姫プ、囲い込み行為は禁止です。~僕のギルドはこうしておかしくなっていく~
VRMMORPG『オリンピア』その中にひとつの中堅ギルドがあった。
その名は『Walhalla』
ギルドとは、複数の人間が集まり交流し、時に強敵に立ち向かい。
時に素材を融通したり、仲間と協力し合い助け合う集団の事だ。
このギルドは現在アクティブ30人。
在籍だけしている引退者を含むと52人のリアル重視のまったりギルド。
引退したギルドマスター、レヴィさんから指名され、僕が引き継いでしまった。
一番IN率が高かった為断り切れなかったが。
レヴィさんがいつ戻ってきても良いように誰も減らさないようにしていきたい。
僕がヴァルハラのギルドマスター、キャラクター名は「量産型ナツメ」だ。
問題がひとつも無い訳じゃない。
僕が唯一愛した同じギルドのゆりちゅさんはネカマだった、初恋だったのに。
ここ 『オリンピア』ではデフォルトで設定された。
ボイスチェンジャーを使う人も多い為。
一人称が私だった事と会話全てが敬語だから僕が勝手に勘違いしたのだ。
ゆりちゅと付けた本来の意味は「ゆりちゅっちゅしたい」。
外部の連絡ツールで判明したフルネームだ。
ゲームネームがその略しだと思っていなかったのが災いした。
僕の3年間ひっそり育った恋心は見事にオフ会で粉砕する。
それでもゲーム内では好きなので変わらず接するよう心掛けているが。
ダンジョン周回に誘う頻度が少し減ったかもしれない。
操作に慣れない頃は顔半分が壁に食い込み。
ありえない関節の動きを繰り返す人も続出した。
料理なんて作ろうものなら食材が吹き飛び。
トマトを投げて遊びだす奴まででてくる始末。
不自由な部分も多かったけれど楽しかった。
悪夢みたいなあの女の子が入ってくるまでは。
その名は……みぃみる☆、数少ないヒーラーさんだ。
ギルドに入る前から人数が足りない時は結構な頻度できてくれていた。
僕のギルドに入りたいって話に喜んでいた、あの頃の馬鹿な自分を殴りたい。
20人以上になると痛感する事だが勧誘しても来ない人は来ない。
既に他に所属している、しかも固定のお抱えヒーラーなんて。
簡単に移動するタイプは問題を抱えているケースが多い。
彼女は男好きで、悪名高い姫プレイヤー系だったんだ、ゆりちゅさんは既に陥落。
次々と人間関係にヒビをいれていった。
30人は多すぎた、全員をまとめ上げる事は難しい。
僕の実力ではそれまで、と言えばそうだけど。
ギルドはみぃみる☆さん派、中立派、姫プ反対派、の3種類に別れてしまった。
僕にギルドの女の子達から個別チャットが飛んでくる。
みぃみる☆さんをどうにかできないか、と……。
皆遠回しに言うがみぃみる☆さんがダンジョンに行く時は。
外部のギルドから呼んだ人で固定メンバーを作り。
ゆりちゅさん以外には定員オーバーだからと断り。
ギルメンのPTには誘っても参加してくれない。
これではギルドの意味が無いじゃないかと。
今日もゆりちゅさんとみぃみる☆さんは二人でずっと固定PTを組んでいる。
ゆりちゅさんが、誰に恋しようと悔しくない。
それでもみぃみる☆さんが問題を抱えている事は疑いようのない事実だった。
ギルドの事を考えて僕がみぃみる☆さんに注意をすると。
「別に私は他の人は排除して無いですよ」
と言いながら。
1回か2回は他のメンバーを誘うが心証が悪いのか人が集まらない。
するとすぐに。
「皆さん誘っても来なかったんですよ~」
と他ギルドのメンバーを集めてしまい、みぃみる☆さんは変わらない状態だった。
僕は問題のPTに参加させて貰ったことはあるが。
ゆりちゅさんをべた褒めしている。
みぃみる☆さんは褒める言葉をよく使う。
「わぁ、素敵、すごい、すごい、かっこいい」
ゆりちゅさんと恋人になるのなら仕方ないと思ってた。
みぃみる☆さんは僕にも誘ってくる。
ゲーム内だけじゃない、近くに住んでるからリアルで会おうと言ってくるのだ。
「ナツメさん、できないの~、私一生懸命回復するね」
確かに僕も可愛いと思う、その態度を誰にでもやらなければ。
