第十四話 坊丸の沸点
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なお、送り仮名は、どちらでも良い場合は、分かりやすくする為、多めになっている事がありますが、誤字では無い事もあります。誤字の場合は修正し、誤字じゃない場合は、ルビで対応しようと思います。
※2022/10/23から20時更新になりました。
「話してみよ。内容が分からねば、判断出来ぬ。自分で考えることを見せたのだ、再研修は無い。」
左京大夫の震えが止まったように見える。私の怒りを買いそうな返答だったのかと思えば、再研修が怖かったらしい。こいつは、二年間も研修に放り込まれていたからな。何か嫌な思い出でもあるのだろう。元絵描き大名にしては、ムキムキマッチョな左京大夫を怖がらせるとは。解せぬ。
「そ、それが。木曾家は三河守さまに従属したいと申しておりまして・・・。」
「ほぉ。」
「ひぃ。」
いかんな殺気が漏れたようだ。左京大夫も疲れていたのであろう。眠ってしまったようだ。息はあるから、永眠ではなくて良かった良かった。
「喜べ陸奥守。蹂躙して良い相手が出来たぞ。」
「ま、まずはその殺気をお収めくだされ。武官は良くても文官たちにはちときついかと。」
「それでも、間近にいた左京大夫とは違い、皆起きているようだが?」
「やっと、やっと耐えておるのです。研修の成果とお喜びくだされ。」
「ふぅ。すまんな。」
木曾家に対する方策は、上策は三河家に臣従、中策は本家に従属、下策は中立だと前に述べた。ここで問題になるのは、臣従と従属の違いだ。臣従とは、臣として従う、つまり家臣化だ。従属とは、大名家として従いつつ織田家に属することだ。
大名家としての家名を残したい気持ちは分からなくはない。しかし、三河家に従属しては駄目なのだ。三河家は分家である。同じ織田家だから良いではないか、切り取り次第があるから良いではないかと言うかもしれないが、それは違う。今の三河家も厳密には、織田家に従属しているのだ。そして、三河家には切り取る(滅ぼす)権限はあっても他家を従属させる権限はない。
つまり木曾家は、織田家に反旗を翻せと言っているようなものだ。まぁ、そこまでは言っていないにしても、織田家本家が侮られた事には違いない。当主信秀は親族大好きな種馬だが、大名としての威信は高い方だと思っている。侮る部分は無いだろう。とすれば、何か侮る理由がある。つまり、吉法師兄上が侮られたと理解出来る。
戦略上、他国に隙を作らせる為に、吉法師兄上にはうつけを演じて貰っている。ここにきてそれが仇となった形だ。冷静に考えれば坊丸の失策だ。だが大義名分にはなる。武家は侮られてはならぬのだ。
「ふぅ。落ち着いた。木曾への大義名分は得た。陸奥守、蹂躙してくれるか?」
「はっ。一人残らず滅して見せましょう。」
「木曾は山奥じゃ、民は大峰衆を使って侵攻までには退去させる。残っている者は敵よ。当主嫡男だけとかぬるい事は言わぬ。一族郎党、老若男女問わず滅せよ。」
「ははーっ。汚名はこの『狂虎』が受けまする。三河守さまは心安らかに。」
「君主たる者全ての責任を取るものぞと言いたいところだが。・・・、ふぅ。『主君の汚名を被るは家臣の誉れ』だったか?」
「さようにござる。」
「私はもう側室は取らぬと言ったが、撤回しよう。陸奥守、其方の未婚の娘がまだおらなんだか?」
「甲斐に四人おりまするが、出戻りと追放直前に生まれた子ですな。」
「出戻りの方は十七八だったと記憶しておるが、相違ないか?」
「さよう・・・?まさか?」
「横目半左衛門!」
「こちらに。」
「陸奥守の娘を連れてこれるか?」
「お主三ツ者の。」
「陸奥、蔑むな。」
「あ、いや、そういうつもりは・・・。儂らが使っておった・・・、あ、いや、儂らに仕えておった時の名称でござる。差別区別については研修でよーく学んでおりまする。再研修は不要!毎年の研修は十日で充分でござる。横目殿、よろしくお願いします。しからば、ごめん。」
「陸奥守待て待て待て。軍議の途中だ。まだ南信濃の件は終わっとらん。」
「ぐぬぬ。」
「半左衛門頼む。無傷でな。抵抗するなら眠らせよ。」
「ははっ。」




