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私、がんばります

「そして、目覚めたんだ。事件より10年前の朝に。俺は禁忌を破って、調べに調べた。なぜ、あの人造人間が唐突に目覚め、人に襲い掛かったかも、時が戻ったかもわからないが――あの呪いは、古代に存在していた『形代の呪い』に間違いない……!」


 相手の魂に反応し、それを材料として、相手を自分の言うなりの人形に作りかえる。いつ、どうしてそうなったが謎だが、ホムンクルスはその呪いに侵されていた。触れるものすべてを、自分と同じ魂のない存在にかえてしまう『呪い』そのものになっていたのだ。


「負の呪物……ですね」


――古代魔術の授業でよく聞く、『負の呪物』と化してしまっている。人間に害をもたらす、人造人間の異常状態だ。

 古代の人造人間は、シンプルな構造をしていた。だから魔術はつかえない。しかし、純粋な超魔力、パラモデアを使って動く彼らの内部の力は、純粋ゆえに非常に転じやすく、魔術師たちの様々な思いや呪いの影響を受けやすかった。

 無茶な使用を続けるうちに、その魔力は澱となって彼らの内部に溜まり、そしてある日、呪いを募らせて災厄を起こす。

 その処分に、人造人間を使い、さらにそれの処分にも人造人間を使い――

 そのうち、パラモデアが枯渇しはじめた。

 こうして収集がつかなくなり、古代の魔法世界は一度ほろびかけた、と古文書は伝えている。


「だから、魂のある人間には、あれを倒す事ができない。あれの呪いが効かず、あれに触れることができるのは、魂のないお前だけなんだ!」


 膝をついたままのエヴァンジェリンを、グレアムが必死で掻き口説く。もう何度も聞いた文句だった。

 それは、エヴァンジェリンを怒っているというより、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


「もう、誰も死なせたくないんだ、そのために、俺はお前を……っ」


 グレアムがせきこむ。エヴァンジェリンに負けないくらい、彼の顔色も悪かった。


(グレアムさまも、限界まで魔力を……)


 エヴァンジェリンの胸には、奇跡の物質、パラモデアは埋め込まれていない。

 そんなものは、この現代には存在しないからだ。

 それの代わりに、エヴァンジェリンはグレアムの魔力で動いている。


(だから……私がこうして魔術を使って訓練するだけで……グレアム様の魔力も体力も、そうとう削られる)


「わかりました……グレアム様」


 やっと呼吸がおちついたエヴァンジェリンは、うなずいた。

 過去を思い出し、取り乱しているグレアムが哀れだった。

 そして、彼の言う通り成果を出せない自分が申し訳なかった。


「もっと、訓練します。魔術の操作性を上げます。私、決闘技の授業を、受けることにします。また明日のこの時間、やらせてください」


 今日続けるのは、グレアムの体力も心配だ。


「わかった……エヴァンジェリン」


 するとグレアムは、安心したような顔をして、目を閉じた。

 エヴァンジェリンの胸に、申し訳ない気持ちが広がっていく。


(そうだ。私はそのための存在なのに……)


 何を浮かれていたのだろう。バナナも、お菓子も。そんなものは本当は二の次のはずだ。

 そこで、エヴァンジェリンははっとした。

 バナナを食べるピィピィも、お菓子をくれたアレックスやココも、このままエヴァンジェリンが失敗したら……。


(死んじゃうん、だ。グレアム様が、昔みたように……)


 それに気が付いて、胸の中がいままでなかったくらいにすうっと冷たくなる。

 エヴァンジェリンは、きゅっと拳を握った。

 小さくて頼りない手だと、我ながら思う。

 しかしそれでも、やらなければいけないのだ。


(皆……皆さんの、このままの幸せな生活が、続くように)


 初めてエヴァンジェリンは、グレアムと同じ焦りをその胸に感じていた。

 エヴァンジェリンを友達だと言ってくれた、優しいココ。

 不器用だけれど、会えばお菓子をくれて微笑んでくれるアレックス。

 ずっと一緒だった、大事なピィピィ。

 そして――苦しんでいる、グレアム。


(みなさんを、死なせたくない……。もっと、頑張らないといけない)





 冬が終わり、5年生の3学期が始まったその日。エヴァンジェリンは、満を持して決闘技のクラスを申し込んだ。

 決闘技は、魔法界に伝わる由緒正しい武術で、その歴史はメガロボールなどよりも古いと言われている。

 魔術による攻撃と、肉体による攻撃を一体化させたこの競技は、遺跡のホムンクルスを倒すことが目的のエヴァンジェリンにはうってつけのものだった。


(今までは、私は弱すぎて、とてもこの授業の門を叩けなかったけど……)


 今だって強いわけではない。が、多少肉体が脆くなくなってきた今、やり始めないと後がない。

 グレアムやマネキン相手だけではなく、いろんな生徒を相手にし、技を盗み、自らを鍛えていかなければ。

 お嬢様が突然何をしにきたのか、とクラスのメンバーはいぶかしんでいたが、エヴァンジェリンは真面目に講義を受け、基礎トレーニングを積んだ。

そして、3学期のなかごろには、実践で相手をしてもらえるようになってきた。



「イヴ……決闘術の実践クラスに入ったって、ほんと? その手って……」

 

 昼休み、アレックスが、キャンディを渡す手をふと止めた。


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