別視点 古渡に向かう者たち(子ども編)
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけると幸いです。
また、いつも誤字報告をしてくださる皆様、とても助かっております。自身でも確認はしておりますが、また間違うこともあるかと思います。その時はよろしくお願い致します。(ただし、誤字報告だけで、お願いします。)
なお、送り仮名は、どちらでも良い場合は、分かりやすくする為、多めになっている事がありますが、誤字では無い事もあります。誤字の場合は修正し、誤字じゃない場合は、ルビで対応しようと思います。
〜酒井小五郎side〜
尾張に向けて戦準備も残り二ヶ月を残したところで、私は父によって岡崎から呼び戻された。次郎三郎様の小姓としては、岡崎を離れる訳には行かないというのに、どうしてもと言われれば戻らざるを得ない。
「父上、何用でございますか?私も忙しいのですよ?」
「小五郎、ぬしは安祥家と心中したいか?それとも酒井家を存続させたいか?」
「心中?!何か掴んだのですか?」
「まずは答えよ。安祥家の為に死ぬか。酒井家の為に生きるかを。」
父は安祥家に先は無いと思おうということか。何か理由があるに違いないが、某は酒井左衛門尉家の嫡男。勿論、答えは決まっている。
「無論、酒井家の為に生きまする。」
「なら、教えてやろう。松平十八家のうち、宗家と三木以外の家は、織田のあるお方に仕える事にしたそうだ。我が家を除き、譜代のうち十七家も同様だ。」
「なんと!?それでは、安祥家は滅びますな。それで?」
「うむ、我が家もそれに倣うつもりよ。小五郎、ぬしはここで病となる。」
「ふむ。人質として、尾張に向かえと?」
「あの方は、人質を好まぬ。側近候補として迎えるとの事だ。」
「ほぉ、甘い方なのですな。」
「いや、違うな。『人質がおっても人は裏切る』とお考えよ。故に人質は要らんそうだ。」
「なるほど。しかしそれくらいなら誰でも思いつくのでは?」
「それが数えで五歳ならば、どう思う?」
「異端か大器か、どちらかでしょう。」
「儂は大器だと思うておる。ここ数年、安祥家は隣国はおろか三河の情報すらも、容易に手に入らなくなったと思わぬか?」
「さようですな。服部の者たちが行方知れずになって以来・・・、まさか?」
「そのまさかよ。それどころか、服部を含む四十もの忍び衆から忠誠を捧げられているらしい。」
「忍び衆が忠誠を?!それはそれは。分かり申した。尾張に向かいましょう。その方はもしや熱田明神殿では?」
「流石に分かるか。頼もしいぞ。」
父との会話を思い出しながら、尾張に入ったが、ただの隣国だと言うのにとんでもないな。農民たちが笑っておる。三河での農民たちは本当に苦しそうだ。やっと生活出来ている。これも熱田明神殿のご加護であろうか?ならば、是非とも三河にも恩恵をもらわねば。十八家や安祥譜代から側近候補を取るならば、その可能性もあるのだろう。嫡男はうつけと聞く。織田弾正忠家を継ぐ可能性もあるのではないのか?むむむ、それは自身で判断せねば。
恐ろしかった。あれは五歳児の眼力ではない。いや、怒らせた私が悪いのだ。あの御方は、吉法師様を大変大切にされていたのだな。そうとは知らず、どうしよう、側近になれなかったら酒井家、ひいては三河に来てくれないという事になれば・・・、あゝこんな凡庸な私をお許しください、父上。
〜松平鳴side〜
私は形原の松平鳴と申しますの。佐太郎兄上と一緒に尾張に向かいますの。人質だそうですわ。あ、違うんですの?ふむふむ。人質はお嫌いな殿様に、兄上たちは家臣になる為、私たちは嫁になる為にいくんですの?!その殿様おいくつですの?!兄上さま!流石に父上より年上ではないですよね?どーですの?!兄上さま!!
申し訳ありません。少し取り乱してしまいました。会ってからのお楽しみと言われました。もし父上より年上では、全く楽しくないのですよ?むしろ、憂鬱ですの。父上より年上では稚児趣味の方かもしれないではないですか。そうなると、兄上たちも家臣ではなく・・・つ、つまり、兄上たちのあられも無い姿が・・・ぬふふ・・・あーんな事や・・・げふんげふん。
申し訳ありません。夢を見ていたようです。しかも寝言まで吐いていたようで、送ってくださる方が、同じ年の方だと教えてくださいましたの。どーしましたの?兄上さま、先程まで手を繋いでくださってましたのに、少し遠い(物理)ような?まぁ、いいですわ。つまり、殿様のご子息かお孫様なのですね。女の方が大人なのだと母上や乳母たちに習いましたの。そんなお子ちゃま。私に惚れさせて見せますわ。他に何人いても大丈夫ですのよ。私の言う事しか聞かないようにしてみせますわ!
ここまで数日、たくさん歩きましたわ。形原は田舎ですのよ。山歩きは得意ですの。尾張からは籠?いえ違いますわね。凄く綺麗な箱のような、中は小部屋のような乗り物に載せてもらいましたの。あ、勿論、兄上は歩きですわよ。こ、これ、金ですの?!お殿様はどんなお金持ちですの?織田木瓜っていうんですの?お殿様の家紋ですわよね?お花みたいで綺麗ですわ〜。
※金ではありません。真鍮です。
綺麗なお部屋に集められましたの。兄上さまとは入り口で別れましたわ。たくさんの人たちが集められたのですわね。長沢のさわさまとか三木の姫さまとか同い年は三人ですの?他は・・・、全員で二十二人もいますの?!私の父上でもそんなに側室は居ませんのよ?どんなおぼっちゃまですの?!
はわわわ〜。なんてお綺麗な方でしょう。それでいて、凛々しいところもおありでしたわ。私の言う事しか聞かないようにとか言っていた過去の私を殴りに、オホホ、はしたない事を考えてしまいましたわ。しかし、同い年なのは良い事なのかしら?鴛鴨の鵲さまとか福釜の馥さまとか宮石の李さまとかに「お兄ちゃん」と呼んでねー。と凄い笑顔で言われてましたわ。眼福でございました。
お勉強ですの?美濃国からわざわざお越しの尼僧の方々が女性らしさから、武家の妻としての生き様から、勿論色事も、色々教えてくださるそうですわ。お寺みたいに坊丸さまに修行が終わるまで会えないなんて事はないようですが、出来るか不安ですわ。田舎者なのですよ?読み書きくらいは出来てもそれ以外は・・・、いけない!坊丸さまに誉めてもらう為にも頑張らないと!!
物語の都合上、松平広忠は安祥広忠、松平宗家は安祥家とさせていただきます。本来の宗家は岩津か松平郷になる為という理由と松平清康が岡崎を押さえていた為、宗家に見立てられたが実際は安祥家だったという理由からです。あくまで、物語の都合の為、史実とは異なる事を明記させていただきます。
ただし、他家側から見た場合は、松平広忠・松平某・松平家などにしてあります。
二段落目の
「父は安祥家に先は無いと思おうということか。」
の
思おうは
お思うの誤字ではありません。
ワ行五段活用の動詞「思う」の未然形「おもお」に推量・意志・勧誘を表す助動詞「う」がついた形です。




