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失恋?


「聞いた聞いた? 北寮の姫と王子の話!」


「聞いたよぉ! 南寮の6年生が、お姫様に告白したんでしょ? ほら、今朝食の席にいる、あの人よ」


「姫、新年明けても姿見えないねぇ。王子に監禁されてんの?」


「あのトールギスも、姫様を横取りされて大激怒、ってか」


「いや、フツーに体調不良かもよ?」


「でもさぁ、自分は最初に浮気しといて、姫が告白されただけで怒る、って、器ちいさいよねぇ」


 ――身を切る1月の寒さの中、噂話を振り切るように、アレックスは広間から廊下へと出て行った。

 どいつもこいつも、好き勝手なことを。チッと舌打ちしたくなる。ココが慌てておいかけてくる。


「ごめん、アレク。私がグレアムを止められなかったせいで……」


「別にココは悪くねぇよ。気にすんな」


 ココがうつむく。あのパーティの後半、突然何かに気が付いたグレアムは、ココを振り切って会場を出て行ってしまったのだという。


「イヴ、大丈夫かな……グレアムに、怒られたりしてないかな」


 あれから年末の休暇をはさみ、2学期が始まった。

 しかし1学期と同様、グレアムはめったに姿を見せず、エヴァンジェリンに至ってはまったく誰も見ていないという。

 ココが南寮を訪ねても、アレックスがグレアムを呼び出しても、すべて断られ、なしのつぶてだった。


「グレアムの野郎、視界に現れたらとっちめてやるのに」


「……あっちもそれを見越して、うちらの前に姿を現さないのかも」


 6年次の生徒は、もともと研究のためにひきこもって外を歩かないものも多い。それが災いして、まったくグレアムと遭遇することができない。

 しかしココは首を振った。


「なんにしても、私たちも彼らのことばっかり、かまってられないわよ。6年次の2学期なんて、あっという間なんだから。3学期までには、卒業後の身の振り方を固めておかないと」


「……ココは、農場戻って手伝うんだろ」


「ええ。そうできたらと思っているわ。将来的にはね」


「すぐには戻らないのか」


 するとココはちょっと迷ってから言った。


「実は、魔法植物研究所の就職試験、受けてみようと思って」


 アレックスは眉をあげた。初耳だ。


「へぇ。難しいっていうけど……すごいじゃん」


「それは受かってから言ってちょーだい。じゃ、私委員会あるから」


 そう言って、この寒い中、ココは温室へと向かってしまった。植物委員の活動は、この極寒の冬でも温室の植物を枯らさないことにあるという。


 去っていく彼女を見送り、アレックスは廊下に立ち止まってため息をついた。


(なんだろ……皆、ちゃんと先のこと考えてんな)


 ココはもちろん、アレックスの周りの悪友たちも、ふだんはさんざん馬鹿なことを言っているくせに、きっちり進路を決めていた。

 大手の魔法企業を狙うやつ、実家に戻って家業を継ぐやつ、研究職に推薦されたやつ――いろいろだった。

 けど、自分は。


(ん~~~~~、何かこう、すぱっと決められないんだよなあ)


 実のところ、アレックスにもオファーはあったのだ。

 今年のメガロボールの試合を見に来てくれた、プロチームの監督から、声をかけられている。


(ブレイズ・グロリア……北地方でいちばんの、でっかいチームだけど……)


 もちろん、一流の選手たちに混ざって、プロリーグの競技場の芝を踏みたい。その気持ちがないわけじゃない。しかし。


(俺は、イヴのためなら、メガ球やめてもいいって、思った。そんな俺が、一級のチームでやってけるんだろうか)


 そして当のエヴァンジェリンは、もう何週間も姿を現さない。


(イヴに話して……それで、イヴがいいねって言ってくれたら。応援するって、言ってくれたら……)


 彼女をさらって、今すぐにでも、前に進めるのに。


「くそ……っ」


 こうしている間にも、エヴァンジェリンがグレアムに、ひどい目にあわされているかもしれないのだ。

 北寮の塔に閉じ込められ、あの鳥とひとりぼっちで、寒い中バナナを食べているかもしれない――。

 そう思うと、いてもたってもいられないし、食事も味がしない。温かい食事を前にすると、罪悪感すら湧く。


(イヴが辛い目にあってるかもしれないっていうのに、俺だけこんな飯、食えねぇ……)



◆◆◆



 周りが次々と卒業論文を仕上げ、次へと進んでいくうちに、雪が溶け、春風とともに3月がやってきた。


「アレク、どうしちまったんだ?」


「……しっ、からむな。奴は今ナーバスになってる。病みゴリラに襲い掛かられるぞ」


「そういや姫様はまだ見ねぇし……これは、学園去った説も濃厚だな」


「ゴリラもとうとう、失恋確定か……」


「失恋には新しい恋しかないだろ」


「俺たちが一肌ぬぐか。もーすぐプロムもあることだし」


 談話室でひそひそ話す男子たちの頭を、ココはぺしっとはたいた。


「なーに勝手な事いってんのよ」


「ココ、盗み聞きしたのはそっちだろ」


「ふつーに聞こえてるっつうの」

 

 肩をすくめて振り返ったアレックスに、友人たちは慌てた。


「わっアレク、ちがうんだ、俺たちはお前を心配してだな……」


「わかってる、いいって。お前らはお前らのこと考えてろよ」


 まったくアレックスらしくない、分別くさい言葉に、男子たちはかえって心配になったように口々に言う。


「おいおいマジかよ、もうすぐ卒業なんだぜ俺たち!」


「そうだよ。なーんもしなくていい三学期と夏休みが待ってんだ! な、夏休み皆で海とか行かね?」


「いやいやその前に卒業式だろ、プロムだろ!」


 男子の一人が、わざとらしい猫撫で声でココにきく。


「そういえば、時にココさん、あなたや周りのご友人たちは、パートナーはもうお決まりですか?」

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