第十七話 三河の製造力②
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なお、送り仮名は、どちらでも良い場合は、分かりやすくする為、多めになっている事がありますが、誤字では無い事もあります。誤字の場合は修正し、誤字じゃない場合は、ルビで対応しようと思います。
日ノ本における鉄砲の伝来は、天文十二年種子島にポルトガル人を乗せた中国の船舶が漂着した事を最初としている。しかし、それは西欧由来の銃火器の伝来であって、本当の意味での鉄砲の伝来ではない。それよりも約八十年前には別の名前で伝来しているのだ。威力が足りなくて廃れたとされているそれは、“火槍”と呼ばれる中国から伝来した銃火器である。
坊丸は、尾張にいた頃に“火槍”を取り寄せて改良を始めていた。坊丸の改良は施条・遮音である。施条つまりはライフリングであるが、甚左衛門の息子が持っていた前世の記憶の鉄鋼業知識のおかげで、割とすんなり作る事に成功した。あとは遮音だが、何故そうしようと思ったかというと黒色火薬の爆発音は大きく、難聴防止の為に考えたに過ぎない。しかし、サイレンサーの構造は先の知識でなんとか出来ても黒色火薬を使う段階で、あまり効果が期待できない為、本格的な実験は三河統治以降となった。
その理由は綿花生産にある。綿花生産は、三河で貫高制移行の為に必要な事として、表向き導入したのだが、裏側にはセルロースの製造の概念があった。綿の殆どはセルロースの成分と言って良く、加工して販売に適さない廃棄物で製造可能だった。これもやはり甚左衛門の息子の知識で、化学知識の方で作れるようだったから、硝酸作りと硫酸作りと並行して、小角衆が防諜する囚人村で作製を行っていた。
昭和・平成・令和を生きた坊丸であっても、さすがにこの時代の犯罪者に人権があるとは言わなかった。そんな事を言っては統治が成り立たない。戦がなくなれば考えようとは思っていたが、今ではなかったという事だ。そういった犯罪者のうち、軽犯罪を除く犯罪者たちは、この山奥に作った囚人村に集められ、危険な仕事に従事させられた。死ねば硝丘行き、生きていても硝酸か硫酸で大怪我をするから、ほぼ元の場所に戻ることはなかった。
さて、暗い話はここでやめよう。遮音・無煙火薬ではない鉄砲の量産体制自体は天文十一年七月には整っており、今二千五百丁以上を保有している。こちらは、今後販売用に移行する事になる。
そして、四国攻めを前にして、ようやく無煙火薬が作れるようになり、遮音銃が出来たと報告を聞き、坊丸は職人村の一つに来ていた。無煙火薬と言っても全く煙が出ないわけでない。黒色火薬に比べて煙が無いから無煙と称されているだけだ。そして遮音銃とは言っているが、火縄銃に比べて音が少ないだけで、撃てば鹿威し程度の音はする。間近で聞けば馬は驚くが、火縄銃ほど暴れる事はない。勿論、初めて日ノ本で作られた銃よりも性能は良い。
その遮音銃の射撃実験の為に、この村に来た。なお、従来の火縄銃の複製自体は天文十四年の事なので、来年根来で行われるだろうが、今年の戦でお披露目されたら、津田監物はどう思うだろうか?昨年種子島で銭一千貫も払って一丁買ったと小角衆が掴んでいる。言ってくれれば、一丁くらいなら百貫くらいで売ったのに。こちらは既に量産体制も整っている。その上で、改良開発を行なっているのだ。文句を言って来たら、その時に対応すればいいか。
つらつらとどうでもいい未来を考えながら村の中を進むと、鈴木飛騨守が近寄って来た。此奴雑賀衆の架空の軍師扱いだったので軍略方に放り込んだのだが、流石は雑賀孫市重兼(鈴木重秀の兄)の養父なだけあって、鉄砲が好きなようだ。空席の鉄砲士隊長にしようかと本気で迷う所だ。
「若!これは良いですな。戦術の幅が広がりまする。」
「量産はいけそうか?」
「今年中には、十数丁が限度でしょうが、越後や北関東に行く頃には、良い数が揃うでしょう。」
此奴は、既に四国切り取り後の戦略を練っているようだ。軍略方で良いのか?直接聞くか。
「ふむ。飛騨守、其方は鉄砲士隊長をやりたくはないか?」
「むむむ。魅力的な提案ですが、体を動かすより頭を働かせた方が好きですので、軍略方に置いて頂きたく思いまする。」
「ほぉ。なら誰が良い?」
「植松平大夫が頭一つ抜けた感じですかね。」
「分かった。」
「最新式ではない鉄砲の生産量はどれくらいだ?」
「経済方からの報告によれば、鉄砲職人一家あたり月に四十丁まで伸びたとの事。鉄砲職人は五家ございます故、今月末には二千九百丁いきましょう。」
「経済方に今の鉄砲職人家はその数を維持するよう伝えよ。最新式のみを作る家を五家以上作るようにともな。そうだな、一番に月生産四十丁に持っていけた家には五百貫の報奨金を与えてやれ。」
「ふふふ。良い方策かと。」
「そして、兵部方には最新式が三千丁を超えた時点で、旧式は販売に回すと伝えよ。軍略方もそれを考慮して戦略を考えるように。」
「ははっ」