彼女はネットの晒しスレッドで話題になっているらしい。
できればギルメンの事は平等に扱いたい、追い出す確たる理由もないのだ。
それでもゆりちゅさんに対して露骨な。
二人っきりのデートと称したPTが組まれる。
「私が居ると何故か女の子にやっかまれちゃうの、どうしてだろう?」
「なら私が守ってあげますよ」
「きゃーゆりちゅさん大好き―」
見た目だけなら可愛い女の子が二人で戯れているのだ。
一体何を見させられているんだろうか。
僕が誘う事でなんとか一緒に組めた子は僕に高確率で言う。
「ごめん、みぃみる☆さんの甘ったるい喋り方、気持ち悪くて無理なんだけど」
「え? 僕は可愛いと思うけど」
喋り方は個人の感性だから我慢してと言いたいが……。
ギルドメンバーの女の子達からの評判は最悪だ。
問題は続いた。
サブマスターの「たかしのカーチャン」さんだ。
冗談でカーチャンと呼ぶと。
「俺は貴様の母ではない」って答えてくれる、僕よりもノリがいい人だ。
「ナツメさん、実は相談が結構あるんだ。
ゆりちゅさんとみぃみる☆さんについてなんだけど」
また、その話か。
「知ってるよ、一応注意はしてるんだけどね……」
「みぃみる☆さん、ギルドクラッシャーって呼ばれてるけど大丈夫か?」
「そうなの? それは起きないと思うよ。
僕はみぃみる☆さんの事を特別視してないから」
「金銭要求されても渡すなよ?」
「渡さないから大丈夫じゃないかな」
確かに可愛いけど、僕がみぃみる☆さんだけを優先したりはしない。
噂に聞くようなギルド崩壊は起きないだろう。
そう思っていた矢先に個別チャットが飛んできた。
「黙っていようと思ったけど……やっぱり言います。
実はちょっと前の出来事なんですが。
みぃみる☆さんに彼氏を盗られた事があって」
ギルドメンバーの「まとマト」さんは。
1週間前に。
学校が忙しくなってINできなくなって引退した「銀河三郎」さんの彼女だ。
「私がフラレただけなら、嫌だけど。
好きとか嫌いとかは恋愛の話だから仕方ないと思った……でも。
みぃみる☆さんはゲーム内で有利になるよう媚を売ってるんです。
もっと強い人、ゆりちゅさんの関心がひけたらその途端に。
私の元カレもすぐにフラレたみたいで。
実際ナツメさんにも声かけてたでしょ?
人の感情を利用するんです、どう考えても良い事じゃないですよね?
だからギルドクラッシャーって言われてるんだと思います。
私、みぃみる☆さんを見てるのが嫌なのでギルドを抜けようと思います」
確かにメンバーの囲い込みに近い動きをみぃみる☆さんは行っていた。
可能性を考えた、ありそうな話ではあったが。
ギルドマスターとしては「まとマト」さんの話を鵜呑みには出来ない。
僕は他の皆の意見も聞いてみようと思った。
「ごめんね、みぃみる☆さんの事は僕も思う事はあるけど。
今の段階ではギルドの規約違反でもない、感情としての好き、嫌いは。
僕が言ってもギルドとして変えられる話じゃないから。
……でもその状況なら一緒にゲームするのは辛いよね。
状況が変わったらいつでも戻ってきてね」
ギルドから人が減っていくのを僕は止められなかった。
アクティブは29人になった。
次に僕が話を聞いたのはネナベの「クラウド」さんだ。
サバサバした喋りが特徴的だけど人を悪く言う人では無いと思う。
「なに? ナツメさん」
「みぃみる☆さんについて聞きたいんだけど」
「あの子か……一回だけ誘われたよ、女だとわかってからは来なくなったけど」
「クラウドさんは何か知ってる?」
「やっぱり問題あった? ちょっと露骨だよね、ゆりちゅさんと」
クラウドさんは当たり障りない話で濁されてしまったが。
ゆりちゅさんの事はやっぱり問題のようだ。
その次に聞いたのは「竜神」さんだった。
対人スキルの研究が大好きで一日中PVPをしていた。
みぃみる☆さんはダンジョン攻略が好きだから会話してる所は見たことが無い。
「俺、苦手なんだよね、べたべたした女、姫プ目的だろ?
純粋にゲームやりにきてるから邪魔なんだよね。
それよりナツメさんスキルの検証手伝って貰っていい?
