第五話 謀議
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楽しんでいただけると幸いです。
また、いつも誤字報告をしてくださる皆様、とても助かっております。自身でも確認はしておりますが、また間違うこともあるかと思います。その時はよろしくお願い致します。(ただし、誤字報告だけで、お願いします。)
なお、送り仮名は、どちらでも良い場合は、分かりやすくする為、多めになっている事がありますが、誤字では無い事もあります。誤字の場合は修正し、誤字じゃない場合は、ルビで対応しようと思います。
坊丸は古渡城下に、館を一つ与えられていた。手がかからない事もそうだが、忍び衆を任されている為、城内では不都合な事も多い。また、信秀の庶子らも同居している為、別館でないと困るのだ。別に住む事について、父信秀は強硬に反対したが、吉法師が一緒に住むと言い出して、それを止めさせる為、協力した事で別に住む事が出来た。まぁ毎日のように吉法師は遊びに来るし、数日おきに父信秀も来る。城にいた頃とあまり変わらない。同居と言えば、土佐守の道場も快川和尚の禅室も併設したので、土佐守、快川和尚、宇駿、虎姫も同居している。あとは昨年登用した工藤兄弟も小姓として同居している。まだ軍功もないのだ。家を構えさせるにはちと早いと考えた。この館の周りには佐久間家、林家、山本家、浅井家、津々木家が配置してある。いつでも謀議が出来る環境だ。
「お帰りなさいませ、若。」
「ただいま、勘助。揃っているか?」
「はい。やはり三河の件でしたか?」
「そうだ。苅谷の下野守殿も知多の八郎殿と同じように知らせてくれたらしい。」
「下野守殿も坊丸様をだいぶ気に入ってましたからな。それと八郎殿から真珠の件、費用を全額負担してもらえるのならという話が来ましたぞ。まだ半信半疑ではあるようですが。」
「おお、やはり私より熱田衆を使った方が話が早かったな。他の札を使わずに済んだわ。」
「切り札は先に見せるな、見せるならさらに奥の手を持て。でしたか、流石です。」
---いや、つい言った言葉だけれども
---私の言葉みたく言うのは
---やめてくれません?
橘内・半三・弥四郎を手下にし、宇佐美駿河守と共に来た伏齅たちを忍び衆に加えてからは、その待遇のせいで全国から続々と忍びの者たちが集まった。信正叔父上に万を超すと伝えたが、頭目たちだけでも四十人になる。中には「もっと後の時代の人だよね?」とか「随分、前の時代の人だよね?」とか言いたくなる頭目もいるが、名前は世襲なのかもしれないので触れないでおいている。基本的には出身地を主に活動範囲にしてもらっているが、呼べばいつでも現れるので、配下だけを地元に遣わし、頭目たちは美濃・三河・遠江・伊勢の山々に拠点を構えているのだろう。流民たちで作った三つの村で普通に生活している者もいたが。
「さて予定通り、三河を攻める事になった。出陣は五月末。田植えなど急がせられるところは急がせよ。」
「はっ」
「三河の調略の具合を知りたい。どこまで奪れそうか?橘内。」
「松平宗家の不甲斐なさを煽りに煽った結果ですが、竹谷・形原・大草・五井・深溝・能見・長沢・大給・滝脇・福釜・桜井・青野(史実の東条松平)・藤井・合歓木(史実の三木松平)・上矢田・松平郷松平・岩津・鴛鴨(史実の西福釜松平)・宮石・上和田・西端・榎前・中・和泉がこちらにつくと。」
「ん?二十六家ある松平十八家のうち安祥家と三木(史実の鵜殿松平)を除く家を言われた気がするが?」
「さようでございます。以前安祥家に十八家の桜井家や譜代の酒井・石川などから所領を横領させましたところ、十八家内の不安が最高潮にあります。また半三殿が安祥清康が十八家から奪った家宝を取り返した事と、若から調略に使えと頂いた名刀がこちらに付く事の決定打になり申した。」
