第8話
翌日。いつも通りに食堂を訪ね、キノコを渡して定位置に収まる。
「注文は」
ぶっきらぼうに尋ねてきたのは、ダークエルフの若い女性。それとウェイトレスの姿がミスマッチで、一瞬言葉を失う。
「……シチューと、パン。それと、猫耳の人は?」
「2号店の準備で忙しい」
店長もだが、このウェイトレスも相当。というかあの猫耳のウェイトレスだけか、愛想が良かったのは。
少しして、こればかりは丁寧にパンとシチューがテーブルへ並べられる。
「……どうかしたのか」
俺が食べる所を監視でもしていたのか、ダークエルフが大きな胸越しに俺を見下ろしてきた。
「味が違うなと思って。これはこれで美味しいけど」
「昨日まではあの子が作ってたから。それに気付いたのは、お客さんが初めてだ」
「……追加で何か、辛い物を。それとジュース」
「待ってろ。すぐ持ってくる」
斬新な接客のダークエルフを見送り、シチューを飲み干す。彼女に答えた通り美味しい、ただ俺にとっては味気ないシチューを。
朝食用のパンとチーズを受け取り、いつもより早く食堂を出る。
元幽霊屋敷の前を通ると、その周りに人が集まっていた。目に付くのは勇者とその一行。そして猫耳のウェイトレスも、その輪の中で笑っている。夢へと近づき不安と、それを上回る期待に満ちた顔で。
俺は早足で通り過ぎ、無論声を掛けられる事も無く街を後にした。
その後も毎日食堂へ通うが猫耳のウェイトレスは姿を見せず、やがて2号店開店の話が伝わってくる。
話がスムーズに進んだのは勇者の力も大きく、何しろ今やこの土地の領主。許認可については彼が指示をすれば、それが全てまかり通る。
「野菜も食べろ」
俺が注文したのはパンとシチューだが、ダークエルフはそれとは別に生野菜が山盛りになった皿を運んできた。
ドレッシングが掛かっていて食べられなくは無いが、喜んで食べたい類いでも無い。
「2号店は、今どうなってる?」
「先週開店して、勇者達も手伝ってるらしい。あいつも、お前に来て欲しいと言っていた」
「分かった。明日、向こうに顔を出す」
寄らば斬るみたいな雰囲気を漂わせたダークエルフのウェイトレスを見送り、食事を食べ進める。
全ては俺の書いたシナリオ通りで、自分で決めた話。誰でも無い、俺自身が望んだ事だ。