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アレクさんって、モテる?

 ココは腰に手をあてて、きりっと聞いた。


「それなら! もし、イヴがグレアムといて不幸なんだとしたら……あんたはどうしたいのよ、アレク」


「そ、それは……」


 すると、アレックスは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。


(脳筋ゴリラが、赤くなってる……ッ)


 思わず笑ってからかいたくなってしまう衝動をぐっと抑えて、ココは忠告した。

 幼馴染の初恋なのだ。ここは親身になってやらないと。


「そうね、自分の気持ちを口に出すのって、けっこう勇気いるわよね。たとえ本人でない、私に対してだとしてもね」


「そ、そういうんじゃないけど……!」


「だからいっこ教えてあげる。そういう時は、何かゲンを担げばいいのよ」


「は?」


「たとえば、週末の試合をイヴが見に来てくれたら――そんで勝ったら――イヴに何か言ってみても、いいんじゃない?

 別に改まったことじゃなくていいのよ。素直に思ってること、聞いてみたら。あんたが本気で聞いてるってわかったら、イヴもちゃんと答えてくれると思うけど」


「そ……そうか?」


 ココはバシンと背中を叩いた。


「そ! あとは自分で何聞くか、考えなさいよね!」


 世話がやけるわぁ。そう思いながら、ココはコーラを飲みほした。



  ◆◆◆



『メガロボールの選手の動きは、決闘技に通ずるところもあると思うのです――』

 

と、グレアムを説得し、週末のその日、エヴァンジェリンはなんとか試合を観戦する許可を得た。

 メガロボールの競技場は、夏先ということもあって青々とした芝生に覆われていた。

 春風が北寮と南寮それぞれの旗を揺らし、柔らかく吹き抜けていく。

 そのすがすがしい光景が珍しく、エヴァンジェリンはきょろきょろあたりを見回した。

 反対にグレアムは、人込みは嫌いだとばかりにさっさと歩く。


「俺は先に席に座ってるからな」


 立ち止まって旗を見上げるエヴァンジェリンに投げやりに声をかけ、彼は競技場に入っていってしまった。


「グレアム様、」


 一瞬追わなくては、と思ったが、エヴァンジェリンはそのまま競技場の前にたたずんだ。もう少し、ここの風を浴びていたい。


(青空に、赤と紺色の旗がはためいて――きれい)


 ふと視線を南寮の旗へと向けたエヴァンジェリンは、その旗の下にアレクがたたずんでいる事に気が付いた。


(あ、アレクさん、試合の公式ユニフォームだ)


 練習用ユニフォームしか見たことがなかったから、真っ赤な色で固め、籠手や脛あてをしているその姿はなんだか新鮮だった。


(ずいぶん、ものものしいのね。まるで鎧みたい)


 戦う前の戦士さながらの姿に、思わず見とれてしまう。

 試合前に、一言挨拶すべきだろうか。いや、一応敵側の寮の人間だし、かえって迷惑だろうか。

 そんなことを考えて尻込みをしていると、アレックスをめがけて、長い黒髪を一本に結った女子生徒がどこからか走り寄ってきた。アレックスが気が付いて、彼女を迎える。


(試合前の激励、かな?)


 赤いマフラーをしているから、女子生徒はきっと南寮の生徒だろう。エヴァンジェリンは邪魔にならないように立ち去ろうとした。が。


 女子生徒はなにやら、泣きそうな顔でアレックスを見上げて、手紙のようなものを差し出している。

 対する彼は、困ったような照れ臭いような表情で、それを受け取っていた。


(な、な、なにかしら……もしかして、あれは、らぶれたー……というやつでしょうか?)


 小説で読んだことがある! エヴァンジェリンはそう思って、ついまじまじと見てしまった。

 真っ赤な顔で女の子が去る。それを見て、エヴァンジェリンは確信した。


(そうですか……なるほど。アレックスさんは、モテる、んですね……)

 

 確かに彼は、上背がある。エヴァンジェリンが見上げるほどだ。メガロボールで鍛えたその体は厚みがあって、手足は長く、おまけに顔は小さい。

 燃えるような赤毛に、いきいきと輝く緑の目。その顔は――時にいたずらっぽく、時にやさしく、さまざまな表情を浮かべる。

 エヴァンジェリンの数少ない友達であるというひいき目を差し引いても、アレックスはけっこうな容姿をしている、とエヴァンジェリンは今更ながらに気が付いた。


(えっと、なんていうのかしら、こういうの……そうそう、『イケメン』)


 ほかならぬグレアムも整った顔立ちをしているが、アレックスとは彼とはまた違った『イケメン』さがある。とエヴァンジェリンは思った。


(グレアム様は、礼拝堂の彫刻みたい。固くて冷たい感じ……でも、アレクさんはなんだろう……暖かくて、人懐こくて……)


 ココが前に見せてくれた、実家においてきた犬の写真を思い出した。耳をピンと立たせて、その大型犬はキラキラした目を向けていた。その口には、犬用のお菓子をくわえてる。

 そう、アレックスはまさに、あんな感じだ。大きくて、温かくて。だから側にいて嬉しく、楽しい気持ちになるのだ。


(そうね……きっと、いろんな女の子が、私みたいに、アレクさんとお話するのは楽しい、って思っているんだろうな)


 そう思うと、友達として誇らしいような、そしてちょっぴり寂しいような気持ちになる。

 いつかアレックスも、グレアムがココに恋に落ちたように、愛する女性が現れるのかもしれない。そしたら……。


(もう、お昼休み、一緒にバナナのお世話は、できなくなっちゃうわ……)


 そう、おやつタイムもなくなる。だけど。


(もしそうなったら、快く受け入れましょう)


 もう一緒に過ごせなくなったとしても、アレクが一時でも一緒に過ごしてくれた時間も、くれたお菓子も、たしかにエヴァンジェリンの中には残っているのだから。


 そう思いながら、エヴァンジェリンはグレアムのあとを追って、競技場の席へと向かった。


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