第十五話 伝説の・・・
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけると幸いです。
本文中に、主人公が名前の漢字変換を間違うシーンが今回ありますが、ルビに「・」を振ってる通り、あえてそうしてます。主人公の勘違いによって、ああいう話になったと理解して頂けたらありがたいです。
また、いつも誤字報告をしてくださる皆様、とても助かっております。自身でも確認はしておりますが、また間違うこともあるかと思います。その時はよろしくお願い致します。
土佐守と伊勢守に外で待ってもらい、大学允と美作守を伴って、行商人の借りているという空き家に向かう。支払いの為、見せられない事もあると土佐守らに断る際、土佐守ら四人は何処か遠くを見つめて疲れた表情をしていた。
なお、大学允と美作守の二人は、忠誠度も振り切った存在となったので、蔵の存在とその中にある天文学的な金銭については知らせてある。知っているはずなのに、行商人との会話にいちいち驚いていた。信じていないのだろうか?解せぬ。
行商人の借りた空き家の土間に茣蓙を敷いてもらい、銭二千四百四十貫を置く。千百十貫多いのは買わないと決めた一振りを除いて全部買う為だ。名刀は有って損は無い。中には後の世に何百貫の値がついたものもある。それは論功行賞の際、何千石の領地を与えるに等しい。数があっても邪魔にはなり得ない。
行商人と大学允ら、突然現れた銭に驚いている。やはり大学允と美作守は信じていなかったようだ。行商人が一生懸命銭を数えている間、大学允と美作守は目を閉じて拝んでいた。
---やめろ、神感が増す!
---ただでさえ、称号に熱田明神がつき
---加護が増えてしまったのに
中村村魔改造の際に、熱田の大神官千秋紀伊守に銭を融通してもらったせいで、中村村に多くの商人が来ていた。日に日に小さな平安京のように碁盤の目みたいな村が出来上がっていく様から、商人たちは私の事を「熱田明神」と囁くようになっていった。神名さえ口に出さなければ、加護はつかないと思っていたのに、称号から加護がついてしまっている。よく手紙をくれる男神の加護を。
そうこうしているうちに、行商人が数え終わったようで、刀を別の茣蓙に丁寧に並べ始めた。それに手を翳して蔵に納めていく。二人まだ拝んでいる。
---もう、無視だ
全て納め終えると、行商人に話しかけた。
「つかぬことを伺うが商人殿。また、尾張に来られる事はあるか?」
「へえ、また買っていただけるなら、こちらに伺いますとも。」
「さようか。ならば、某の御用商人としたいが、屋号や名はあるか?」
「いえ、ただの行商故、屋号は持ちませぬ。いずれはとは考えておりますが。」
「名は?」
「へえ、後兵衛と申します。」
---五兵衛か
---なら銭屋だろう
「ならば[銭屋]を屋号とせよ。名もそうだのぉ。この際変えてみては?利鞘を求めて行商をするのだ、[利左衛門]はどうだ。」
「畏まりました。これからは銭屋利左衛門と名乗りましょう。」
---やはり、言葉を改められるだけの素養はあったか
この行商人、話し方に統一感がなかった。私にどう接していいか分からなかったのもあるだろうが、こちらを試している感があったのだ。それに品揃えがおかしい。こちらに取り込んでおく必要がある。さらに言えばここには一人しか来ていないが、仲間がいるはずだ。正倉院にも忍び込めるほどのヤバい奴らが。
「ところで、そちの仲間はどこにおる?」
「ほほ、仲間とは?」
「多くは語れまいが、刀の品揃えは常軌を逸しておる。お主が代表ならば、直臣として全員召し抱えるぞ?」
「橘内や半三、弥四郎のように?」
空き家の周りに突如、数十の気配が生じた。影守たちの慌てた感情が伝わってくる。また、ごへえを名乗る男の存在感が変わった。何故か、頭に「役小角」という言葉が浮かぶ。
---なるほどそう来たか
古の時代に、役小角という人物がいる。前鬼後鬼従え、天皇家に叛旗を翻した山窩の者と伝わる。役小角は修験道の祖とも言われ、数多の伝説がある。修験道の祖という事は、忍びの祖とも言える。ならば、忍びの頭領と言えど、子も同然。呼び捨てにも出来よう。
「失礼した、名の通った方であったか。」
「鑑定はせぬのか?」
---鑑定を理解しているだと?!
---神か役小角本人か?
「葛木山の一言主をも折檻される方に通じる力とは思っておりませぬ。」
「ふむ、及第点かの。良かろう、今憑依しておる後兵衛・・・今は利左衛門か。元は後鬼だった者の裔よ。それはそのまま家臣とせよ。外におる叢雲衆は鬼衆の裔。これらもくれてやろう。前鬼の裔から後日繋ぎが行くようにしておこう。これからも面白おかしな者である事を祈るぞ。」
《称号「鬼遣いの後継者」を得ました》
何を気に入ったかは分からないが、ここは異世界なのだとまざまざと思わされた。自重するつもりは無いものの、神ではないが超常の者からの接触があるとか考えもしなかった。ゲーム感マシマシとか思っていてはいけないのだろう。いや思っていても良いが、その度にあんな超常の者に会うのは勘弁願いたい。
「はえ?坊丸様、今何かありました?」
「気にしなくて良い。疲れるだけだから」
「はぁ。まぁ、良いか。この利左衛門、生涯尽くしましょう。」
「頼むぞ、今後も外の叢雲衆と名物を手に入れたら、持ってきてくれ、刀でも掛軸でも焼物でも書物でも何でも良いから。」
「ははっ」
なお、大学允と美作守は気絶していた。