この説明だと追加で5%って書いてあるんだけど。
確率なのか威力なのかわかんねーんだよ」
「うん、いいよ」
この後、僕は竜神さんの気が済むまで検証を徹夜で付き合った。
みぃみる☆さんの何が問題になっているのか。
僕は、広く皆から意見を聞いて情報を精査する為に。
古参のメンバーを呼んでグループ通話を行ってみた。
「ぶっちゃけ、やばいよね、姫プだと思うんだけど。
抜いたほうがいいんじゃね?」
ギルドとして一番にみぃみる☆さんの除名を僕に勧めたのは「リアリス」さんだ。
「でも今は何かした訳じゃ無いよぉ……」
消極的なのはギルド、二人目のネカマ「律」さんだ。
「まとマトさんの彼氏云々は。
銀河さんが勝手に好きになっただけの可能性あるからさ」
半信半疑なのは「銃剣」さんだった。
「……知ってるけど、言っても平気?」
少し不安そうに言い淀むのが「麦茶」さんだ。
「麦茶さん言っちゃえ、言っちゃえ、言わないと始まらないよ?」
それを後押ししたのは「天音ちゃん」さんだった。
「皆で協力してやってる毎朝のギルドクエストやってるの見た事無いの。
協力はしないのに報酬だけ貰ってる。
義務って訳じゃ無いから、人それぞれだからとは思うけど」
「麦茶」さんは思う所を吐き出した。
「居る意味なくね?」
強い言葉で排除を促すのは「リアリス」さんだ。
「それな! なんだかんだ皆やってるからどうかなって思うな」
「天音ちゃん」さんは同意なようだ。
結局そのまま雑談で脱線して3時間無駄に喋った。
「でも久々かもね、初期メンバーじゃね?」
「リアリス」さんは喋り倒して嬉しそうだが。
そろそろ本題に戻って貰うべきかもしれない。
「それで、みぃみる☆さんの事なんだけど。
困った人ではあるけど、追い出す程じゃないんだ」
「ナツメさんの言う通りかな……。
何もないのにギルドを抜けて貰うのは無理だと思う」
「律」さんは反対派のようだ。
「とりあえず言えば改善するなら、参加して貰えばいいと思うかな」
「銃剣」さんは中立を貫いている。
「みぃみる☆さんは、PT男だけなのもだけど。
ゆりちゅさん以外のギルメン放置して。
他ギルドのメンバー誘うのが問題だよ」
「そうそう、だめだってそんな奴」
「天音ちゃん」さんと「リアリス」さんはみぃみる☆さんが気に入らないようだ。
無言になってしまった「麦茶」さんは恐らく中立だろう。
「とりあえず声をかけて僕は様子を見ておこうと思う」
僕のこの言葉でグループ通話は終了となった。
個別チャットで「リアリス」さんからメッセージが届く。
「改善されないならギルドの意味無いから~って理由つくっしょー」
「リアリス」さんは追い出したくて仕方ないらしい。
翌日僕はみぃみる☆さんにお願いをしてみた。
「みぃみる☆さん、ギルドクエストは参加して貰えるかな?」
「わかりました、やりまーす」
あっさり了承をした、返事だけじゃなく。
みぃみる☆さんはちゃんと毎回、参加するようになった。
追い出す理由を僕は失ったんだ。
仕方なく僕は直接ゆりちゅさんと話す事にした。
「ゆりちゅさん、ちょっと聞いても良い?」
「何ですか、ナツメさん」
「みぃみる☆さんと付き合ってるの?」
「それはないですよ」
「こんな事を言うのは心苦しいんだけど、みぃみる☆さんの事で話がある。
正直、ギルドに居る意味無いんじゃないかって言う人が居るんだ。
外部のギルドの人達とだけPTを組んでる状態が続くのは……」
「でも、みぃみる☆さんはギルメンを誘ったりもしてます」
「そうじゃなくて、みぃみる☆さんが募集した固定メンバーで。
主体がこのギルド、ヴァルハラじゃなくて外の人達になってる。
他のギルドの人達が4人集まってる状態で1人加わる状況は何か違うよね。
その中にゆりちゅさん以外入りたがる人が居ると思う?」
「それ言われちゃうと否定できませんけど。
みぃみる☆さんが誘うこのPT効率良いんですよね。
ギルメンには申し訳ないけど効率重視してしまいます。
単純に美味しいんですよね、ギルメンがどう思うかは正直考えてませんでした」
「本当を言えば、僕が口出しする事じゃ無いと思ってる。
ゆりちゅさんを囲い込んでるように見えるのが問題に思う。
みぃみる☆さんは強い人が現れると簡単に誘う相手を変えるらしいんだ」
「誘われなくなったらその時ですね」
「誘い方が問題で……色恋を使うって噂があるから。
損得で恋愛感情を弄ぶような性格らしくて。
もし付き合ってるなら確認しておくべきだと思ったんだ。
実はそれで引退した人も居て、みぃみる☆さんの除名も考えているんだ」
「そういう部分はあると思います。
言い寄られても自分男なんで嫌な気はしないですが。
まあ、ナツメさんのギルマスとしての判断を尊重します」
ゆりちゅさんは恋愛感情は抱いてなかったようだ。
少しだけ安心した。
「天音ちゃん」さんと「リアリス」さんが結果を聞きに話しかけて来た。
