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クリスマスの足音


「あぁもう、この散らかりっぷりどいういう事なのよ、ねぇワンダー!」

 

 ココはめちゃくちゃになっている自分の机の上を見て、愛犬に呼び掛けた。

 ココの机の右端には、お気に入りの金ぶちの写真立てに入ったワンダーがいる。

 地元の魔法学校から転入してきて2年、ココはいつも彼に励まされていた。

 しかしそのワンダーも、今はうずたかく積まれた本に遮られ、ちらとも見えない。


「まったく、6年次って……こんなに仕事があるなんて」


 うっかり監督生やらクラブ長やら請け負ってしまったのが運のツキだった。次々と仕事が舞い込み、自分の研究どころか机の片づけもできない始末。


(もう6年次が始まって2か月経ったって言うのに……!)


 ココの卒論はもう決まっていた。故郷と学園の地、つまり南と北の魔法植物の違いについてだ。そろそろ研究にとりかかりたいところであるが……。


「まずは机の上を綺麗にするっ!」


 思い立ったら即行動。ココが片付けを始めたその時、後ろでドアが開いた。


「ココ! ちょっと来てくれない? 監督生たちが集まって、クリスマスのことについて話したいって」


(あ~~~~もう!)


 ココはそう叫びたいのをぐっとこらえ、振り向いた。


「わかった、今いく」


 監督生専用のラウンジに向かいながら、ココははぁとため息をついた。


(……そういえば、クリスマスパーティーを仕切るのは、我々監督生の仕事だったっけ)


 まったく、机の上のワンダーに会うのはまだ先になりそうだ。


「遅れてごめん、南寮のココよ」


 ドアを開けて飛び込んだココはドキッとした。

 中にグレアムも居たからだ。


(グレアムも、北の監督生、引き受けたのか……)


 監督生は、基本寮監の教授の指名制だ。ココもそれで引き受けてしまったので、彼も同じということだろう。


(グレアムとは、去年イヴの事でもめてから、ろくに話してないな……)


 ココの方から、彼をシャットアウトしたのだ。彼のイヴに対する態度を見れば、当たり前の判断だったとココは今でも思っている。

 しかし、この場で意識をするのも変だろう。もう終わったことなのだ。胸騒ぎを抑えながら、ココは平静を装って切り出した。


「ええと、まだ11月に入ったばかりだけど、もう何かすることがあるの? クリスマスパーティーって」


 すると西寮の監督生がうなずいた。


「もちろん。これが去年の資料だけど、今年はどういうコンセプトでいくか、何にどれだけ予算を割くか、僕たち監督生に一任されてるから」


 ココは手渡されたノートをめくった。去年、大広間に飾られた大きなツリーの写真が貼られていた。


「あー! このツリーあったわね。雪と氷で飾り付けられてて、すごかった」


 ノートを覗き込んで、東寮の監督生がくすっと笑う。


「そ。それつくったの、ウチの先輩。氷魔法が得意だったの。だからつまり、去年のツリーのデコレーションの原料は水だけで、実質無料だったってわけ」


「その分、食事にお金かかってたでしょ?」


「はぁー、なるほど。たしかに去年食べたミンスパイ、おいしかった」


 なるほどなるほど、とうなずきながら、ココたちは話を進めた。


「それじゃ今年は……どうしましょうかね」


「うーん、正直予算は多くないけど、ツリーも食事も豪華なほうがいいもんね……」


 頭をひねる中、グレアムがスッと別のノートを差し出した。


「ツリーに予算をかける必要はない。過去のオーナメントが残っているはずだから」


 その写真のツリーは、大小さまざまなオーナメントが隙なく飾られ、ぴかぴか輝いていた。


「わ、こりゃすごいわ」


「でもどこにあるっていうんだ? 場所なんてわからないよ」


 するとグレアムは冷静に言った。


「西棟の倉庫の2階だ。場所は俺が行ってたしかめてあるから、間違いない」


 その言葉に、ココも他の二人も目を丸くした。


「あら……準備いいのね」


「ツリー本体は、いつもどおり学園裏手の庭から切り出す。その作業も、通例に従って、去年のメガ球優勝チームの寮にやってもらう。つまり南寮だ」


 ちらっと目線を送られて、ココはどきりとしたもののうなずいた。


「え、ええ。わかったわ」


「これで去年同様、ツリーの費用は浮く。残った予算で何をするかだが――これが過去十年間の予算のデータだ」


 ぱさ、と一枚の紙がテーブルに置かれる。3人はそれを覗き込む。


「へぇぇ、食事にお金をかけてる年がほとんどか」


「バンドを呼んだ年もあったのね。それに……クリスマスクラッカーを配った年も」


 ココはひらめいた。


「あら、クリスマスクラッカー、いいかもね。紙だからそんなに予算もいらないし、中に入れるものを自分たちで作れば実質タダみたいなものよ」


「たしかに! クリスマスクラッカー、なかなか賢い案かもね」


「クリスマス前に集めて、当日くじびきみたいに皆に配りなおす。誰のが当たるかお楽しみ、ってことで」


「それか、プレゼント交換みたいに、全生徒一人一個作って、それを誰かと交換するのも、楽しいんじゃない?」


「いいわね! そっちの方が手間がないかしら?」


 ココと東寮の女子二人で、どんどん話が盛り上がる。


「なるほど。じゃ、とりあえず今年のリストに書いておこう」


 西寮の生徒が、今年のノートに次々と出たアイディアを書き留めていく。

 

「ツリーの飾りはあるものを使って、クラッカーは生徒のみんなで手作りして……そしたらその分、食事を豪華にできそうだな」


 女子生徒二人の目が輝く。

 クリスマスの定番、ミンスパイにターキー、そしてクリスマスプティング。エッグノックにホットワイン、フルーツシャンパン……さまざまな名前が挙がる。


「えっとそれから、ロックケーキ! ポットパイにジンジャーマンクッキー!」


「ホットチョコレートも飲みたいわ。それにフライドチキン、チョコレートフォンデュも!」


「わかった、わかった、そのへんでいいだろさすがに! 今日はこれでいいよな? 方向性は決まったから、次の集まりでは実務に入ろう」


「りょーかいっ! じゃ、私クラブあるから失礼!」


「俺もお先に」


 西寮と東寮の監督生もココと同様忙しいのか、風のようにさっとラウンジを出て行ってしまった。


(まず、グレアムと二人になっちゃうじゃない)


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