14 処置無し
ただ今、僕とアランさん、ふたり並んで、正座待機。
場所は"男たちの挽家"こと、旧シナギ邸。
目の前には、けんちゃんとアヤさん。
けんちゃん、呆れ顔、
アヤさん、静かに、お怒り。
現在この場所は、何人たりとも侵入不可のけんちゃん結界にて、外界から隔絶中。
で、厳しいお説教の真っ最中。
例の秘匿ノートの存在をいち早く察知し、世間様にバレる前に処置しちゃうとは、さすがは『鏡の賢者』けんちゃん。
この世界を揺るがす異物の存在は捨て置けぬという、まさに世界の管理者としての面目躍如。
そして物理的手腕で『収納』庫をコジ開けちゃったのは、アヤさん。
とてもとてもお怒りなのです……
「さすがにコレは放置出来ませんでしたよ、アランさん」
「データ集は破棄させてもらいましたが、問題はアランさんの記憶、ですね」
「やはり完全消去処分が妥当、でしょうか」
「どうしましょう、アヤさん」
アヤさん、無言ですが、部屋の空気を震撼させるほどの、"圧"
リスト爺ちゃんが言ってたこと、心の底から理解できました……
「……俺は全てを受け入れるので、フォリスさんの方は、どうか穏便に願います」
「フォリスさんは本当に巻き込まれただけで、この件には一切の責任も罪も無いのです」
アランさん……
「……分かりました」
「ただ、今後二度とこのような問題が起こらないよう、おふたりには然るべき処置を施さざるを得ないのです」
「"『鑑定』まなこ"という特殊技能、おふたりから永遠に消去させてもらいますね」
僕とアランさん、平伏。
「本当はアランさんには、人格を極端に歪めない程度の矯正措置を施させてもらうはずだったのですが」
「どうやらどう処置してもアランさんがアランさんらしさを失ってしまうというシミュレーション結果となるようで」
「つまりは、アランさんのご家族や友人方への影響が大きすぎて、うかつにイジれないという困った状況なのです」
えーと、要するに付ける薬が無いほどにアレだと……
「幸いにしてこの件は僕たち以外には知られてはおりませんが、今後は同様の事件を起こさないよう、もう少し考えて行動してほしいかなって」
「この世界にあまり干渉したくは無いのですが、なにせ影響が大き過ぎる事案は、ほっとくわけにもいかず」
「対処するしないのどちらを選んでも世界の有り様が変わってしまう今回のような問題って、本当に困っちゃうんです」
いやもう、ただただ、土下座あるのみ……
「記憶の改変で対処すると、また同様の事件が繰り返される可能性があり」
「かといって性格・性癖の改変も出来ず」
「もう、おふたりに反省していただくほか無いのです」
「というわけなので、本当にお願いしますね、おふたりとも」
「本当はフォリスさんには、こういう時のアランさんのストッパーになって欲しかったのですが……」
本当に申し訳ありませんでした……
---
そうして、アレ過ぎる事案もなんとか解決。
いやもちろん、真の解決のためには僕たちが反省の気持ちを忘れずにいることが大事だってこと、
骨身に染みておりますとも。
こうして待望の穏やかな日常が戻ってきたのです。
めでたしめでたし。
ーーー
「フォリスさん、少々相談事があるのだが」
はい、シュレディーケさん。
僕にできることでしたら何なりと。
「実は、アランさんの奥方たちから相談があってだな」
……
「最近、夫のアランさんが妙に優し過ぎる、と」
「以前なら即座にモーションを掛けていたような素敵な女性と出会っても一切目もくれず」
「奥方たちにのみ優しさを注ぐようになったとか」
…………
「正直、異常としか思えない行動であると、奥方たちが大層心配されていてな」
「友人方全員を訪ね歩いているそうだが、もしフォリスさんに何か心当たりがあるようなら、是非奥方たちを安心させてあげてほしい」
……僕もとっても心配ですので、アランさんのところに行ってみますねっ。
まさに、けんちゃんの言っていた通り、
どっちに転んでもってヤツなのですね、アランさん……
その後、少しずつ以前の調子を取り戻していったアランさんがやらかした大騒動は、
また別のお話し。




