。なんだか釈然としない気持ちを抱きながらも、ココは耳を澄ませた。
「もし……まだなら、私と一緒に、行ってはもらえませんか」
ココは思わず、口を手で覆った。
(あらま! あんなかわいい女の子の方から誘ってくれるなんて! アレクめ!)
アレクのくせに生意気では⁉ と思いつつも、たしかにメガ球を追いかけている時の彼は、見どころがある。
下級生の女の子が一目ぼれする可能性もまぁ――ないとは、言い切れない。
ココは引き続き、耳を大きくして聞いた。
「そっか……わざわざ、ありがとな。でも、もう決まってて」
(うっそ! 断りやがった、アレクめ!)
「え……と、す、すみません。そうでしたか」
「ごめんな。でも、気持ちは嬉しいよ」
「いえ、いいんです。わかっていました。先輩に、ちゃんとパートナーがいるってこと。でも、もしかしたらって、思ったんです……」
ぱたぱたぱた、と足音が遠くなっていく。走るようにして、女子生徒は行ってしまったのだろう。
ココは黙っていられなくて、柱から出て彼の隣に並んだ。
「ちょっとアレク!」
「うおっ……!? てなんだ、ココか」
「なんでさっきの断っちゃったのよ! もったいない!」
「聞いてたのかよ。別に俺の勝手だろ」
「そりゃ、そうだけど……相手がいるって、本当なの」
「いない。……今はまだ」
アレクは廊下を歩きだした。この先、廊下は突き当りになっていて、裏庭につながる扉がある。物置小屋以外、特になにもない場所だ。
「ちょっと、どこ行くの」
「物置。箒借りてくる」
「箒⁉ 何しに」
ココが問い詰めると、アレクは思いつめたようにココを見た。
「イヴを探しに行く――止めるなよ」
「探しって……まさか」
箒で、北寮の塔まで飛ぶつもりか。ココはちらっと窓の外を見た。
「待って、」
「止めても行くからな」
「違う。今はやめなさい。昼間でしょ。バレバレだよ。グレアムにすぐ見つかる」
「……え?」
「行くなら夜にしなさい。私が下で見張ってあげるから。それに、ちゃんと計画を立てたほうがいいわ」
するとアレックスはへへっと笑った。
「なんだよ、味方してくれんのか」
「当たり前でしょ。私だって、あの二人がどうしてるのか……」
気になるんだから。