「僕が話しても、ごめん、意味無かったよ」
僕が答えると二人はあきれた様子で返事をした。
「当たり前だよ、だって……ギルマスは男、意見を聞くに決まってる」
「むしろナツメさん狙われてね?」
「みぃみる☆さんは無自覚だから厄介だよね」
「ギルドを壊そうとして動いてるんじゃなくて結果で壊れてるから」
みぃみる☆さんは僕の意見は全肯定になってしまう。
それじゃあ僕にできる事なんてないじゃないか。
ああああああめんどくせええええええええええ。
夜だ、みぃみる☆さんがダンジョンのメンバー募集を始めた。
「おっ、俺入るわ、二人イケる?」
珍しく入りたがる人が居た。
普段「へたれナス」さんと二人で行動してる「漆黒の魔王」さんだ。
「先に約束しちゃったからあと一人だけなんですけど」
みぃみる☆さんの募集枠はいつも一人だけだ。
「なんでギルドの奴ら優先じゃねぇの、おかしくね?」
「私が代わりに抜けましょうか?」
ゆりちゅさんが気を使ってくれたが。
「ええ~ゆりちゅさんが居なくなっちゃうの?
だったら今日、募集やめようかなぁ」
みぃみる☆さんは。
ゆりちゅさん以外とは組みたくないのかもしれない……。
その態度をみた「漆黒の魔王」さんは怒りを露にし。
「なんだよそれ……みぃみる☆、お前何様なの?」
「漆黒さん怖い、ゆりちゅさん助けてください」
みぃみる☆さんは何故かゆりちゅさんに助けを求めだしたが。
「えっ、えっ、なんですか?」
ゆりちゅさんは困惑している。
「お前みたいな女大っ嫌いなんだよ、もう抜けるわ」
そう言って「へたれナス」さんと「漆黒の魔王」さんの二人はギルドを抜けた。
……ギルドを抜けたのだ、僕は急いで話を聞く為に。
「漆黒の魔王」さんに個別チャットを飛ばした。
「どうして、ギルドを抜けたのか聞いても良い?」
「マスターのせいじゃないし、ごめん」
「うん……」
「俺らのわがままだから理由は言いたくない。
アイツむかついたから無理、俺とナスは抜けるわ」
「そっか、わかったよ」
僕は「へたれナス」さんにも個別チャットを飛ばした。
「なにかあったの?」
「漆黒さんはキレちゃったから俺らが悪いって言うけど。
募集の仕方が気に入らないんだと思う、まあ俺が弱いのが悪いんだけど。
みぃみる☆さんは、多分、弱い人、入れたくないんだと思う」
「えっ、どういうこと?」
「人の事悪く言いたくないんですが、一人しか募集してないだけじゃなくて。
ゆりちゅさんが抜けると、みぃみる☆さんは募集辞めると言ってみたり。
結局辞めないでやるんですが。
常にゆりちゅさんが居ればと比べる様な発言が多くて。
結構その、漆黒さんはそれが嫌みたいで……。
今回はクエストがあったのでやりたいって。
俺が言っちゃったから無理して参加しようと思ったんだと思います」
「何もできなくて申し訳ないです」
「いやいや、こういうのは、しょーがないし。
相談もしないで抜けたんで気にしないで下さい。
ギルマスに問題は無いんで」
「へたれナス」さんは確かに強い人とは言えないプレイヤーだ。
何か冷遇されるようなことがあったのかもしれない。
事情を深く知る事はできなかった。
二人抜けた、アクティブは残り27人だ。
個別チャットが飛んできた「麦茶」さんだ。
「ナツメさん今いいですか?」
「大丈夫ですよ、なにかありましたか」
「実は友達をうちのギルドに誘ってみたんですが。
その子にみぃみる☆さんが居るからって断られちゃったんです。
それだけなら別に何とも思わなかったんですが」
誰かが居るなら行かない、よくあることだ。
「その子、前のギルドがみぃみる☆さんの行動と言動で崩壊したみたいで。
今の状況によく似てるので伝えておこうと思ったんです。
その子のギルドは、みぃみる☆さんに恋したギルマスが。
かなりの金額貢いで、そっちも問題なんですが。
みぃみる☆さんはそれ以外にも。
強い人をギルドから引き抜いてたみたいなんです」
「それってまさか」
「憶測なので言い切れませんが……強い人ですよね、ゆりちゅさん」
「麦茶」さんからの言葉は濁されたが引き抜き勧誘が目的かもしれなかった。
個別チャットがまた飛んできた。
サブマスターの「たかしのカーチャン」さんだ。
「ナツメさん、俺も色々相談されてるけど。
このままだとまずいよ、辞めそうな人が多い」
サブマスターだ恐らく相談が。
僕と同じくらい飛んできたのだろう。
「皆、みぃみる☆さんが苦手みたいだね」
みぃみる☆さんは今の所、噂ばかりで決定打が無い。
皆が一緒に居たくないと思ってしまう人だ。
僕の心は除名したくてしょうがなかった。
今日もみぃみる☆さんの除名理由を探す事になる。
個別チャットが飛んできた、「クロネコ」さんだ。
今は情報が欲しかった、めんどうだけどありがたい。
「みぃみる☆さんが話す度に空気が悪くなってくの。
そういうのからギルドを辞めて貰う事はできないの?