「何の不満も無くか?」
「宗家に忠誠を誓う親族は、岡崎に追いやったと。」
---マヂですか
---本当に三河奪れちゃうかも
「他に条件はなかったか?」
「大草氏と松平郷松平氏以外の家からあったのは、姓を本貫地名で名乗らせて欲しいと。また大草氏からは岡崎姓を、松平郷松平氏からは郷姓を、それぞれ名乗りたいと。」
「それは条件か?どうしても忠誠を見せたいから松平姓を捨てたいと言ってるようにしか聞こえないが?」
「まぁ、そうでしょうな。他の条件というものと言えば、親族に適当な女のいない家以外から側室で構わないので娘をもらって欲しいと。」
「それも忠誠を見せたいと言ってるだけだろ?なかったのか?正条植えを領地に施してほしいとか、石鹸などの産業を教えてほしいとか。」
「良いのですか?それを伝えれば、もはやこちらに付いて以降、裏切らなくなると思われますが。」
「三河では綿花も作るつもりだ。それに三河を奪れれば、三河を頂く。」
「ほぉ、五郎三郎様が三河に配置されると思っておりましたが?」
「勘がいいのぉ、駿河守。父はそのつもりだったろうよ。だが、同時進行で別の謀略を献じてきた。それは後で話す。」
「畏まりました。」
「橘内、松平十八家の事は分かった。国人衆はどうか。」
「はっ、今川方は稲垣・天野・鵜殿・西郷・牧野・奥平・菅沼・吉良・鈴木でございます。対してこちらに着きましたるは戸田・内藤・安藤・久世・井上・高木・板倉・堀田・加納・松井・中条・土井・高力でございます。」
「大凡半数か、良い結果じゃな。あとは安祥家の譜代か。流石に全てとは言うまい?」
「はっ、酒井・石川・青山・鳥居・長田・平岩は全て従うと。阿部・植村・本多・渡辺からは、阿部備中守、阿部四郎五郎、植村土佐守、本多彦八郎、本多作左衛門、本多彌八郎、渡辺源五郎左衛門が従うと。」
「ん?安祥七家では大久保以外か?譜代二十三家のうち十八家がのぉ。しかも阿部四郎五郎は傅役大蔵忠吉の弟じゃろ?安祥広忠は、本気で何しとるんじゃろな?三河者は頑固者で律儀者と聞いた気がするし、三河に来た松平家祖による繁栄を宗家なら再現出来ると信じているのではなかったか?のぉ、半三。」
「根はそうでしょうな。ならば、若の言われたように心を攻めて、根を抜けば良いだけの事。仕込みは二年もあったのです。安祥側にも譜代側にも国人衆にも松平十八家にもこちらに付いた方が良いと思うように誘導いたしました。」
「ほぉ、流石よな。半三・橘内・弥四郎は、勘助・宇駿・工藤らを連れてきた大功もある。望みはなるだけ叶えようぞ。あ、人質とか要らんぞ。お主の忠誠は疑っておらん。それと側室もじゃ、松平十八家から二十数人も来る。五歳児に何をさせたいのやら?きちんと伝えよ。『人質がおっても人は裏切る。私の元で学びたい、近臣にしたいという子を預かるだけ』とな。『側室も死産が少なくなる十六七までは手を付けんから、そのつもりでいるように』とな。」
「はっ」
「さて追加謀議じゃ。大和守家を今回の三河戦で消耗させ、五郎三郎兄上の大和守家相続に問題が出ぬようにしたい。大和守が死ぬともっと良いのぉ。ただし、伊勢守家は三河戦に参加させぬように。伊勢守家には武衛排除を企んで貰う為、三河を奪った後に煽りたい。どうじゃ?可能か?無理のない意見を出せ。」
「今回、暗殺はありですか?」
「いつも言うように無しじゃ。何十年後になるか分からんが、泰平の世が来た時にお主らの子孫がつまらん誹りを受けん為じゃ。ただし、自身の命を守る為なら正当防衛じゃ、その時は仕方ない。何か言われたら、私を通せ。私が責任を持つ。」
「ははーっ」
その後、流言や離間などその他諸々の謀議がなされ、解散となった。




