02 避難
なんだか最近、うちの乙女たちの様子が少々おかしいよな、
などと考えながらも、サイリさん宅に鋭意避難中の、僕。
「なるほど、最近のフォリスさんは、かくの如く、らぶがコメってコマった状況だと」
上手いこと言って茶化さないでくださいな、サイリさん。
本当に困ってるんですから。
「でも僕としては、フォリスさんならいずれこうなるだろうなってことは、とっくに予想済みでしたし」
「それこそモルガナさんみたいな未来予測も必要ないくらいの、当然の成り行きってやつですよ」
「えーと、"名峰の名水が、美味しい井戸水を有する人里から求められるが如し"、でしたっけ」
ひどいなあ、僕なんかにはサイリさんみたいに余裕たっぷりな"らぶらぶ過剰生活"なんて、無茶振りもいいとこですって。
「なんだか今日は」
「そこのふたりのらぶらぶ自慢を見せつけられると」
「めっちゃやたらとイラッとさせられる、なり」
……こんにちは、モルガナさん。
お元気そうでなにより、です。
「まあ、フォリスさんの来訪により」
「サイリウムが安定して大量継続放出されることだけが」
「今日ここに居ることの唯一の旨みなり」
お褒めに預かり光栄です。
「皮肉も通じん鈍感小僧に」
「何ゆえ乙女たちが群がるのか」
「心底理解不能、なり」
えーと、もしかしてモルガナさんも群がってきちゃった乙女さん……
つねりっ
痛ぇっ、
「"仲良き事は美しきカナブンのつがいの如し"ですね」
「結構お似合いですよ、おふたり」
虫に例えるのは勘弁ですよぅ、サイリさん……
モルガナさんも、おイヤですよね、虫扱い。
「『リグラルトレイピアカブトムシ』のような立派でカッコ良い虫さまなら」
「望むところっ、なりっ」
……なんですかね、極一部の方々には妙に人気ですよね、あのカブトムシ。
「最近の乱獲ブームは」
「嘆かわしくて憤りまで」
「感じちゃうっ、なり」
変なところで言葉を区切らないでくださいな、乙女なのに。
「乙女だって夢中にならざるを得ないあの勇姿」
「あれこそが虫界の王、『リグラルトレイピアカブトムシ』なりっ」
はいはい、今度カブトムシの王さまに会う機会があったら、
素敵な乙女ファンが募る想いを熱く語っていたって、伝えておきますね。
「カブトムシの王さま……」
モルガナさんが、なんだかうっとりしちゃってるんですけど。
これって大丈夫なのですか、サイリさん。
「えーと、こんなモルガナさん、僕も初めて見ます」
「まあ、"好きこそものの上手の手から水が漏れる"って言いますし」
「カブトムシ大好きな乙女がいたって、全然オッケーですって」
「そもそもモルガナさんって、我が家で一番変な態度のヒト、略して"変態"ですし」
づねりっ
超イテェッ!
てな感じで、サイリさんの悲鳴を聞きながら、
のんびりお茶を楽しむまったり時間の心地良さ。
相変わらずの幸せ家族なのです、
これがサイリさん宅の平常運転。
あれ? こんなワヤ感が平常運転でしたっけ。
もっと平穏なお宅だったような……
それはそうと、家長である僕がたまーにやらかすくらいで、
我が家だって負けず劣らずの幸せ家族なのです、
今は避難中ですが。
いえ、最近本当に、僕の周りは平和そのものなのですよ、
避難原因の乙女トラブルに目をつぶれば、ですが。
「それって完璧にフラグですよ、フォリスさん」