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クリスマスのパーティ


「メッセージか、小物か、魔術…‥うーん」


 エヴァンジェリンはクリスマスクラッカーの材料を前に、悩んでいた。

 もらってうれしいものを、とココの案内には書いてあった。

 しかし、皆はどんなものをもらえば嬉しいのか、いまひとつ想像がつかない。


「私はキャンディとか、嬉しいですが……嫌いな人もいるかもしれませんし」


 交換がどんな風になされるのかわからないが、もし嫌いな人にあたってしまったら申し訳ない。

 いや、そもそも……


(私と交換してくれる人なんて、いる、のかな……?)


 ふっとそんな気弱な考えがよぎる。しかし、エヴァンジェリンは首を振って追い払った。


(そうなったら、自分で自分のクラッカーを鳴らせば、いいじゃない。別に平気よ。だって、パーティを見られるだけでうれしいもの……)


 悩みに悩み、エヴァンジェリンはグレアムの帰ってくる時間ギリギリに、クラッカーを完成させた。そして、完成品を机の裏に隠し、何食わぬ顔で先にベッドについたのだった。


(明日は、楽しみ……)


 初めて、食堂のパーティーに参加できるのだ。

 わくわくしながら、エヴァンジェリンは目を閉じた。



◆◆◆



 12月25日。その日は朝からなんだか、学園内の空気が浮わついていた。

 みんな夜のクリスマスパーティを楽しみにしているのだ。いつもは他人ごとの顔をしながら、うらやましい気持ちをもてあましていたけど、今日は――


(私も出席、できるんだ……!)


 そう思うと、エヴァンジェリンも柄にもなく浮ついてしまう。周りやグレアムにばれないように、平静な表情を保つので精一杯で、エヴァンジェリンは授業をこなした。


 日課を終えて部屋に戻ると、いつもどおりグレアムはいなかった。

 実行委員で、この時間は忙しいのだろう。エヴァンジェリンは、制服のケープを目深にかぶりなおし、部屋を飛び回るピィピィに話しかけた。


「ごめんね……私だけ、パーティ、いってくるね」


 するとピィピィは無邪気に首をかしげた。


「ピィピィの食べれそうなごちそうがあったら、こっそりもってきてあげるからね」


 そう言って、クラッカーを懐にかくし、エヴァンジェリンは誰にも見つからないようこそこそと寮を出た。

 皆パーティー会場に直行しているのか、南寮のラウンジも、寮を出てすぐの廊下も、誰もいなかった。エヴァンジェリンは用心しながらもほっとした。

 その時。


「やぁ、イヴ!」


「わあっ!?」


 いきなり柱の陰から出てきたアレックスに、エヴァンジェリンはびっくりして思わず足をもつれさせた。転ぶ――


「おっと、ごめん。驚かせた?」


「い、いえ。だいじょうぶ、です」


 アレックスはエヴァンジェリンの腕をとっさに掴んで支えてくれた。

 くったくないその笑みに、エヴァンジェリンもまた微笑んだ。


「パーティー会場で待ち合わせ、じゃなかったんですか」


「だったんだけど、待ちきれなくなっちゃってさ。イヴが寮出てこれるか、ちょっと心配だったし」


「グレアム様は、実行委員で先に行ってるから、出るのは見とがめられませんでした。寮も、皆出払って誰もいませんでしたし……」


 アレックスと連れ立って、大ホールへと向かう。入口には実行委員の生徒が立っていて、エヴァンジェリンはフードを目深にかぶった。


(大丈夫、今日はホールは暗くしてあるし、そうそう見つからないと思うよ)


 アレックスがこそっと耳打ちし、エヴァンジェリンに腕を差し出した。


「ほら、手をここに。イヴ」


 腕を組む、ということだろうか――。エヴァンジェリンは一瞬ためらった。

 自分がそんなことして、いいんだろうか。

 まるで普通の女の子みたいに、エスコートされるなんて――。


「どうしたの? 嫌だった……?」


 アレックスが少ししゅんとした顔になったので、エヴァンジェリンはあわてて首を振った。


「そんな……ええと、失礼、しますね」


 おっかなびっくり、エヴァンジェリンは彼の腕に自分の手を置いて、入口をくぐった。

 入口係の生徒が、かごから2つ、真っ赤なポインセチアの花を手渡す。


「どうぞ。今日は席は自由です」


「ありがと」


 アレックスは受けとるも、首を傾げた。


「これ、なんだろ? 食べれるのかな?」


くすっと笑って、エヴァンジェリンはアレックスの手から花を一つとり、少し背伸びした。


「たぶん、飾るんですよ。男の子は胸元に……失礼します」


 広い胸板の、セーターの腕章の上あたりに、エヴァンジェリンは花を留めた。


「こんな感じです」


 見上げると、アレックスは目を見開いて――そしてくしゃりと笑った。


「ありがと。じゃ、イヴもつけるといいよ」


 花を持ったアレックスの手が、エヴァンジェリンの顔に伸びる。すっ、と耳の横に優しい感触を感じ、彼の手は離れていった。


「うん、イヴってすごいな、なんでも似合う」


 その表情があまりに優しくて――エヴァンジェリンは思わず直視できなくて、目線を逸らしてしまった。

 自分がこんな優しくされていいはずがない。ドキドキなんて、しちゃいけないのに。


「あ、ありがとうございます」


 なんだか頬が熱い。振り払うように会場を見回すと、大きなクリスマスツリーや、そこここに飾られた花たちが目に入った。


「わぁ……キレイですね。それに、すごい大きなツリー」


「ちょっと見に行ってみよっか」


 人込みの中、ツリーのふもとまで行く。天井まで届くかという大きなツリーには、花やオーナメントがどっさり飾られており、壮観だった。

 つやつやした真っ赤なチェッカーベリーに、白いクリスマスローズ。そして、蝋燭の光を受けて、キラキラ輝くガラスや真鍮のオーナメントたち。

 オーナメントには魔法がかけられているのか、時折きらめく金銀の粉をまき散らす。まだ一年生と思わしき生徒たちが、その粉を手でキャッチしようとジャンプしていた。エヴァンジェリンも思わず手を伸ばす。

 すると金銀の粉はふっとエヴァンジェリンの手のひらの上に舞い、妖精の形を一瞬取って、ぱっと散った。

 

「わ……アレクさん、見ましたか‥…⁉」


 目をまんまるにしながら、エヴァンジェリンはアレックスを振り向いた。アレックスは微笑んでうなずく。


「うん。綺麗だったな」


 エヴァンジェリンもオーナメントのように目をキラつかせながら、会場を見上げた。

 天井や壁、テーブルのそこここにも、生花とヒイラギ、ヤドリギで作られたリースやガーランドが飾られている。

 辺り一面、蝋燭や金銀の粉でキラキラしていて、甘いお菓子の香りで満ちている。

 行き交う生徒が、みな幸せそうに笑い合っている。


 エヴァンジェリンは、ほうっとため息をついた。


「すごい……すごいですねぇ。いいものを見せてもらいました。とっても嬉しい気持ちです」


 するとアレックスはエヴァンジェリンの手を引いた。


「何言ってるんだ。まだまだ始まったばかりだよ。ほら、ごちそうを食べに行こう!」


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