なんなら私がガツンと言うよ?」
「そうだよね、ごめんね、でもギルメン同士で言うと。
揉め事が大きくなっちゃうから少し待ってて欲しい、僕も考えるよ」
特に気にしてない人からも否定が入った、これはだめだ、もう限界かも知れない。
僕はサブマスの「たかしのカーチャン」さんと話すことにした。
「明確な理由がなくても、みぃみる☆さんには。
そろそろ抜けて貰う方が良いかも知れない」
「俺はそれで良いと思うよ」
「自分から辞めて貰えれば一番良いんだけど……」
「難しいだろうな」
僕の一存で追い出せば角が立つ。
でもせっかく引き継いだギルドを崩壊させたくもない。
また、みぃみる☆さんの事で愚痴が出るのだろうか。
慕ってくれるギルメンには悪いが最近少しログインするのが億劫だ。
また個別チャットが飛んできた「りしゅる」さんだった。
「ナツメさん、ギルド抜けたいです」
「急にどうしたの?」
「みぃみる☆さんたまに、仲良くする価値ないとか。
ちょっと暴言を聞いちゃったことがあって。
やめるように言ったら。
りしゅるさんが虐めるってゆりちゅさんに言いつけたりして。
私が悪者にされてるみたいでちょっと悲しくなったので。
……しばらくソロに戻りたいです」
「まじかー……抜けられるのは正直寂しいけど、わかったよ」
決意は固いようだった。
僕には引き留める言葉が見つからなかった。
言わないだけで、思ってる人は多いのだろう。
考え事をしながら街マップを移動していたら。
偶然、ゆりちゅさんとみぃみる☆さんが居た。
二人で会話をしているようだ。
甘えるようにみぃみる☆さんは抱き着いた。
「ゆりちゅさん、二人でギルドを作りませんか?
私の事助けてくれる人集めてるんですよ」
「私はこのギルドが好きだから他に作るのは難しいです」
「えー私の事好きじゃなんですか?」
「もちろん好きですよ」
「こんなギルドより絶対良いギルドですよ。
ゆりちゅさん以外、雑魚しか居ないじゃないですか」
僕は二人に近づきこう言った。
「盗み聞きする気はなかったけど……。
ギルドの事を悪く言うのは無視できないな」
「えつ、あっ、ナツメさん違うのちがうの」
助かった、個別チャットもあるゲームでオープンで会話してくれた。
やっぱり、みぃみる☆さんの目的は、ゆりちゅさんの引き抜き勧誘だったんだ。
「みぃみる☆、お前は除名だ、もう二度と皆の前に姿を見せるんじゃねぇ!」
これで、やっと僕は除名ボタンを押す事ができる。
彼女の名前がギルドリストから消えた。
ゆりちゅさんが連れて行かれないで済んだが。
きっと彼女は他のギルドで同じ事を繰り返すだろう。
ギルドマスターをやって思った、姫プの女性はギルドを崩壊させると。
今回僕は何とか崩壊を食い止める事ができたと思う。
運が良かっただけだが……。
みぃみる☆が抜けた後それを知ったギルメンも少しずつ戻ってきてくれた。
その後、僕はギルドの規則に一文追加する事にした。
姫プ、囲い込み行為は禁止です。
あとがき。
救いがない例え話。
みぃみる☆さんが勧誘を外部に聞かれないように行った場合。
ギルド内にみぃみる☆さん擁護の親衛隊が居た場合。
ギルマスが決断できず追い出さずに話を濁し続けた場合。
ギルマスもみぃみる☆さんが好きになってしまった場合。
話は更に拗れ、高確率でギルドは崩壊していきます。