第十話 出来ない男
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なお、送り仮名は、どちらでも良い場合は、分かりやすくする為、多めになっている事がありますが、誤字では無い事もあります。誤字の場合は修正し、誤字じゃない場合は、ルビで対応しようと思います。
軍議も終わり、古渡まで帰ろうとしていると、太田和泉守が近寄ってきた。武衛さまがお呼びだと言う。太田殿について行くと、既視感のある乗り物があった。江戸時代に身分の高い女性が乗ったと女乗物という、駕籠である。
駕籠の起源は古代まで遡るが、時代劇や観光名所で目にする駕籠の形になったのは、中世後期の頃だ。このうち、女乗物というのは、江戸時代に入ってからだと言われている。延宝五年に梅盛が著した、俳諧付合語集『類船集』にも「をんなのりもの」という言葉が見られる。特に漆塗りの施された駕籠や蒔絵の施された女乗物は身分の高い者しか乗れず、身分の低い者が乗る物は割と雑に作られていた。
何故既視感があるか。時代を先行して、職人村で作ったからだ。職人村とは稲熊・木下・小出を村長としている三つの村でやっている実験の一つだ。特区のようなものを作りたかった。商業特区(商業村)、工業特区(職人村)、軍事特区(駐屯地)といった感じにしたかった。そのうちの一つだ。軍事特区以外は成功している。まだ数年だ。それは仕方ない。三河に行ってから、また始めるつもりだ。
職人村では、図面に起こせるだけの、つまり『前世の記憶』にあるだけの図面を職人たちに作らせている。この『前世の記憶』であるが、覚醒が進むにつれて秀吉・秀政・利家になるはずだった転生者たちの記憶も補完されている。自分に無かった知識も多く重宝している。具体的には秀吉は成金のイメージなのか日本全国の鉱脈の在処と製図知識。秀政は転生者の特性なのか鉄鋼業と理系大学の化学知識。利家はこれも転生者の特性だろう自衛隊の生活を含むミリタリー知識。
さて、職人村の話に戻るとしよう。図面は武器・作事道具、発掘器具から始まり、駕籠や馬車などの乗物も含む。海が無いので軍用船や大型船は作れていないが、模型は作ってくれた。今後、佐治氏や三河遠江の海賊衆への交渉に使えそうな南蛮船の模型もある。勿論、川や池で航海実験は済んでいる。日本人の技術力(模倣力?)の高さを垣間見た。
そして、この女乗物だが、三河からのハーレム要員候補たちの乗物として、心を掴む一環として使ったものだ。勿論、三河に持ち込んではいない。苅谷あたりに置かせてもらって、古渡と苅谷を何往復したことか。その時の交渉で、下野守殿と嫡男の藤四郎殿にお会いした。
武衛さまは、この女乗物の中から、手招きしている。これに乗って帰ろうと言うのだ。ちなみに、職人村に注文すれば買える。しかし、高いはずだ。家紋の金箔は真鍮なので大した額ではないが、黒漆は高い。斯波家にそんな余裕はないので、大和守家か父が購入して献上したものだろう。まぁ、その売り上げは私の懐に入り、開発資金や常備兵維持に使うので、ありがたく思うことにしよう。
「坊丸殿、どうじゃ雅びであろう?」
「はぁ」
「ほほほ、作った側からすれば、雅びも鄙びもないか。」
「すいませぬ。」
「良い良い。坊丸殿と二人で話したかったのよ。」
「なんでございましょうか?」
「今世の坊丸殿は、勘十郎殿であろうか、三郎殿であろうかとの。」
「どういう意味でござろう?某まだ元服しておりませぬので、名は頂いておりませぬが?」
「本当にそう思っておるか?」
「はぁ、では本題を言うてくだされ、本当に意味が分からないのでござる。」
「え?あ、いや、本題は先程言った、『勘十郎殿であろうか、三郎殿であろうか』という事なのじゃが・・・。」
おそらく武衛さまは、転生者である事を疑っているのだとは思う。それを聞くということは、どういう種類か分からないが、武衛さまも転生者なのだろう。ここは事情を知っている太田殿に聞いた方が良さそうだ。女乗物の窓に手を掛けるとスッと開けた。
「そこ開くのか?」
「え?武衛さま、窓なのですから開きますよ?」
「飾りじゃとばかり。」
「ああ、それで御簾に変えてなかったのですね。自分で注文するとここが御簾にすることも出来るのですよ。」
出来ないと分かっていて、皮肉を言う。それよりも太田殿だ。
「太田殿、おられるか?」
「どうされました、坊丸殿。」
「武衛さまの通訳をお願い出来ないかと思いまして。」
「「ええ?」」
「言っている意味が分からないのです。事情に詳しい太田殿に通訳して頂けないかと思いまして。」
女乗物を止めて、太田殿も中に入って来ようとしている。この女乗物は一人用だ。購入者も密談に使うと思っていなかったのだろう。一人用は一番安いので、購入者は大和守と考えるのが妥当か。価格を考えないなら、二人用か四人用を購入するはずだからだ。武衛さまと私でもそこそこ狭いのにもう一人大人が入ったら窮屈だろうに。三河戦が終わったら、父か五郎三郎兄上を通して四人用を献上しよう。
「太田殿、狭くなるので私は一度出ます。」
「「ええ?」」
「まずは、何を聞きたいか確認してください。この中は狭いので。」
外に出て空気を吸う。ああ、おっさんが近くにいないだけで、空気がうまいよ。それにしても、おっさんと五歳児もヤバかったが、おっさんと元服直後の祐筆も不味いな。適性はないが、腐女子の喜ぶシチュエーションなのでは?と馬鹿な事を考えながら、二人の話し合いを待った。




